10.二重婚約疑惑?!
相変わらずミラは図書館にて本に没頭していた。
1ヶ月ほど前の元気なミラとは違い、1週間に1度は魔力供給を受けないといけない状態へとなってしまった。3日に1度が1週間に1度になったのがなぜなのかも今は調べている。
そこへやって来た訪問者。
普段来るとしても、王子殿下か兄ルーカスのみだったはずだ。しかし今来ているのは見知らぬ女性。
「ノアエヴァン様と別れてくださる? 私こそが本当の婚約者なのよ?!」
開口一番に言われ、ミラローズは顔を上げた。だが、なんの事だか分からない。たしかに自分は(仮)の婚約者である。別れるも何も(仮)なんだけど。
そんなことよりもこの女性は誰なんだ。名乗りもせず入ってきた傍から「別れろ」と言われている。
「⋯⋯別れろと言われましても。そもそも貴女のお名前をお伺いしても? まず名乗るべきだと思いになりません? 」
「あらヤダ、私としたことが。私は、セレナ・ランカスターと申しますわ。まさかランカスター家を知らないとか言いませんよね?」
「もちろん、存じ上げておりますよ。ランカスター家は公爵家ではありませんか。身分で言ったら私よりも相応しいですもの」
身分で言うとミラよりも上であるが、自分にも譲れぬ事情がある。
「それならどうするべきか貴女はわかるわよね?」
「⋯⋯はい、ですがこちらとしては、事情があります。そう簡単に別れるなんてできないんですわ。ノア様に確認してもいいですわよ。そっくりそのままノア様にお話してください。ノア様の選ぶ道を謹んで受け入れますわ」
視界の端で彼のつけた護衛が、転移魔法を使って消えたことを捉えていた。
「緊急連絡です! ミラ様が殿下の婚約者を名乗るものに襲われています!」
普段連絡には転移魔法で身の前に現れることのない護衛が、王子殿下と秘書官の前に現れ、すぐに言い放った。その言葉に慌てて立ち上がり走り出した2人は彼女のいる図書館へと向かった。
そこから聞こえてくれのは、ミラの対等する声
「私は殿下と昔将来を誓いあっていますわよ! 婚約者はこの私なのよ。約束した書類もあるそうですわ」
「そうですか。ですが、それは子供の頃の話ですよね?」
「⋯⋯調子に乗ってんじゃないわ!」
その言葉と共に、手が思いっきり振り上げられるのを見た。やられるっと思ったが一向に来ない痛みに目を開けると、後ろから伸びた手にガッシリと掴まれた手と、抱きとめられる腕。
「⋯⋯ランカスター嬢、ミラに絡むとはどういうことでしょう」
横で仮面のような笑顔を貼り付けた、ルーカスの顔がある。
「⋯⋯王子殿下の婚約者はこの私でございますでしょう? そんな人のはお離しになって私を抱きしめてくれても良いのですよ」
「⋯⋯ランカスター嬢、何を言っている。俺の婚約者はミラだけだ」
「お忘れになってしまっているのね。私と昔婚約しているのですよ。父親同士の取り決めで約束したではなないですか」
昔とはいつなのかノアには全く覚えのない話だった。
「昔と言うなら無効だ。ミラと婚約しているので無理だ」
「今日のところはおかえり願えますか? これ以上ミラに危害加えるようなら強制退場してもらいますが」
「あら、やだ。私が除け者でその女は除け者にされないとはどういうことかしら。私が本当の婚約者だと言ってるじゃない」
「ですから、婚約者はミラローズただ1人です。今日はお帰りください。ランカスター嬢」
仮面を貼り付けたままの笑顔で口調が強くなり告げるが、1歩も引かないランカスター嬢。自分が婚約者だと言い張る。
「今日のところはお帰り願えますか。私か殿下のどちらかの堪忍袋の緒が切れる前に」
ルーカスが静かに強い口調で言い放った。その言葉が空気を一変させ、一気に緊張が走る。
「そ、そうですわね、今日のところは帰りますわ、また来ます」
彼の言葉が効いたのか足早に去っていく令嬢に、睨みつけるような眼差しを向けながら男二人は去っていったドアを見つめた。
しばらくして馬車で帰る音が聞こえると2人は肩の力を抜いた。
