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林檎に毒薬 -06-

 額に手を当てる白雪を、小人たちはあきれたように見下ろした。

 白雪の足元には、櫛が一つ転がっている。窓辺のテーブルに置かれた瀟洒な箱には、櫛が二つ収まっていた。


「気分が悪い……」

 視界が揺らぐのか、白雪はその暗い瞳を一度閉じ、大きく深呼吸をした後、再び目を開いた。


「そうだろう」「毒のせいだ」「当然だ」「致死量に満たなかった」「櫛がきちんと刺さっていなかった」「本当に」「幸いだった」


 白雪は小人たちの言葉に、顔をしかめる。小人たちは意外そうに尋ねた。


「怒っているのかい?」「さすがに」「何度目だい?」「置き去り」「紐」「そして櫛」「三度目だ」

「そうね、さすがに苛立たしいわ。せっかく美しい姿で死ねると思ったのに」


 白雪の言葉に、小人たちはさすがに嘆息した。


「なぜ」「だいたい」「人間にとっての美しいって」「なんだい?」「死体は変化をやめたものだ」「生きて変化しているものこそ美しい」「死体は等しく美しくない」


 疑問を呈する小人たちを、白雪は不思議そうに見やる。


「美しいというのは、整った華やかな顔立ち、ミルク色の肌、黄金色の髪、林檎のような頬と唇……秋のお祭りで称える女神のことよ。まるで、あの人みたいな……」


白雪は瞼の裏に彼女を思い起こすように、瞼を伏せた。うっとりした声音で告げた言葉に、小人たちは異を唱える。


「誰がそう定義した?」「人間の王様か?」「我々が人間の個体識別ができないせいもあるが」「肌の色がそんなに大切かい?」「髪の色だってそうだ」「どうだっていい」「人間は人間だ」


 小人たちの言葉に、白雪は言葉に詰まった。確かに、白雪自身、野鳥の群れにおける一羽一羽の区別がつかないことと同じように、小人たちの区別がつかないからだ。もっとも、小人たちに個の意識はなく、したがって、彼らは気にしない。しかし、白雪は誤魔化すように問い返す。


「それじゃあ、あなたたちはどんなものが美しいと思うの?」

「君のドレスは美しい」「色合わせは良くない」「ドレスに使われた生地」「可能性がある」「変化を望めるもの」「望んだもの」「変わりゆくものこそ美しい」


 よく理解できなかった白雪は怪訝そうに眉を顰めて見せた。


「ドレスが美しいんじゃなくて、材料としてみているってこと? なら、あなた達が生業としている宝石は?」


 あれこそ、永遠の輝きを持つから、人は手に入れたがるのだ。だが、小人たちの答えは白雪にとって意外なものだった。


「磨き上げることが楽しい」「ゴツゴツがピカピカになっていく工程が好きだ」「宝石は勤勉な仕事の結果だ」「我々にはもう手を加えることができない」「だから」「手に負えない花の方ずっと美しい」「どんなに手を尽くしてもいずれ枯れるからだ」


 宝石自体には意味がないのだという返答に、白雪は言葉に詰まる。困惑したまま、「……枯れない花があれば、それはそれで素敵だと思うのだけど」と呟いて見せれば、小人たちは示し合わせたように、さらに言葉を続けた。


「我々は石の権化」「永遠には価値を見出さない」「失われるものこそ美しい」「だから人間は美しい」「存在が儚いからだ」「だから君は美しい」「存在が儚いからだ」


 小人たちの意見に、白雪はむっとしたようにした唇を突き出した。

「でも、鏡だって、あの人が一番美しいって言ってたもの」

 頑是ない子供のように、白雪は唇を尖らせた。駄々をこねる子供を前にした無力な大人のように、小人たちは顔を見合わせた。


「鏡?」「鏡は鏡だ」「ただその前にあるものを」「そのまま映しだす」「鏡がいつも真実を映すとは限らない」「嘘も真実もない」「ただの反射だ」


 白雪は、ふっと顔を上げた。

「反射?」

 と小人の言葉を反芻する。


 小人たちは、さもありなんと頷くと、さらに口を開いた。

「秋の絢爛は確かに美しい」「冬の荘厳だって美しい」「春の優美も」「夏の風雅も」「だがそこから人間が見出す美は」「我々は見出すそれとは違う」「どちらも間違いではない」

 白雪には小人の言葉は耳に届いていなかった。しかし、届いていたとしても、白雪はこういったであろう。


「それでも、私は秋が一番好きなの。他のどんな季節よりも」と。


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