番外編4 ルーカスの怒りとノアの溺愛
婚姻が事実上夫婦となった翌日。四六時中ノアはミラから離れなかったのだが、あまりに可愛いすぎるミラにグラッと感情は簡単に揺れ動いていた。
だが、事実上夫婦とはいえ、やらかした直後である。必死に理性を抑えていた。
「ルーカスー!!」
「⋯⋯なんだよ(⋯⋯くそ、何しに来たこいつー! 俺はまだお前に怒ってんだよ!)」
一緒に居すぎると限界迎えてしまうので、ルーカスの所へやってきたのだった。
「聞いてくれよ〜、ほんとにミラが可愛すぎてやばい。俺の理性がとぶ」
「⋯⋯何言ってんだ。バカ。もう飛ばしてたじゃんか」
「そうなんだけど! それはマジで反省してるって。そうじゃなくて、本当にミラが⋯⋯」
まだ、怒りの収まりきらない相手からのまさかの惚気を聞かされている状況に深いため息をつく。
「⋯⋯お前、ずっと思ってたけど、それをよりによって俺に話すのかよ!」
「えー、いや、他に話せるやついないじゃん」
「⋯⋯ハァ。ミラが可愛いのは知ってるわ! 俺に話に来んな!」
まだ、ちゃんと認めたくなくて怒ってるルーカスはちょっとは聞いやるが、でも、まだイラッとしてしまう。
「ハァ、義兄さん冷たい。⋯⋯でもおかげで少し頭が冷えたわ。ミラのところに戻ろう」
「誰が『義兄さん』だ! やめろ! 頭冷やすのに俺を使うなっ!!」
一つ一つのノアの言動に(あいつ、本当にムカつく⋯⋯っ!)と思ってしまう。
――しかし!
ノアの「限界避難」は翌日の、1日だけでは終わらなかった。
「ルーカス聞いてくれ、昨日魔物討伐に行く時心配そうな顔で服をギュッて握ってきて見つめてくるのが、本当に可愛くて、吹っ飛びそうだった⋯⋯。でも耐えてキスだけにしといたんだ」
「⋯⋯知るか! さっさと戻れバカ」
「ルーカス、俺、あいつが可愛すぎて本当に爆発しそう! 今日は――⋯」
「お前、毎日毎日、俺のところに来やがって! 冷水代わりに使うんじゃねぇ!」
それから毎日、正式な婚姻の日迎えるまでの間、ノアは毎日ルーカスの元へやってきては『我慢』の日々をブツブツと話しては帰っていくことを繰り返した。
ルーカスはイライラしつつも毎日惚気を聞かされ続けたのだった。
何日たっても、何週間たっても、ノアは本当に1日欠かすこともなく惚気に来ては、眉間に皺を寄せながらも、必死に『我慢』の惚気を喋り続けるのだった。
最初は呆れていた、やらかし男のいかりで激しく揺さぶられていたルーカスだったが――。
毎日必死なただの惚気を聞かされ続けたルーカスはその必死さに胸の奥につっかえていたものがスっと取れた感じがした。
(アイツ、あんな溢れるばかりの独占欲を、毎日ただ惚気けて来るだけで、正式な手順で誰よりも大切にするために、本当に我慢を最後までやりきりやがったんだな。やらかしていたくせにな笑)
ノアの、バカになってしまうどこまでも、独占欲の塊の裏にある、切実で誠実な思いに1番近くで毎日直撃してきたからこそ、ルーカスは結婚式を目前に控えたある日、心の中で深く納得するのだった。
(バカだけど、こいつになら、俺の大事な妹を任せられる。)
やらかし男への怒りの葛藤は、彼の積み重ねてきた耐えの日々によって、いつしかお兄ちゃんとして確かな信頼に変わっていったのだった。




