↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
豊臣秀次太閤記  作者: とこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/13

第2話 十四歳の棚卸し

勝った軍は、もっと明るいものだと思っていた。


 天正十年六月十三日。


 山崎の戦いは、羽柴軍の勝利に終わった。


 明智光秀の軍勢は崩れ、敗兵は京や近江へ向かって逃げている。羽柴の旗が街道を埋め、兵たちは口々に右府様の仇を討ったと叫んでいた。


 けれど、戦場に勝者と敗者の境目などなかった。


 田の畦に、羽柴方の足軽が倒れている。そのすぐ先には明智方の兵がうつ伏せになり、二人の血が同じ水路へ流れ込んでいた。


 折れた槍。踏み潰された苗。泥の中へ散った銭。


 風が吹くたび、鉄と糞と血の臭いが混じった。


「若殿、手を離してくだされ」


 爺に言われ、自分が負傷兵の腕を握り続けていることに気づいた。


 歳は、今の俺とさほど変わらない。


 羽柴の兵だった。二の腕を深く斬られ、血が止まらない。傷口へ押し当てた布は、とっくに赤黒く染まっていた。


「離したら、また出る」


「この爺が代わりまする」


「爺はほかを見てくれ」


「若殿」


「命令じゃない。頼んでいる」


 爺が渋い顔をした。


 それでも立ち上がると、近くにいた兵へ怒鳴った。


「ぼさっとするな! 戸板を持って参れ! 息のある者から寺へ運ぶぞ!」


 怒声を浴びた兵たちが動き始める。


 俺が同じことを叫んでも、こうはいかない。


 姫路を出てから四日。俺に槍を持って前へ出る役目は与えられていなかった。後陣について歩き、勝敗が決したあと、負傷者を拾う役が回ってきただけだ。


 その四日のあいだ、俺は同じことを何度も見せつけられていた。


 十四歳の宮部次兵衛尉が何か言うより、五十を越えた将右衛門が一喝する方が、兵も馬も早く動く。


 悔しくはなかった。


 悔しがる資格すら、今の俺にはなかった。


「若殿」


 常陸が膝をついた。


「この者、名を申せぬようにございます」


 負傷兵は唇を動かしたが、声にならなかった。


 腰に下げた木札も割れている。


「同じ組の者は」


「散っております。具足の印から、おそらく蜂須賀勢かと」


「おそらく、か」


「確かめまする」


 俺の言葉を責めと受け取ったらしい。


「違う。分からないなら、それでいい。元気になったら本人に聞こう」


「生きれば、でございますな」


 常陸は淡々と言った。


 少年兵の顔から血の気が引いていく。


 俺は布を押さえる手へ力を込めた。


 歴史の本には、山崎の戦いで秀吉が勝ったと一行で書いてある。


 その一行の下に、目の前の少年の名はない。


「次だ! 息のある者はこっちへ運べ!」


 爺の声が響いた。


 戸板が届き、兵を乗せる。俺が手を離すと、常陸が新しい布で傷を縛った。


「強すぎると腕が駄目になる」


「緩ければ、その前に命が駄目になりまする」


「……そうだな」


 正しそうな知識はあっても、この場でどこまで締めればよいのか、俺には分からない。


 常陸の方が、よほど多くの傷を見ていた。


 負傷兵が寺へ運ばれていく。


 立ち上がったとき、少し離れた民家から女の悲鳴が聞こえた。


「お許しを! それだけは!」


 爺が振り向いた。


