34.ミラの病の秘密
ミラの病、『減少の病』がわかってから、もうすぐ1年ちかくが経つ。
最初病気がわかったとき、余命1年と言われていた。だが、1年が経とうとしている今、ミラローズは体調が悪くなってはいなかった。
ミラは、悪くないからこそ見てもらうことがなかったわけであるが、さすがに1年と言われていた『余命の1年』が経とうとしている今、自分がもう少し生きていけるのか、それとも死ぬのか純粋に気になった。
「⋯⋯ノア様。病気どうなっているのか気になるんです。余命1年と告げられてからもうすぐ1年が経ちます」
「⋯⋯そうだね。見てもらってないの?」
「はい。⋯⋯1年だと言われて覚悟していたんです。だから見てもらおうとも思わなくて。それにノア様のお陰で体調も悪くなくて、気にしてなかったんです。でも、思い出して⋯⋯」
そう最初は覚悟していたミラだけど、ノアの止まらぬ愛と幸せな出来事の多さに生きたいと思うようになっていた。
「⋯⋯そうか、それなら今診てもらおうか」
すぐに医者を呼び寄せて貰った。以前にも診てもらった王城専属医師だ。
呼び寄せた医者に診察してもらった。今回は特に症状等は話していないが、魔力の値を測定する。
結果を見た医師は驚愕して、顔を青ざめている。
「⋯⋯ありえないっ。こんなこと⋯⋯医学上⋯ありえない」
「先生⋯⋯? どこか悪い所でも⋯⋯?」
不安げに尋ねるミラの小さな手を、隣にぴったりと寄り添いノアがぎゅっと握っている。
医師の脳裏に、半年前の診察した時の記憶が鮮明に蘇っていた。
あの時、ノア殿下の魔力過多は劇的に改善していた。一方でミラローズ様の減少の病は「悪化はしていないが余命1年」。二人が何をしたのか尋ねても、ノア殿下に『口が裂けても今は言えない』とはぐらかされたのだ。
(あの時は、現状維持が精一杯だと思っていた。だが、最初に宣告されたという『余命の1年』が経とうとしている今……ミラローズ妃殿下は衰弱するどころか、魔力の数値は半年前見た時よりも遥かに跳ね上がっているのはどういうことだ!?)
確信を得るために、医師はミラの魔力の核を深く精査する。
減少の病は魔力を自らの生み出せなくなり、枯れていき死に至るという病だ。特効薬などは存在しないはずだ。
だが、今満たしているミラローズの魔力核を満たしている膨大な魔力は彼女自身のものではないようだ。この魔力の波長は――。
「⋯⋯ノア殿下。半年前には気が付きませんでしたけど、ミラローズ妃殿下自身の魔力も核の底の方に少し残っていますが、今彼女の体を満たしている魔力⋯⋯これはあなたのですよね?」
隠す必要のないと判断したノアは冷徹な声で、「そうだ」と短く告げた。
医師は納得が言ったように、深くため息を吐きだした。
「そうですか⋯⋯。ミラローズ様は、伯爵令嬢時代に余命1年と言われたとおっしゃいました。それから半年経って私が診察した際も、ミラローズ様状態は『余命1年程』で変わっていなかった。半年経っても余命が減っていないなど、本来ならあり得ない話だったんです。⋯⋯あの時は殿下にはぐらかされてしまいましたが、今のを聞いてようやくすべての辻褄が合いました」
医師の目は、医学の常識を超えた奇跡に驚愕と、二人の深い絆への敬意の目をしていた。
「特効薬が存在しない『減少の病』の空の核に殿下の溢れる過多な魔力を直接流し込み、満たし続ける。その行為自体が、ミラローズ様の命を繋ぐ世界で唯一の『薬』だったのですね。⋯⋯ですが、ノア殿下、ミラローズ妃殿下」
医師の表情が一転し厳しいものに変わる。
「これは『完治』ではありません。ミラローズ妃殿下ご自身の魔力核は治ったわけではない。つまり⋯⋯魔力の提供を辞めてしまえば、待っているのは以前と変わらぬ『死』です。ミラローズ妃殿下が生きていくためには、これから一生、ノア殿下から魔力を貰い続けなければならないです」
「そんなことは、百も承知だ。私は一生をかけて、ミラに捧げ、幸せにすると誓っている」
ノアは迷いなく言い放ち、愛おしそうにミラを見つめた。医師は二人の深い覚悟に一礼し、静かに診察室を後にした。
静かにパタンとドアが閉まる。
部屋に残されたミラローズは、自分の体を巡る温かい魔力を愛おしく感じていた。
完治はしない。ノア様の魔力がなければ、私は以前と変わらず待つものは死。
お医者様から告げられた言葉はあまりにも重い現実のはずなのに、ミラの心には不安や恐れは不思議とひとつもなかった。
(だって、今、私は心も体も、こんなにノア様の魔力で満たされているんだもの⋯⋯)
少しでもノアの負担を減らせたらと、ずっと本を読み漁り、この『減少の病』について調べ続けてきたミラ。その中で、ただの口付け(キス)以外の、もっと効率よく、より深く魔力を分け合う方法を見つけていた。
そして、その『口付け以上に愛し合う方法』は――すでにノアによって実証済みだ。
思い出すだけで顔がカッと熱くなるような、新婚の初夜の甘い濃密な記憶が脳裏をよぎる。
「ミラ」
ノアが優しく、隣に座るミラをその大きな腕で引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。
その腕はわずかに震えていて、彼がどれほどミラを失うことを恐れているかが伝わってくる。
「医師は一生魔力を貰い続けなければならないと言っていたが、そんなの当たり前だろ? 俺の魔力は、すべてお前を生かすためにあるのだから」
「ノア様……っ」
ミラは愛おしさを噛み締めながら、彼の背中にそっと手を回して抱き返した。
「だから⋯⋯これからも毎日、欠かさず『薬』を補給しなくちゃね? もちろん、夜の、もっと深い『薬』も含めて、ね?」
「ひゃ、ノア様……っ!?」
座っていたソファに押し倒し、ノアは嬉しそうに目を細めイタズラな笑顔を向け、真っ赤になった愛しい妻の唇に、優しく、そして深い口付けを落とすのだった。




