§94 一見岩にみえますけれど
「ふっふっふっ。私の魔法を甘く見ては困るなのだ」
先輩はそう言うと持っていたポシェットから何かを取り出す。
見ると船に推進器をつけた時に使って余ったネジ釘だ。
何か作る時用に用意していたらしい。
「大きさはどれ位の物が欲しいのだ?」
「ヘラ部分は先輩の小指くらいの大きさで、相当な力をかけても曲がらない程度の厚さで先端だけちょっと薄めにお願いします。持ち手は普通のナイフと同じ感じで」
「了解なのだ」
先輩はその辺に落ちていた流木を拾い、ネジ釘十本程度と一緒に砂の上に置く。
「手で持って作ると熱いので置いてつくるのだ。ほれ」
ネジ釘がぐっと形を変えて平坦になり、先の丸まった三角形のヘラになった。
さらに流木の固い芯の部分が取り出され、ヘラに柄としてくっつく。
オイスターナイフのようなものがあっさり完成してしまった。
「ざっとこんなもんなのだ。それでどれを取るつもりなのだ」
「まずはこの貝です」
松葉貝っぽい貝を指す。
「ほれ、なのだ」
あっさり引っぺがして採取成功。
「ついでだから同じ貝を捕っておくのだ」
「釣りエサにもなりますしね」
そう言った直後。
もっと美味しそうな代物を見つけた。
ただこれは危険な場合もある。
美味しいけれど当たる可能性も高い。
そう、牡蠣である。
慣れない人には岩にしか見えないが、見える人には見えるあれ。
「先輩、その金具貸して下さい」
「何か変わった獲物があったのか」
「ええ」
先輩から即席オイスターナイフを借りて牡蠣を岩から外す。
「えっ、それ岩じゃ無いの」
確かにそう見えるだろうけれどさ。
「これが貝なんだな」
さて問題は毒性だ。
でもこの世界には魔法がある。
「メル、この貝の毒性はどれくらいだ」
「五十個くらい生で食べなければ問題無い。一応殺菌魔法もかける」
こういう時に魔法は便利だ。
さて試食。
例のヘラで貝柱部分を切ると美味しそうな生牡蠣が現れた。
「それって食べ物なのか」
アン先輩がちょっと疑わしそうな顔をする。
確かに見た目はグロいよな。
でも日本の食生活を知っている俺には美味しそうにしか見えない。
そんなわけでいただきます。
うん、旨い。
「大丈夫なの、それ」
「これが旨いんだ。何なら試しに焼いて食べてみるか」
始めてなら焼いた方が一般的だろう。
牡蠣なんて一つ着いていればその辺にいくつもある。
そんな訳であっさり人数分をキープ。
岩の上に置いて魔法でじんわり熱を通す。
このあたりは例の魔法杖を使って俺が焼き具合を自分で調整。
汁がブチブチ音を立ててきたらちょうどいい頃合い。
本当はケチャップかレモン汁か醤油が欲しいがまあ我慢だ。
例のオイスターナイフで牡蠣の身を貝から外しておいてやる。
「まずは焼きガキ。まあ魔法で焼いたけれどさ。癖はあるけれど好きな人はたまらん味なんだ」
「どれどれなのだ」
まずはアン先輩が試す。
「熱っ、まだ貝殻部分が熱いのだ」
そう言って持つ場所を変えて、そして貝部分を一気にすする。
先輩はにやりとして頷いた。
「確かにこれは美味しいのだ」