 俺たちは同時に走った。


     ◇


 軒先で、羽柴方の兵が女を突き飛ばしていた。


 男は片腕に小袖を何枚も抱え、もう一方の手で米の入った袋を引きずっている。女は幼い子を背にかばいながら、袋の端をつかんでいた。


「放せ!」


 兵が女を蹴った。


 次の瞬間、爺が男の襟首をつかみ上げていた。


「どこの組の者じゃ!」


「な、何をなされる! 我らは戦に勝ったのだぞ!」


「勝てば百姓の米を盗んでよいと、誰が申した!」


「これは分捕りだ!」


「敵の陣でもない。村の家じゃ!」


 爺が男を地面へ投げた。


 小袖が泥の上へ散る。


 近くにいた羽柴兵が足を止め、こちらを見ていた。一人を罰すれば済む空気ではない。


 家々の戸は閉ざされている。だが破られた戸口が幾つもあり、道には割れた椀や空の籠が転がっていた。


「盗った物を戻せ」


 俺が言うと、地面の兵がこちらを睨んだ。


「若造が」


「聞こえなかったか」


「こっちは備中から飲まず食わずで走り、今日も命を懸けた! 褒美は後だ、飯も足りぬ、なら何を食えという!」


 返す言葉が一瞬遅れた。


 兵はそれを見逃さなかった。


「殿様の身内は、腹が減らぬらしいな」


 周囲から低い笑いが起きた。


 腹が立った。


 だが男の頬はこけ、唇は乾いている。片方の草鞋は縄だけになっていた。


 この男が盗人だから腹を空かせているのか。


 腹を空かせたまま戦わせたから、盗人になったのか。


 俺には分からなかった。


「盗みは盗みだ。だが、食わせなかった責任は別にある」


「誰が取る」


「俺が――」


「若殿」


 爺の声が飛んだ。


 そこで止まった。


 姫路でも、俺は自分の持ち物を売って払うと言った。だが、ここにいる兵すべての飯代を十四歳の俺が払えるはずがない。


 責任を取ると言えば格好はつく。


 果たせなければ、ただの嘘だ。


「……この場で、俺一人には取れない」


 兵の顔に嘲りが浮かんだ。


「だから、取れる者へ話す。その米を置け。代わりの飯を必ず持ってこさせる」


「いつだ」


 姫路で爺が俺にしたのと同じ問いだった。


「日暮れまでだ」


「来なければ」


「そのときは、俺の陣へ来い。宮部次兵衛尉が逃げたと、皆の前で言えばいい」


 兵は黙った。


 爺が襟首から手を離す。


「組と名を申せ」


「……蜂須賀勢、井上組。又六」


「常陸」


「書きました」


「小袖も戻せ」


 又六は散った小袖を拾い、女の前へ置いた。女は礼を言わなかった。子を抱き寄せ、俺たちを兵と同じ目で見ていた。


 当然だった。


 俺たちも、勝った軍の一員だ。


「若殿、飯の当ては」


 歩き出してから、常陸が小声で聞いた。


「ない」


「よい御返事にございますな」


「叔父上へ頼む」


「断られましたら」


「爺に借りる」


「なぜワシが」


 姫路と同じやり取りになった。


 爺は鼻を鳴らしたが、少しだけ口元を緩めた。


「まず小一郎様をお探しくだされ。爺の懐は、若殿がお考えになるほど深くございませぬ」


     ◇


 秀長は、寺の本堂を負傷者へ明け渡し、自分は裏の小部屋で諸将からの報告を受けていた。


 俺たちが着いたときも、三人の使者が戸口に並んでいた。


「叔父上」


 声を掛けると、秀長は書状から目を上げた。


「次兵衛か」


 顔も具足も泥だらけだった。秀吉の弟として勝利を喜ぶ暇などないらしい。


