14、第二王子の登場
ここに来て第二王子の登場!!笑
静けさの中ページをめくる音だけが響く図書館でミラは相変わらず、病気のことを調べていた。
そこへ、扉を開け誰かの入ってきた、カツンと足音が近いてくる。
「ーーへぇ、君が兄上の婚約者、ミラローズ嬢?」
「⋯⋯はい。ミラローズ・フォークナーです。よろしくお願いいたします。あなたは、えっと?」
「僕を知らないだと?! 僕は第二王子のアルト・エヴァンズだ!」
初対等した2人。
アルトはここへ来る前、留学から帰ってきたことを国王(父)へ報告をした。すると彼は尊敬する兄に婚約者ができているという事実を聞いた。
衝撃を受けたアルトは、ミラローズと言うノアの婚約者を探す為、使用人へ聞いて回った。彼女はいつも一人で図書館にいると情報を得たので突撃訪問したのだ。
一方、ノアはいつも通り公務を行っていると、『アルト王子が帰国し、ミラローズ嬢を探し回っている』と言う情報を耳にした。
「⋯⋯リュカ、先にミラの所へ行ってこい。俺もすぐ行く」
秘書官であるリュカにかなり懐いている弟なので彼を向かわせることはいい刺激になると考えた。そんな考えも理解してかすぐに「了解」と返事を返し向かう彼を見送り、手元にある書類だけすぐに自分もミラの元へと向かう。
対等したミラローズと、アルト。
アルトの自己紹介を受け、ミラローズは初めて彼の存在を認識した。ノアへ弟がいることは知っていたが、会ったのは初めてだった。
「申し訳ありません。あなたがアルト様なんですね。王子殿下を知らないとは失念しておりました。失礼しました」
ミラは謝罪の言葉と共に慌てて頭を下げた。
「⋯⋯ふん。⋯⋯ん?待てお前フォークナーといったか?もしかしてルーカスの血縁者か」
「兄を知っているんですね! ルーカスは私の双子の兄です」
「ルーカスの⋯⋯双子の、妹⋯⋯!?」
アルトは目を見開き、絶句した。
(嘘だろ!? あの完璧で、僕が世界一尊敬している秘書官ルーカスの片割れが、この冴えない女なのか!? と言うか双子と妹がいたのか?!)
大好きなルーカスの妹なら、邪険に扱うわけにはいかない。しかし、同時に世界一尊敬する兄ノアの婚約者でもあるのだ。絶対に、素直に認めるわけにはいかなかった。
アルトはふん、と不自然に顎を引いて、ふたたび傲慢な笑みを作ってみせる。
「へ、へえ。ルーカスの妹ね。道理で、少しは賢そうな顔をしていると思ったよ。⋯⋯でも、それとこれとは話が別だ!」
アルトは頭が良い。感情論ではなく、彼なりの「王族としての正論」でミラを値踏みしにかかる。
「フォークナー伯爵家が名門なのは認めるよ。ルーカスがその実力で兄上の信頼を勝ち取ったこともね。⋯⋯だけど、君はルーカスじゃない。次期国王たる兄上の隣に立つ王妃には、強大な魔力、あるいは国益をもたらす圧倒的な外交手腕が求められるはずなんだ。風の噂では、君の魔力量は王族の伴侶としてはお世辞にも十分とは言えないそうだね。兄上の優しさに甘えて、その輝かしい未来に寄生するつもりなら、今ここで僕が、君にその資格があるかためさせてもらおう!」
理路整然と、頭の良さを武器にミラを追い詰めようとするアルト。
しかしミラは、彼が必死に虚勢を張っているのを見て、(⋯⋯お兄ちゃんが大好きなんだな。ノア様のことも大好きなんだな)と、完全に生温かい目を向けていた。
「⋯⋯おやおや、私の名前が出たと思えば、アルト殿下。帰国早々、私の可愛い妹に一体何をされようとしているのですか?」
静まり返った図書館に、冷ややかで、けれど聞き馴染みのある声が響いた。
「ひっ⋯⋯!?」
アルトの背筋が、恐怖でガタガタと凍りつく。
振り返ると、そこには書類の束を抱えたルーカスが、怜悧な微笑みを浮かべて佇んでいた。
