§90 魔力推進舟、発進
「ありがとうございました。それではこの舟、持って行きます」
アン先輩がそう挨拶する。
「わかった。それでは運河に下ろすからちょっと待ってくれ」
「大丈夫です。こっちで下ろせますから」
アン先輩とラインマインの二人で前後に舟を抱える。
そのまま二人で舟を抱えて浅瀬まで言ってよいしょと下ろした。
「お嬢ちゃん、強靱種だったのかい。てっきりその格好だから長寿種かと」
「両方の血が出てしまったんです」
そんな事をよそ行きの言葉で話しつつ、アン先輩とラインマインで小さい船着き場に船を着けた。
「さて、試運転なのだ!」
ここからはもういつものアン先輩の口調だ。
俺達全員が舟に乗り込む。
「あれ、櫂とかはつけないのか。どうやって動かすんだい」
「試作品の魔法動力推進なんです。それでは失礼するのだ」
アン先輩がもやい綱をほどいて、舟に飛び降りる感じで乗り込む。
そのまま操作卓について俺に声をかけた。
「前進、微速でいくのだ。左右声をかけるのでその時は舵を曲げてくれなのだ」
舟はゆっくりと前進を始める。
舵を使わず左右の推進力差で右に曲がり、そのまま加速開始。
川幅がせいぜい四腕までなのであまり速度を出せない。
でもかなりの速度を感じる。
「今日はお試しだよね」
「上流の公園事務所までの予定です」
この運河の上流にはオツトヌマ公園がある。
元々はこの街をつくる時に造った貯木場跡を公園化した場所だ。
ここに舟を係留しておく予定だ。
もう契約も済んでいる。
ちなみに駐舟料は一月に正銀貨一枚。
駐車場代だと思えばそんな物だろう。
オツトヌマ公園からは学校まで半離程度。
これならアルでも全然問題無い距離だ。
「なかなかこの舟反応がいいのだ。本当はもっと飛ばせるのだ」
「今日はやめて下さい」
そんな事を言いながらあっさりと公園に到着。
アン先輩は左右の推進力調整だけで舟の位置を調整。
予定通りの桟橋に真っ直ぐにつけた。
「思った以上に素直に動いていい感じなのだ。これならチャーシも余裕なのだ」
「天候次第ですけれどね」
一応釘はさしておく。
なおチャーシというのはここから川を下った処にある海沿いの街。
何故そんな処の名前が出てくるのか。
それは昨日、学校の実験室で舟の推進器を造っている最中のことだった。
「これで舟が作れればカイドーもアムも皆で行けるな」
「その気になればシルダだってキョーナンだって行けるのだ」
アルとアン先輩がそんな事を言っていた時。
「最初の行き先は念の為近い方がいいんじゃない」
そうラインマインが発言。
「近くと言えばチャーシはどうでしょう。海鮮料理が美味しいと評判ですわ」
ヘラがそんな事を提案。
「海鮮料理って言うと、魚とか貝とかかな」
「新鮮な魚を生で食べる料理ですわ。ご飯と食べると本当に美味しいんです」
そこでつい、俺が余分な事を言ってしまった。
「そう言えば釣りってこの国ではやるのか?結構面白いと思うんだけどさ」
日本では父や父の友人と一緒に年数回海で釣りをしに行っていた。
サビキ釣りだけれどそこそこの大きさの魚も釣れた憶えがある。
そんな話をついしてしまったのだった。
「その釣りってそんなに簡単なのか?」
アン先輩に言われるがままに道具とか釣り方を説明。
その話に皆さんが乗ってしまった。