「何じゃ、その袖は」


 見れば、負傷兵の血が肘まで染みている。


「怪我人を運んでおりました」


「お前が運ばねばならぬほど、人がおらぬのか」


「人はおります。ただ、皆、別の怪我人を運んでおります」


「そうか」


 叱られもしなかった。


「叔父上、兵へ飯を出していただきたい」


「必要な分は出しておる」


「足りておりませぬ」


「知っておる」


「では」


「米が歩いてついて来るなら、わしも苦労はせぬ」


 秀長は筆を置いた。


「何人じゃ」


「まず一人。ですが、村で盗みを働いた者がおるのです」


「その一人へ食わせれば、我先にとほかの兵たちも列をなすぞ」


「並ばせればよろしい」


「そもそもどこから米を出す」


 答えられなかった。


 秀長の目は穏やかなままだった。


「次兵衛。正しいことを言うだけなら、その辺の童でもできる。兵へ盗むなと命じるなら、盗まずに済むものを用意せねばならぬ」


「はい」


「用意できぬなら、どこまで禁じ、どう罰で縛るかを決める。汚いがそれが軍を預かる者の役目じゃ」


 反論できない。


「ですが、見逃せば村が飢えます」


「ゆえに、見逃せとは申しておらぬ」


 秀長が一枚の紙へ何かを書き、判を押した。


「近くの陣から粥を回させる。足りぬ分は、明朝まで待たせよ。盗った物を返した者から食わせる。ただし、刃を向けた者は別じゃ」


「ありがとうございます」


「礼は要らぬ。飯を出すのが軍を預かる者の務めじゃ」


 紙を受け取ろうとすると、秀長は手を離さなかった。


「次兵衛」


「はい」


「姫路の帳面のことも、今のお前のことも、あとで聞く」


 静かな声だった。


「逃げるなよ」


「逃げませぬ」


「ならば、日暮れまでは働け」


 ようやく紙が渡された。


 俺たちは又六を捜し、約束どおり粥を食わせた。


 同じように盗んだ物を抱えた兵が、夕暮れまでに二十三人並んだ。


 全員が反省したわけではない。


 粥が欲しくて返しただけの者もいる。それでも家々へ戻った財はあった。


 俺は、それを成功と呼んでよいのか分からなかった。


     ◇


 夜半、秀長の小部屋へ呼ばれた。


 爺と常陸は戸口で止められた。


「ここから先は、次兵衛一人じゃ」


 秀長に言われ、二人が俺を見る。


「外で待っていてくれ」


「若殿」


「大丈夫だ」


「大丈夫でなければ、お呼びくだされ」


 爺は真顔だった。


「叔父と甥の話だぞ」


「叔父上でも、若殿を斬らぬとは言えなかろう」


「爺!」


「わかりました。外におりまする」


 秀長が、わずかに笑った。


「よい家臣を持ったな」


「はい」


「じゃが前から持っておった。お前が気づかなかっただけじゃ」


 胸へ刺さった。


 部屋へ入ると、秀長は俺を灯明を挟んだ向かい側へ座らせる。


 床には、三つの物が置かれていた。


 姫路から持ってきた帳面。


 俺が負傷兵の名を書かせた紙。


 粥を出すため、秀長が押した判の控え。


「ひとつ、改めよう」


 秀長が言った。


「何を、でございますか」


「お前じゃ」


 灯明の火が揺れた。


「宮部次兵衛尉吉継。十四歳。姉上の子ゆえ、兄者にとっては大事な甥。宮部継潤殿の養子ではあるが、まだ一城一国を己の采配で治めたことはない。戦で名のある首を取ったこともない。家臣と呼べる者は、将右衛門と常陸介くらい」


