11.婚約者はただ一人です。
送り届けられてからは王城の王太子妃専用と言うミラの部屋に泊まり込んでいた。
それも、ミラを殿下が軟禁状態にしているからのようだ。限られた人間しか入れないようで、入れるのは、クロエはもちろん、殿下と兄ルーカスのみのようだ。護衛すら入ることはなく、扉の外で待機している。ミラ本人は出られないようにしてはあるものの読みかけてた本、読みたい本がそれぞれすべて用意されているし、なんの不自由はない。
あの婚約者と名乗る令嬢から守るための、シスコン気味のルーカスと最近溺愛気味のノアの2人の過保護っぷりなのだろうと、ミラは納得している。
過保護を受けっとって快適に過ごさせて貰っている。
一方で、二人はと言うとその令嬢と何度も対面し、話し合いを設けていた。今回も平行線のままだ。
「⋯⋯何度も、申し上げています通り、私の婚約者はミラローズただ1人です。それは何があっても変わりません」
「付け足させて申し上げますと、国王とこの国の婚約関係の制度を乗っ取り正式に婚約なさっているものです」
「こちらもそうですわよ? 書類がありますでしょう」
「⋯⋯確認させていただきます」
持ってきていたと言う、書類に目を通すが、これが偽物だということは明白だとわかる。
「こちらは、偽物ですよね。これには本来必要なはずのものがないのですから」
「そんなはずないですわ。正式な書類だと聞いています。なので私との婚約は有効ですわよ。さぁ、あの女とお別れして私のことを愛してくれませんか」
「⋯⋯さっきから聞いてれば、ミラを悪く言うとは。いい加減にして貰えません? ミラのことを悪く言うような方に殿下は俺が渡しません」
「⋯⋯ミラを悪く言う方とお話したくありません。お帰りください。婚約の件もなかったことにします」
ただで帰ってくれる人ではないとわかっていたノアは控えていた部下に目で訴える『連れて行け』と。彼らはすぐに察して令嬢を捕まえて引きずるようにして連れて出ていった。
軟禁状態に入って1週間。
定期的に様子見に入る、王子殿下と兄ルーカス。殿下は魔力を渡し少し話して帰る程度。
ある日のことだった。入れるはずのないセレナ・ランカスターが目の前にて対面している。
「⋯⋯なぜここへおは入りになれたのでしょう? ここには限られた方しか入れないように魔法が張ってあるはずなのですが」
「あら、知らない? 私の魔力は?」
「⋯⋯知っています。クロエでも使ったのでしょうけど、こんなことしたらすぐにバレますわよ」
「あら、それを狙っていますの。ミラローズ様も私の魔法の餌食におなりなさい」
言葉と共に魔法が発動され、その場に魅了魔法はミラをも魅了してしまうが、かろうじて残る意識の中、浄化魔法を使った。生憎、殿下からもらった魔力も底を尽きかけていたためか、血を吐いてそのままミラは意識を失いかけた。
その時、バンッと音を立てるように扉が開き入って来る人物を見て、「⋯⋯で、んか」つぶやきは漏らすことはできたもののそのまま意識は遠のく。
「ミラ! しっかりしろ! ミラ! クソッ」
ノアは、声掛けても反応が無くなっていくミラに事情の知らないものもいるということなんて構わず、キスをし魔力を流し込む。
「⋯⋯んんっ⋯⋯で、んか」
「ミラ、大丈夫か? 落ち着いた?」
「⋯⋯はい。ありがとうございます」
反応を示しことで、止め様子を伺えばはっきりした口調で答える。
「⋯⋯な、なんてふしだらなのかしら! 婚約者の前でそんな事させるとは」
「⋯⋯何度も申し上げていると思いますが、私の婚約者ミラ1人だけだと。それと今のがミラのせいだとするならあなたの目は節穴ですか」
「なんてことなの、ノア様ダメです気を確かに。こんな病弱なフリをして取り入ろうなんて方と⋯⋯」
「病弱なフリではありませんよ。病は本当なんですから。あなたの使った魔力を跳ね返そうとして自分の魔力を使ったからミラは苦しんだ。本来魔力は使わずに過ごしているミラが」
何度説明しても、理解しようとしないランカスター嬢は、全てをもミラのせいであると思い込んでいるようだ。思い通りにならないのは彼女がいるからだと。実際は違うのだが。
「⋯⋯次で3度目だ。俺たちは何度も言っている。次ミラに何かしたら容赦しないと。また来るようなら俺も殿下も、次は容赦なく制裁させていただきます」
「何度だって申し上げます。俺の婚約者はミラただ一人です。お帰りください」
男2人がかりのブリザードが吹いているのではと言うような冷ややかな空気を纏った雰囲気に令嬢も、彼らの部下達も怯えきった顔をしていた。
「きょ、今日のところは帰りますわ、怒らせてしまうようでは婚約者は務まらないですものね」
全く違う解釈をしているように言い背を向け帰宅路につく令嬢に怒りを覚えながらもその後ろ姿を見送った。
帰ったことを確認すると魔法にやられたものたちに、ルーカスが無効化させ正気を取り戻したものたちは混乱していたが、真っ先にクロエはノアに抱えられたミラへ駆け寄って来た。
「ミラ様! 大丈夫ですか?! 私としたことが⋯すいません⋯!」
「大丈夫よ。ノア様が助けてくれたし」
「⋯⋯ルーカス。外に出ろ」
一言、秘書官へ告げたノアがスっとミラを抱き上げ寝室の方へ歩き出す。一件ルーカスだけに言ったその言葉の意味を正確に理解した彼はしっかり中にいたものたちを外へ出し自分も出て仕事をするように言い放った。
ノアはそっと寝台にミラを下ろすと、キスをした。さっきのは軽く回復する程度のものだったから。今度はがっつり体力回復をするためだろう。
「⋯⋯⋯⋯もういっその事、既成事実を作ってしまえば」
ボソッと呟いた彼の手が、するりと脚に伸びてくる。まくり挙げられたスカートで見えてしまう脚。それ以上動けないのか手が止まる。
「そんなことできないように契約されたのでは」
「⋯チッ⋯そんな契約しなければよかった」
目を逸らし触っていた脚からも手を離し、髪を梳くようにして彼は撫でた。それが心地よくて今なら聞けると思った。
「あの、どうして私にそこまで執着するのですか」
「⋯⋯理由が欲しい?」
「そういうわけじないですけど、どうして私なのかなと。私は共存しないと生きていけない寄生虫みたいなものですよ。もっと健康な方の方がいいと⋯⋯」
「俺が、ミラのことが好きだから。ミラ以外にいらない。共存でいいんだよ。俺の婚約者は後にも先にもミラ1人だよ」
好きだと言われて改めて執着される意味だと伝えられてミラの心は満ちていく。こんな愛されているならいつ死んでもいいと思えるくらいに。でも簡単には死なせてくれないだろう。とも思うのも彼に愛されているということがあるのだろう。