「⋯⋯ミラ、何もされてない? 大丈夫?」
「大丈夫ですよ、される前に助けてくれたので」
「そうか、良かった」
2人の眼差しが優しい目に変わる。何もされていないことがわかると、安堵の表情になる。
「⋯⋯それで、殿下。あの令嬢とはいつ婚約してたんですか?」
「⋯⋯考えたが、全然記憶にないんだ。父親同士のと言っていたな。国王に聞いてくる」
ミラを抱いていた手を離し、表情をキリッと変え、怒りにも満ちた顔で向かうようだ。
「⋯⋯あ、ミラも一緒に来て」
「え? 一緒に行くんですか」
「うん、一緒に来てもらった方がいいかなと」
そう言うと、手を引っ張り歩き出した。長い廊下を3人で進む。何を喋る訳でもなくひたすら進んだ。
豪華な扉の前で、2人が止まったのでミラも必然的に止まる。この先に国王がいるのだと感じる。
ルーカスが、扉を叩くとゆっくりと開け、顔を出した。他の訪問者がいないのを確認してしっかりと扉を開け引っ張られるままにミラは入った。
「どうした?」
訪問者を見て国王の気軽な感じで声がかけられた。ミラは初対面である。
「要件を申す前に、先程ランカスター嬢が来ました」
「ランカスター?あぁ、、あの気が強めな子だね」
「やはりご存知なんですね。彼女がミラのところへ押しかけてきて、『ノア様の婚約者は私だから別れろ』と言ってきたようなんです。彼女の話を聞くと、昔その約束が父親同士でされているとのことで。覚えていますか」
「え、父親⋯⋯うーん。あそこのうちとは仲良くした覚えがないなぁ。でも公爵家だからそんな約束もしていたのかもな」
なんとも曖昧な答えだ。はっきりしない。彼女の嘘なのか、国王と殿下が覚えていないだけなのか、この状況で判断はできない。
「⋯⋯ランカスター嬢ですよね? 彼女が殿下と初めてお会いしているのは社交界デビューの時だけなはずではないかと。それより昔にはお会いしておりません。それとオリバー国王。あなたもランカスター家とお会いしてるのは社交界の場のみなので挨拶程度のものかと」
口を挟んできたのは国王付きの侍従秘書官。彼の記憶力は確かな確約がある。オリバーが国王に着く前から仕える侍従だけに、信用度は増した。
「⋯⋯ということは、彼女の婚約話はないと?」
「そのはずだと思います。ですが、口約束はしていた可能性もあります。過去にはやたらと話をする方もいらしたので、それに適当に答えてしまうのがオリバー国王なので」
「⋯⋯そうですか」
「あ、あの、彼女約束した書類もあると仰っていました」
ミラは聞いているだけにしていたが、彼女の言っていたことで気になったことを口にするべきだと判断した。
「⋯⋯うーん。ランカスター⋯、、あぁ、、思い出した。彼は学生時代のクラスメイトで、仲は良くなかったが、やたらと取り入ろうとしていた人だ。その時になんかいっていた。しつこくて、なんか書類のようなものにサインさせられた記憶あるかもしれない」
なんとも一方的な約束なのか。それは彼が王家に取り入りたいがための策略だったのだろう。
国王はその後の彼の行動とペラペラと話した。それはまるで王家へ仲間入りの計画に過ぎなかったのだろう。
「⋯⋯そんな約束、無効にしていただけますよね? 私はミラローズ以外を婚約者に迎えたくありません」
「⋯⋯ふーん、頼んで来た時、お前はやる気なさそうだったけど、本気になったということでいいのかな?」
「はい。契約のアレを解除して欲しいくらいには」
「本気なら、尚更今は解除してやれないな、この問題が解決したら考えてやろう。ランカスター嬢のことはなかったことにできるよう配慮するよ」
気軽な国王は口こそ軽いが、やる時はやるはずだ。「お願いします」と声をかけ後にすることになった。
国王へ本気を伝えるためとは言え、本人とその兄のいる前で告白紛いなことを言ってしまったことにノアは2人の顔を見ることができず、ただ、いつものように仮面のような表情を貼り付け、ミラを部屋に送り届けた。