 短い言葉で並べられると、今の俺には何もなかった。


「その次兵衛が、目を覚ました途端、右府様御生害の報せを受け、兄者が備中から戻ると読み、兵のために米と水を集めた」


 秀長の指が、姫路の帳面を叩く。


「今日は敗兵を助け、味方の盗みを止め、払える当てもない粥を約束した」


「最後のものは、褒められておらぬように聞こえます」


「褒めておらぬからな」


 即答だった。


「だが、自分で払えるふりをせず、わしのところへ来た。そこは姫路と同じじゃな」


 秀長が俺を見た。


「誰に習った」


 秀吉にも聞かれた問いだった。


「分かりませぬ」


「では、問いを変えよう」


 声から温かさが消えた。


「お前は誰じゃ」


 障子の外に爺がいる。


 呼べば入ってくるだろう。


 だが、逃げるなと言われた。


「宮部次兵衛尉吉継にございます」


「知っておる」


「秀吉様の甥です」


「それも知っておる」


「宮部継潤の養子です」


「・・・」


 秀長は俺の目をじっと捉えて逃がしてくれなかった。


「昨日までのお前は、帳面へ三行も目を通さなんだと常陸介が申しておる。将右衛門は、熱が下がってから若殿の目が変わったと申した」


 あの二人は、秀長へ隠さなかった。


 一瞬、裏切られたような心持ちがして胸が痛んだ。


 だがすぐに、それは違うと思い直した。


 二人は俺を守るため以前に羽柴を守るため、秀吉と秀長(保護者)へ嘘をつくとは約束していない。


 むしろ、俺が危うければ止めるつもりでいるだろう。


「夢を見ました」


 秀長の眉が、ほんのわずかに動いた。


「夢か」


「長い夢です。これから起こることを、遠い過去の事として眺めるような」


「山崎で兄者が勝つこともか」


「はい」


「なら、なぜ山崎の戦場へ無理やりにでもついてこなかった。勝ち馬に乗れるのだ、そんな楽なことはなかろう」


「どこで誰が勝つかは知っていても、矢がどこから飛んでくるかは分かりませぬ」


 秀長は黙って先を促した。


「夢の中で、秀吉様はこの先も勝ちます。叔父上が支え、今よりずっと高いところまで上ります」


「それはめでたい夢じゃ」


「私にとっては、そうとばかりも申せませぬ」


「なぜじゃ」


 喉が詰まった。


「私はその半ばで死にます」


「いつ」


「十三年後」


「誰に殺される」


 答えられなかった。


 秀長の手が伸び、俺の襟元をつかんだ。


 強くはなかった。


 それでも、十四歳の身体は簡単に前へ引かれた。


「兄者か」


 答えなかった。


 秀長の目から、血の気が引いていく。


「次兵衛」


「はい」


「夢であろうと、今の沈黙であろうと、兄者へ害をなすなら、わしはお前を躊躇なく斬る」


「承知しております」


「怖くはないか」


「怖いです」


 襟元から手が離れた。


「ならば申せ。誰が、お前を殺す」


「今は、これ以上申せませぬ」


「兄者を疑わせるだけ疑わせて、あとは黙るか」


「私が知っているのは、十三年後に死んだという結末です。誰がどこまでそれを望み、何が本当だったのかまでは分かりませぬ」


「お前自身の死であろう」


「夢の中の私であって、今の私ではございませぬ」


「面倒な話じゃな」


「私も、そう思います」


「ならば、なぜ申した」


「一人で抱えれば、また(前世と)同じことになると思ったからです」


 秀長が「また」という言葉へ反応した。


 それ以上は言わなかった。


 うまく説明できる言葉もなかった。ただ、秘密を一人で抱えて正しさにしがみつけば、ろくなところへは行かない。それだけは分かっていた。


「全部は話さぬ。されど、一人では抱えぬ。ずいぶん都合のよい話じゃな」


「はい」


「否定せぬか」


「できませぬな」


 秀長は長く息を吐いた。


「今宵の話だけで、お前を信じることはできぬ」


「当然です」


「夢を見たという話も、兄者へ取り入るための作り事かもしれぬ」


「はい」


「だが、少なくともお前は、分からぬことを分かるとは申さぬ。払えぬ飯代を、最後まで自分で払えるふりもしなかった」


 秀長が、床の三枚の紙を重ねた。


「続きは聞く。じゃが、今宵は無理じゃ。敗兵の行方も、負傷者の数も、兄者へ上げねばならぬ書状も残っておる」


「清洲へ来い」


 清洲では、信長と信忠を失ったあとの織田家をどうするか、重臣たちが話し合うことになっている。


「会議へは入れぬぞ。十四の養子に席はない」


「承知しております」


「入れとは申さぬ。そばにおれ」


「叔父上の?」


「兄者のじゃ。わしも離れられぬ。談合が済んだ夜に、今の続きを聞く」


「全部を、でございますか」


「十三年後に死ぬとだけ聞かされて、よく眠れると思うか」


「申し訳ございませぬ」


