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番外編2-1 ノアの溺愛まで

「⋯⋯なぁ、ノア。俺いい方法思いついたんだけど」

「⋯⋯何? お前のその話はほんとにいい方法なのか疑問なんだけど」

「おいおい、もっと俺を信用してくれ。⋯⋯それなら、王子、私はあなたの魔力過多による暴走を止める手立てを見つけたかもしれません」

 俺は、公務の資料に目を通している目はそのままに返事を返した。リュカは難しい本を手にしながら声をかけていた。

「⋯⋯それで?」

「ノア様に私の妹を救って欲しいんです」

「⋯⋯⋯は?」

 わけも分からない話の内容に、資料に目を通していた手が止まった。俺は本を手にする秘書官と視線が合わさる。彼はいつになく真剣な、けれどどこか楽しげな笑みを浮かべてこちらを見ていた。

「実は妹が魔力減少する病に罹り、持ってあと1年もないんです。そこで調べた結果あなたの魔力過多は役に立つかもしれないんです」

「⋯⋯俺のメリットでもあるわけ?」

「はい。魔力過多による暴走を抑えられるかもしれません。そして妹は寿命を伸ばせるかも」

 リュカの真剣なその目には切実な妹思いな兄の顔をしていた。この表情は何度も見覚えがある。

「⋯⋯わかった。それで方法は」

「⋯⋯⋯口付けです」

 魔力が減少するという、めずらしい不治の病『減少病エンプティ・コア』を患ったという彼の双子の妹、ミラローズを救ってくれというのだ。俺の過剰な魔力が彼女のを救う手だてになるかもしれないと。

 その方法とは魔力を『口付け』によって明け渡す。それにより、彼女の命を繋ぎ、同時に俺の暴走をも防ぐというWin-Win な関係になるというのだ。

 だが⋯⋯。

「⋯⋯お前、それいいのか? 嫁入り前の女の子に俺が手を出すことになるじゃん」

 そうこの国の法律では嫁入り前の女の子に手を出すことは許されない。

「⋯⋯だから、ノア様、掛け合って欲しいんです。王に。俺の妹も救えて、ノアも救えるかもしれない。こんなWinWinなことある? 試してみてくれよ 」

「⋯⋯お前が自分で言ってくれ。俺も一緒に行くから」

 それから、ルーカスを連れて国王の元へと赴いた。彼が先程俺に言ったことと同じ内容を国王へ伝えた。そして俺と彼の妹が婚約者ということで話が固まった。

 しかもしっかり口付け以上のことをしてはならないと制約魔法までつけられてお土産つきでだ。

 そんなのしなくても、それだけなのに。

 その足でそのまま、俺はリュカに連れられて、初めてミラローズの元へと赴いた。

 初めて会ったミラは、余命一年未満と言われている通り、体調が著しく悪そうで顔色はかなり悪かった。

(……これが、リュカの妹か)

 妹に対するお粗末な説明で彼女が混乱しているのにツッコミを入れて分かりやすく説明をした。

 そうすると理解してくれた彼女の承諾で婚約者という正式に結ばれた。

 ルーカスの計らいで、その場で初めて、彼女の唇に自分の唇を重ねて、魔力を明け渡した。

 この時は契約のためのものだと割り切っていた。お互いが利害一致したWinWinなものだと。


 その最初の提供から、四日後。

 執務室に顔を出したリュカが、少し眉をひそめて俺に告げてきたのだ。

「ノア、ミラが体調が良くないらしいんだ」

「体調が良くない⋯⋯? 4日くらい経てばあの程度ならへるのか。⋯⋯」

 4日目にして魔力が減り体調に変化が現れるということは生きるために必要な魔力は一定量減ると死に至ることを考えたら提供量は変えずに3日に1度か。

 俺はリュカに向かって淡々と結論を告げた。

「3日に1度提供するのが良さそうだな」

 この時の俺は、ただの「効率的なスケジュール管理」のつもりで、三日に一度というルールを決めただけだった。

 まさか、その「三日に一度」の逢瀬を重ねるうちに、ただの治療行為だったはずの口付けが、三日どころか「片時も離したくない」と理性をログアウトさせてしまうほど、溺愛に変わってしまうとはこの時の冷徹な俺は、夢にも思っていなかったのだ――。


