24.ノアの襲撃
王宮にある広大な図書館。その窓際にある机と椅子に座りミラローズは陽が差し込むスペースで本をめくっていた。
「たしか前に見た方法があったはず⋯⋯。――あっ、コレだ! やっぱりこの方法は⋯⋯」
見つけた記述は、たしかに効率は良く、魔力の持続性もかなり良い。長期間落ち着いた状態でいられる画期的な方法が書かれていた。だが、前に見た時も思ったけど、具体的な方法を読み進めるうちにミラの顔は赤くなっていく。
(この方法試す勇気は無いなぁー⋯⋯! そもそもノア様に話せない。とてもじゃないけど恥ずかしすぎて無理⋯⋯っっ!!)
火が出そうなくらい赤くなり、ひとりで悶絶していた。その時だった。
「――⋯⋯へぇー、この方法試してあげようか?」
「ひゃうっ⋯⋯?!」
突然、すぐ耳元で聞きなれた声が響いた。
驚いて振り返るよりも先に伸びてきた腕にできしめられる。
「ノっ⋯⋯ノア様?! いつからそこに?!」
本を隠そうとした手をするりと絡め取られ、本の内容はしれっと読み終えた、端正な顔立ちがニヤリと不敵に上がる。
「いつからって、『コレだ』って嬉しそうに声を上げたところからだけど。随分熱心に破廉恥なことを調べていたんだね」
「は、破廉恥⋯⋯ち、違います!! ただ他に方法あるのかと思って! あ、いや、その、治す方法を⋯⋯っ」
茹でダコのように赤くなり、アタフタと言い訳をするミラを、ノアは彼女の顔を至近距離からみる。その可愛さは愛おしくてたまらない。
ノアは絡めた手をグッと引っ張ると椅子からミラを下ろし後ろにあった本棚を背にミラを抱きとめると、彼女の顎を空いた手でクイッと上を向かせると、潤んだ瞳をまっすぐ見据える。
「俺の為にも、調べてくれたようだから、実践してみないとな。⋯⋯まぁ、長時間持続する方法は夜じっくり試すとして」
ノアはゆっくり顔を近づけていきながら、認識阻害の魔法をかける。
「まずはいつも通りの方法で、たっぷりと補充してあげる」
ミラの小さな抗議を飲み込むように唇を重ねる。人目のない図書館で熱い口付けを交わす。
ノアの底知れない魔力が、ミラの空っぽの器に注ぎ込まれていく。いつもなら少しだけで名残惜しそうに離れていくははずだった。
だが今日は違った。止まることをせずより一層に深く、貪るように唇を塞ぎ続ける。
「⋯んっ⋯⋯う、ん⋯⋯っ」
あまりの供給量の多さと、息苦しさで、頭が甘く痺れる。ようやく解放されたとき、ミラは腰が抜け立っていられずノアの腕の中へ崩れ落ちた。
「⋯⋯夜にじっくりと言ったけど、前言撤回。お前がそんな本見つけて、そんな顔で縋ってくるお前が悪い」
「⋯⋯え⋯⋯っ⋯⋯ひゃっ!?」
ノアの手が座り込んでしまったミラを逃がさないように囲いこみ、するりと襟元へ手を忍び込ませ鎖骨のラインを愛おしげになぞる。
「ノ、ノ、ノア様?!⋯⋯ここ図書館ですよっ、⋯⋯誰か来たらっ⋯⋯」
「⋯⋯問題ないよ、認識阻害の魔法をかけてあるから。それに――」
ノアは不敵に口角を上げ楽しそうに笑っている。
「アルトの奴が、俺をミラの元へ行かせるために、全てを引き受けてくれたからな。執務室で、今頃ルーカスと仲良く今後のことを話し合ってるよ。お陰で俺には時間がたっぷりあるんだ」
「そんな……っ、んぅ!」
ノアが容赦なく触れ、首筋に顔を埋める。
衣服の隙間から滑り込んでくるノアの手が、ミラの華奢な背中を愛おしげに愛撫する。
口付け以外の、あの本に書かれていた、提供の方法の「ほんの入り口」をなぞるような、あからさまで濃密な愛撫。