その瞳は、アルトがこれまでに見たことがないほど、冷たく据わっている。
「ル、ルーカス⋯⋯! な、なんでここに⋯⋯」
「アルト殿下が、私の妹を探し回っていると聞いたんでね。⋯⋯殿下。ミラは今、非常に繊細な時期(※病気のことだが、アルトには過保護な意味に聞こえる)なのです。あなたが余計なちょっかいを出してミラに何かあれば私だけでなく、ノア様からも相応の仕返しが来ますがそれでもよろしいですか?」
「あ、、兄上からも⋯⋯?!」
アルトの顔から、みるみる血の気が引いていく。
ただの過保護な兄の戯言なら笑い飛ばせた。しかし、彼の顔は嘘をついていない。笑っているのに笑っていない、この顔は怒っている。そしてこれがノアからの怒りも含まれていることはアルトも十分に理解できる。
「うっ⋯⋯わ、悪かったよ! 僕はただ挨拶しようと思っただけで⋯⋯っ」
ルーカスの圧力にガタガタと震え入口の方へと1歩1歩後ずさる。彼の圧に気を取られ、アルトは背後の気配に全く気がついて居なかった。
「おや、ずいぶんと賑やかだね。私の可愛いミラローズの周りが、そんなに楽しいことになっているなんて知らなかったな」
その瞬間、図書館の重厚な空気の密度が、さらに一段跳ね上がった。
聞き馴染みのある、けれど心臓が跳ね上がるほどに気高く美しい声。
「あ、兄上……っ!」
アルトが弾かれたように振り返ると、そこには公務の書類を最速で片付けて追いかけてきた第一王子、ノア・エヴァンズが立っていた。
ノアは完璧な、極上の王子様スマイルを浮かべている。しかし、その背後に渦巻く黒いオーラ(過多な魔力の覇気)は、図書館の観葉植物を枯らさんばかりに吹き荒れていた。
「留学から帰るなり、私の愛しい婚約者にずいぶんと熱心な『挨拶』をしてくれていたようだね、アルト」
ノアはアルトを完全にスルーしてミラローズの隣へと歩み寄ると、その華奢な肩を優しく抱き寄せた。アルトがこれまで一度も見たことがないほど、とろけるように甘く、そして独占欲に満ちた目でミラローズを見つめる。それでも今にも暴走しそうな程の魔力は鎮まりそうにない。
「⋯⋯ミラ、ちょっとノアの魔力鎮めてやってくれない? そのままだと話にならない」
兄に言われたが、このドス黒いオーラを放ちつつミラに対しては優しい笑みを向けるこの男を止める方法は『兄の魔法か、自分が魔力を貰うか。』だが、兄が止めろと言ったということは自分は魔法使う気がないということだろう。
初対面の第二王子がいる前でしたくないのだが、する以外に方法は無いと悟った、ミラはノアの頬に手を添え、口付け魔力を吸い取った。
落ち着いていくとノアはふっと表情を和らげ、放っていた魔力を鎮め彼女の髪に愛おしそうに口づけを落とした。
その様子を目の当たりにしたアルトは、あまりの衝撃に言葉を失う。
(あ、あの冷徹で完璧な兄上が……あんなにデレデレして、髪にキスまで……!? 何、この甘い⋯感じは)
頭の良いアルトは即座に察した。兄ノアはミラローズを、ビジネスではなく、本気で、骨の髄まで溺愛しているのだと。
「これで頭のいいお前ならわかるよな? ノアの本気を」
秘書官ルーカスの言葉にミラローズから視線を戻したノアの瞳が一瞬で絶対零度の氷へと変わる。
「ひっ……! は、はい! わかります!! 失礼しますッ!!」
大好きなルーカスからの冷たい目と、世界一尊敬する兄ノアからのガチの威圧感を同時に浴びた第二王子は、悔し涙をグッと堪えながら、脱兎のごとく図書館から逃げ出すのだった。
ミラローズは(お兄ちゃんとノア様が大好きな、可愛い弟くんなんだな……)と、去っていくアルトの背中を生温かい目で見送るのだった。