 そうルールを決めて魔力提供を始めてから、ミラの体調は良い日が続くようになっていた。

 そんなある日のことだった。それまでは部屋に引きこもりがちだった彼女が、侍女のクロエを連れて街へ買い物に出かけると報告を受けた。

 元気で出られるなら良かったと思った。引きこもりがちになっていた彼女が出られたということはいい方向に進んでるだろうと言うことだ。

 そうして、突如、街へ出かけていたはずのミラの侍女から通信機器に、連絡が入った。

『ノア様! ミラ様が、けが人の救護に……っ! あ、多分テロ事件が近くであって、走っていっちゃって! 私にノア様を呼べと言って。早く来て! ミラ様がっ!』

「――なっ……!?」

 慌てている侍女の連絡は俺が、王子だということを忘れてしまうくらいの焦りがあるのだろう。敬いの言葉遣いが無くなってしまっていた。

 浄化や癒しの能力を持つミラは、どうしても目の前の助けを必要とする人人々を放っておけなかったのだろう。

 だが、彼女の魔力は俺から借り受けているだけで、あくまでも彼女が『生きるため』の最低限の灯火だ。他人のために魔法を乱使すればどうなるか、本人が一番よく分かっているはずなのに――!

 俺はルーカスとともに馬車で駆け出し現場へと急いで駆けつけた。

 現場の惨状は凄まじかった。逃げ惑う人、それを必死に誘導しようとする人。その奥に必死に助けようとしているミラの姿があった。もう既に顔色が悪そうでそれでも必死に魔力を使っていた。

(あの、、馬鹿……!)

 見つけた瞬間無言のままルーカスに合図を送り、彼女の元へ急ぐ。

 近づいていった瞬間、彼女の身体がフラッと傾く。慌てて彼女のガシッと支えると不機嫌な顔で彼女を見つめた。顔はそらされている。

「⋯⋯ミラ。なにが言いたいかわかるよな? 」

 名前を呼ベば、反射的に目が合い頷く。俺が怒っていることを理解しているのであろう。冷えきった目で見つめている俺の目から逸らせなくなっている。立ち上がるとその人物を見ることなく指示を出し歩き出した。

「⋯⋯リュカ! あとは頼んだからな!」

「あぁ!」

 声掛けに応じたルーカスは、いつの間にか到着していた応援部隊の指揮を取り始めている。

 俺はミラを抱え上げ人目のつかない場所に停めてあった、乗って来た王族専用の馬車へ押し込み、自分も乗り込んだ。

「⋯⋯あの、ご、ごめんなさい」

「⋯⋯まだ、謝るくらいの元気はあるんだ? とりあえず魔力な」

 冷えきった声にミラは目が離せなくなったままの彼女に口付けを交わす。それと同時に魔力を流し込んでいった。いつも以上にしつこく流し込むと苦しさに推しのけようと抵抗を見せる。離してやると、肩で息をしながら顔を見つめてくるので、氷のようだと比喩される顔てに見つめ返せば、ミラは固まった。

「⋯⋯ミラ、お前の力はしってる。けど、今のお前は使ったらどうなるのかわかるよな?」

「⋯⋯はい。わかってます。それでも! ノア様なら助けに来ると思ってクロエに呼ぶように言いました」

「それで? この有様か。昨日だよな? 魔力あげたのは? それを全て使いきるほど、能力を使うとはどういうことだよ。俺が来るとしてもだ。ここまでする必要なかっただろ?」

「⋯⋯すいません。でも見過ごせないじゃないですか」

「ミラ、見過ごせなくても今の自分のことも考えてくれ。救いたい気持ちは分かるが、救う分だけ自分の命を削るだけだろ。心配する身にもなってくれ」

「⋯⋯⋯はい」

 返事を聞いて表情を戻した。

 ミラへの説教も済んだところで、戻ろうとした矢先に扉を叩く音。返事をすると

「王子殿下、至急連れてくるようにとルーカス様からです。あと、一緒にいるミラ様もとのことです」

「⋯⋯わかった。すぐ行く」

 彼女の口へ再びキスをして、魔力をまた流した。一緒に呼んだ意味に嫌な予感がしたからだ。先程よりも短く済ませると、現場に戻ると、ルーカスはしっかりと指示を出し指揮をとっていた。だがこちらに気がつくと待ってましたと言わんばかりの顔でこちらを見ていた。

「ミラ! 殿下、至急応援お願いします。⋯⋯癒し手の手が足りないみたいでミラはそっちを手伝ってくれ」

「おい。リュカさっき見てただろ」

「ですが、緊急事態らしくミラの手が、少しでも必要だそうです」

 ボソッと耳元で囁いて「⋯⋯⋯ミラ、5分だ。それ以上はやるな」と言った。

「わかりました」

 ミラの返事を聞くなり、キリッと切り替え向き直りリュカに状況を聞き尽力する。

 任務遂行し、5分たったと同時に彼女の方へ目を向ける。

「ミラ!!」

 またしてもフラッとしていた。すぐに受けとめて呼びかける。

 たが、意識を失ったようだ。


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