「謝るくらいなら、初めから申すな」


「あとで聞くと仰ったのは、叔父上です」


「十三年先まで聞かされるとは思わなんだ」


 秀長は姫路の帳面だけを俺へ返し、残る二枚は自分の手元へ置いた。


「清洲まで逃げるなよ」


「逃げませぬ」


「ならば今夜は、それでよい」


「もう一つ、お願いがございます」


「申せ」


「姫路で借りた水と米と草鞋の支払いに、叔父上の御判をいただきたい」


 秀長は、しばらく俺の顔を見た。


 それから声を立てずに笑った。


「天下の行く末を語った口で、村の借り物か」


「先に約束しましたので」


「常陸介に明細を持ってこさせよ。足りぬ分は兄者の勘定へ回す」


「ありがとうございます」


「ただし、一文でも誤魔化せば、お前の分から引く」


「私には、まだたいした分がございませぬ」


「ならば将右衛門から引く」


「それは良い案ですな」


 思わず言うと、障子の外で大きなくしゃみが聞こえた。


 秀長が、今度こそ声を上げて笑った。


     ◇


 部屋を出ると、爺が腕を組んで待っていた。


「ずいぶん長うございましたな」


「聞いていたか」


「何のことでございましょう」


 常陸は爺の隣で、何も聞かなかった顔をしている。


「常陸。姫路で借りた物の明細を叔父上へ。支払いの判をもらえる」


「すでに用意しておりまする」


「早いな」


「若殿が小一郎様へ頼みに行かれた時点で、ほかに御願いできるものもございませぬので」


「俺は、そんなに分かりやすいか」


「はい」


 常陸の返事には、一瞬の迷いもなかった。


 爺が俺の顔をのぞき込む。


「それで、小一郎様は若殿をお斬りになりますか」


「今夜は斬らないそうだ」


「今夜は」


「話の続きは、清洲で、と」


 爺の眉が寄った。


「清洲で何をさせるおつもりで」


「会議には入れるな、ただし殿のそばにいろと」


「つまり、お邪魔だけはなさるなと」


「そこまで言われていない」


「御意はよく伝わりまする」


「爺、お前は誰の家臣だ」


「若殿の家臣なればこそ、分かりやすく申し上げております」


 俺たちは三人で、負傷者を収めた本堂へ戻った。


 昼に腕を押さえた少年兵は、まだ生きていた。


 名は弥助。蜂須賀勢ではなく、堀秀政の手勢だった。


 常陸の見立ては外れた。


「申し訳ございませぬ」


「生きて本人に聞けた。今はただそれでいい」


 弥助は目を閉じたまま、かすかに何かを言った。


 耳を寄せる。


「……勝ったのですか」


「勝った」


「なら、よかった」


 それきり眠りへ落ちた。


 勝てば、すべてがよくなるわけではない。


 それでも、この少年にとっては、仲間が負けなかったことが救いなのだ。


 俺は、その勝利を否定する気にはなれなかった。


 寺の外では、まだ兵が行き交っている。光秀を追う者、死者を運ぶ者、飯を探す者、勝鬨を上げる者。


 同じ勝者の中に、いくつもの違う事情があった。


 俺は今夜、十三年後に死ぬと叔父上へ告げた。


 誰に追われ、なぜ死ぬのか。妻や子供たちがどうなるのか。叔父上自身に残された時がどれほど短いのか。


 肝心なことは、何一つ話していない。


 清洲へ着けば、今度こそ続きを求められる。


 正直、今すぐにでも逃げたかった。


 それでも、話さずに一人で十三年を迎える方が、もっと怖かった。


 俺にあるものを、頭の中で数えた。


 十四歳の身体。


 まだ自分のものとは思えない宮部の名。


 結末だけがところどころ見える、頼りない夢。


 爺と常陸。


 そして、俺をまだ信じてはいないが、続きを聞くと言った叔父が一人。


 何もないと思っていた。


 けれど、一人ではなかった。


 今は、それがやけに俺の胸の内を慰めた。


お読みいただきありがとうございます!


初めて書く小説なので、たぶん文章も構成も試行錯誤しながらの連載になります。

「そこ違うぞ」「この人物もっと見たい」などあれば、やさしく教えていただけると大変助かります。作者がすぐ調べに行きます。


戦国時代は大好きなので、史実はできるだけ調べつつ、

「豊臣秀次が生きていたら豊臣家はどうなったのか」

というIFを楽しんで書いていくつもりです。


完璧な歴史再現というより、史実と史実の隙間で「これならあり得たかも」と遊ぶ作品として読んでもらえたら嬉しいです。


毎日18時更新予定です。


なお作者も秀次と一緒に成長予定です。

次話もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
淡々と畳み掛けるように続いて勢いがあり、いい文章だと思います。秀次が幸せになれる展開を期待します。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。