「全部、お前が悪い、あんな本を見てたのも、そんな顔するお前が。⋯⋯ミラ、今ここで全部、俺に暴かせろ」
いつもより低く掠れたノアの声が耳元に響き、ミラは恥ずかしさと快感で、今度こそ完全に頭が真っ白になってしまうのだった。
「そんな……っ、ノア、さま……ぁ」
衣服の隙間から滑り込んでくる大きな手の熱さに、ミラの華奢な身体が大きく跳ねる。
国の法律では、正式な夫婦関係にない者同士が、一線を越える破廉恥な行為に及ぶことは厳しく禁じられている。
いくら本当に婚約を結び、命を繋ぐための特例(口付けによる魔力提供)が許されているとはいえ、今のノアがしようとしている愛撫は、明らかにその法律の境界線を踏み越えかけていた。
――国法がなんだ。そんなものより、自分の病の治療法を調べ、真っ赤くになってアタフタしている目の前の婚約者が、あまりにも可愛すぎるのが悪い。
あまりの婚約者の可愛さに理性は完全に飛んでしまっていた。
ミラは恥ずかしさと、身体の奥から溢れる圧倒的な快感。
それらが一気に押し寄せ、ただでさえいつもより濃密な魔力供給で頭が痺れていたミラのキャパは、一瞬で限界を迎えてしまう。
「ん⋯⋯ぅ、あ⋯⋯っ」
最後はとろけるような深い口付けを交わされたその瞬間、ミラの視界は真っ白に染まり、恥ずかしさの限界をむかえ意識を手放してノアの腕の中で完全に崩れ落ちたのだった。
「⋯⋯ミラ?」
腕の中の愛しい婚約者が、ピクリとも動かなくなったことに気づき、ノアは我に返った。
真っ赤な顔のまま、気絶をしてしまったミラを見つめ、ノアはぽつりと呟く。
「⋯⋯あ、やりすぎた」
氷の王子と恐れられた男が、眉を下げて本気で頭を抱えた。
制限時間がないと、可愛すぎるミラは理性が効かなくなってしまう。彼女のキャパを越えさせてさせてしまった。流石にこれは、副官を降りたとはいえ、あのシスコンの兄に知られたら、今度こそ本気で刺されるかもしれない。
「⋯⋯すまない、ミラ」
ノアは反省しながら、ミラが起きるまでその小さな身体をぎゅっと自身の腕の中におさめ、愛おしげに抱きしめた。
――しかし、である。
腕の中で無防備に眠るミラの、少しはだけた襟元から覗く白い肌。ノアの手によって、落ちたその寝顔も愛撫でによて赤くなった素肌⋯⋯があまりにも可愛くて、ノアの「反省」は1分ともたなかった。
(⋯⋯起きるまで、まだ時間はあるかな)
ノアの瞳に、どろりとした独占欲が再び宿る。
他人の男の目がミラに向かないように、そして「お前は俺のものだ」と刻みつけるように、ノアはミラの白い首筋にそっと唇を寄せると、ちゅう、と少し強めに、綺麗なキスマークをいくつも吸い上げた。
「ん⋯⋯ぅ⋯⋯」
眠ったまま小さく身じろぎするミラが可愛くて、ノアはフッと満足げに唇の端を釣り上げる。
それからぎゅーと再び抱きしめて、しばらく待っているとようやくミラの瞼がゆっくりと開いた。
「⋯⋯う、ん⋯⋯。⋯⋯あれ、私⋯⋯?」
「気がついたか、ミラ」
視界がはっきりしてくると、目の前には、どこかバツが悪そうな、けれど酷く優しい顔をしたノアが自分を覗き込んでいた。ノアはミラの乱れた髪をそっと整えながら、小さな声で呟く。
「ごめん、ちょっとやりすぎだったね」
「へ⋯⋯っ!? や、やりすぎって⋯⋯っ」
言われた瞬間、気絶する直前のあの濃密な愛撫を思い出し、ミラは再び顔を真っ真っ赤にしてノアの胸に顔を埋める。
自分の首筋に、ノアが反省の裏でしっかりと刻み込んだ「消えない独占欲の証」があることには、ミラはまだ、全く気がついていないのだった。




