番外編3 事実上の婚姻後
国王陛下からの事実上の婚姻を承諾を得た、その日の朝。
ノアは抱き抱えてミラの私室へとは戻ってきた。
(ノアの方はルーカスに蹴り破られて扉が崩壊したので)
私室のソファに下ろされたミラはクッションに顔を埋めつつ頭を抱えた。
「⋯⋯もぅ⋯⋯ノア様の、バカぁー⋯⋯っ! あんな国王陛下の前で、何を言ってくれたんですかぁーっ!」
朝から王宮内での大騒ぎと、国王陛下の前で堂々と言い放ったノアの惚気の数々を思い出し、火が出そうなほど恥ずかしくて、一人悶々としていた。
そんな最愛の妻となった少女を見つめ、満足気に口端を釣り上げ、ミラの腰をグイッ力強く引き寄せ自分が椅子に腰掛けて膝の上へと閉じ込めるようにホールドしてしまう。
「⋯⋯ノ、ノア様⋯⋯っ!? ひゃっ?!」
「何を怒ってるんだミラ。国王陛下も、王妃も認めてくださったんだから、もう事実上夫婦だよ。法律も、制約も何も気にする必要もなくなったんだ」
腕の中にすっぽり収められた状態で、ハッと自分の格好を思い出し、パニックになった。朝飛び出してパジャマに上着を羽織った状態だっただけの無防備な姿だったからだ。
「⋯⋯ノア様、夫婦なんてまだ早いですよっ!⋯⋯それとさすがに着替えさせてくださいっ!」
「⋯⋯嫌だ。そのままでいいから、今日はずっと大人しくここにいろ」
「もぉ⋯⋯っ⋯⋯恥ずかしすぎます」
ミラが真っ赤になりながら抗議するも絶対に腕の中から離そうとしなかった。
それからは夜が訪れるまでの長い間、ずっとそのままの体制でイチャイチャと過ごしたのだった。
「ノア様、お昼です」「俺の腕の中で食べればいいし、俺が食べさせてあげる」「本が読みたいです」「俺がめくってあげる」
これまでは、公務の時間に縛られていた反動か、たっぷり時間のあるノアは愛する妻を囲いこんで、どこにも行かないようにぎゅーと離さず独占し続けるのだった。
◇
――夜。
ランプの灯りが灯る静かな寝室でノアの我慢の限界を迎えようとしていた。
長い間、無防備なパジャマ姿で、自分の腕の中に抱え込んでいた、その心地よい体温と一緒に甘い時間を過ごした、可愛すぎるミラの破壊力に、理性は崩壊しつつあった。
ベッドの上で枕をギュッと抱きしめて真っ赤な顔をしたミラの唇に、魔力提供でない、ただ愛おしいだけの妻へ深い口付けを何度も繰り返す。
「ノア、様⋯⋯っ!⋯⋯正式な結婚は、まだ、ですよ⋯⋯っ! ⋯⋯んぅっ!」
「⋯⋯わかってるよ。だから、一線は超えないよ」
ミラの額に口付けを落とす。――誓いのキス。
でも、だからといって我慢をする理由にはならない。
衣服の隙間から滑り込ませた手が、ミラの華奢な素肌を優しく、愛おしげに愛撫し、その熱い肌の感触を確かめるようにゆっくりと這い上がっていく。
「ん……ぅ、んん……っ、ノ、ノア、様……っ」
額、頬、耳元、そして再び柔らかい唇へと、蕩けるような口付けを重ねらていく。キスだけのはずなのに、一日中囲い込まれていた熱のせいか、ミラの頭は甘く痺れ、抵抗するのも忘れてノアに縋り付くことしかできなくなっていく。
いつも以上に無防備な姿で自分に縋り、熱い吐息を漏らすミラの姿。その柔らかい滑らかな肌に、指先がギリギリのとこまで触れ、ノアはついつい、一線を超えてしまいそうなところまでいってしまう。
だが、ハッと我に返った瞬間、ギリギリのところで理性を踏みとどまらせる。
(――やばい、あぶな⋯⋯っ! これ以上は耐えられない⋯⋯っ!!)
一日中膝の上に乗せていたせて、イチャイチャしたせいで自分の理性はとっくに限界を超えていた。もしこのまま本能の向くままに、触れてしまえば、あの『本の方法』まで一気に突き進んで、間違いなく約束 (ミラとの)を破ることになる。(さっきの一線は超えないよと言うやつね)
「っ⋯⋯、は、⋯⋯っ」
ノアは強い意志をもって、ミラの唇から名残惜しそうに自身の唇を引き剥がした。
そのまま、まだ赤くなって小さく息を弾ませているミラの首筋へと顔を埋め、熱い呼吸を必死に整える。
「ノ、ノア様⋯⋯?」
「すまない、ミラ。⋯⋯本当に、お前が可愛すぎるのが悪いんだからな」
ノアは腕の中のミラをこれ以上ないほど愛おしげにぎゅっと抱きしめ直しながら、自身の胸の内で、明日からの地獄のような「我慢」を察して、静かに天を仰ぐのだった。
(⋯⋯これはダメだ。明日から毎日ルーカスのところへ行って、話を(惚気)聞いてもらわねば、本当に俺の理性がもたない⋯⋯っ!!)
こうして、氷の王子の「結婚式までの我慢の日々」が、新婚初日のあまりにも甘く、危うい夜と共に幕を開けるのだった。




