§95 次は釣りもやってみます
アン先輩が食べたのをみて少し安心したのか、他の皆も口をつけ始める。
そして食べ始めたらあっという間だ。
「何これ、凄く美味しい」
「何回もチャーシに来ているけれど食べた事がないですわ、これ」
「それにしても貝とわからない見かけだなこれは」
「でも美味しい」
かなり好評の模様。
「それにしてもホクト、よくこんなものが食べられると知っているな。前の世界では海に近いところにいたのか?」
「海沿いでは無かったけれどさ。父とその友人が海が好きでよく釣りとか行ったんだ。その時に色々教わった」
父が釣りとか磯物拾いが好きでよく父の友人と一緒に連れて行かれたのだ。
厳密には海に限らずアウトドアの特訓を受けたと言う方が正解かな。
幼稚園年長の頃にはもう魚釣りだの貝拾いだのさせられた。
おかげで魚も捌ける様になったし食べられる貝もかなり憶えた。
まさかここでその知識を使うとは思わなかったけれど。
「よし、もっと今の貝を探すのだ」
アン先輩が本気になりそうなので注意をしておく。
「いまの貝は美味しいけれど当たる事もあるから注意した方がいい。あと食べる前に熱を通すか魔法で殺菌して。当たると死なないけれど凄く苦しむらしいからさ」
「わかったのだ。ちゃんと殺菌するし毒性も確認するのだ」
「あと食べるなら調味料も本当はある程度用意しておいた方が美味しいかな。さっき刺身につけた醤油とかもあうと思うし、レモンや柑橘系の汁もお勧め」
「わかったのだ。なら後で買い出しておくのだ」
「でもその辺本気で採るなら水浴服買ってからの方がいいんじゃないかしら。結構濡れそうな場所に付いているのが見えますわ」
「ならその前に釣りなのだ」
そんな訳で予定外だけれども釣りの準備にかかる。
釣り道具はエサ以外は船に積んだままだ。
エサは取り敢えず貝をいくつか採って使う事にする。
小カニとかでもいいのだけれど動きが速くて採るのが難しい。
そんな訳で岩に付いた松葉貝とかイガイ類を採ってから船へ。
アルの乗員に優しい運転でちょっと沖合の岩場近くにつける。
「あとはそのエサを魚がくわえてくれればいいのだ」
「でも効果がありそうな寄せ餌が無いのでちょっと時間がかかるかもしれない」
一応貝の身を潰した物を竹で作った寄せ餌用入れに入れているけれど。
本当は魚のミンチとかオキアミとかが効果が高いんだよな。
取り敢えず船頭のアルは場所維持に徹して貰って、アン先輩と俺でやってみる。
釣り針に貝の身部分をつけてゆっくり下へ。
原始的なリールから糸がどんどん出ていく。
「深さはどれ位が正解なのだ?」
「セオリーは底から少し上。それで駄目ならまた上まで持ってきて落としてみる。そんな感じ」
この辺は釣りガイドなんて無いから試行錯誤だ。
そして約六半刻後。
「お、変な感じで引っ張られるのだ」
アン先輩の竿がヒクヒク動いている。
「それ、かかっている。糸を切らないようにゆっくりと巻き上げて」
「わかったのだ」
そんな感じで先輩、じわじわと巻き始めた。
「お、お、結構引っ張るのだ」
「そこそこ大物かもしれませんね」
「刺身釣れろなのだ」
かなりいい感じに引いている。
「どんな魚なんだろう」
「楽しみだね」
何せリールが原始的な糸巻き同然のものだから効率が良くない。
それでも三分くらい引いて釣り上げたのはなかなか立派な黒鯛?だった。
「可哀想だけれど血抜きをしておきます」
包丁でエラの下を切って、バケツ代わりの方の箱に入れる。
「これで血が出なくなったら氷の方の箱に入れる。そうすると長持ちするし味も美味しいらしい」
実際には俺は黒鯛なんて大物を釣ったことは無い。
扱うのも実はこれが初めてだ。
日本ではせいぜいサバやアジまでだった。
それを考えるとなかなかいい感じだ。




