§65 イチゴショート試作中
部屋に入ってきたのはラインマインのお父さんとさっき会ったお兄さん。
二人とも色々な物を載せたお盆を持ってきている。
「ヴァトーがいたから持ってくるのを手伝ってもらった。ホイップクリームとベリージャム、シロップ漬けのサクランボと生のイチゴだ。これで色々試せる」
「あらまあ、お客様の前で何ですか」
「どうせなら元々を知っている人に確認して欲しいからな。まずはイチゴで」
スポンジケーキを切ると上面にクリームを載せ、更にイチゴを埋め込んで入れて、上に更にスポンジを被せ、ささっとクリームを塗る。
二段のショートケーキと同じだ。
それをどれもイチゴが入るように人数分カット。
「さあ、試食してみてくれ」
ラインマインとお母さんは苦笑しつつ、お兄さんの方は結構真剣な顔で。
そして僕らもそれぞれ試作品のケーキをいただく。
うん、間違いない味だなこれは。
「美味しい、シルダで食べたクレープ重ねたのよりこっちがいい」
「確かに美味しいですわ、これは」
「おかわりが欲しいのだ」
「うん、生地とクリームがあっている」
それぞれ色々感想が出た後。
「でも今、これをお店に出す余裕はありませんわ。やっと少し落ち着いたところですのにまた大変なことになりますから」
「どんな感じだったの。大変だったってロワゾにも聞いたけれど」
ラインマインが尋ねる。
「最初にパンを出した時はそれほどでも無かったですけれどね。少しずつ客が増えていって、パンの客だけで前のお店では捌ききれない状態になって。それで倉庫を一つ潰してここを建てたんです。前の店は倉庫兼パン作業所にして。
最初は一階だけがお店だったんです。でもお客さんの列が外の通りの次の交差点の処まで伸びてしまう状態だったので、急遽二階も店にしたんですよ。店員も倍以上に増やして、更にパンが足りないので港の倉庫を潰してパン専門の作業場にして。
更に家の方の使用人も店の方を交代で手伝って貰うようにしたんです。
サンドイッチ用のハムやバター、チーズも増産して。
色々工事が終わったのが六月中旬。月末でやっと充分に品物を置けるようになったし、やっと先周から店の外まで並ばなくても済むようになったところなんです。新しい工場の方の余裕分も購入希望がある回りのお店等に卸すようになって」
そうお母さんが説明している間もお父さんの方はスポンジとジャム等で色々ケーキを試作中だ。
「まあ新商品の候補はいくつあっても困ることは無い。そんな訳で今度はちょっと酸っぱいジャムを挟んでみた。どうかな」
困ったことにこれも美味しい。
イチゴショートよりこっちの方が美味しいような気さえする。
「悔しいな、やっぱりこういう発想は親父に勝てない」
「こればっかりやっているからね、お父さん」
「間違いなく当分店には出せないですわ。またあの苦労をするのかと思うと」
「でも間違いなく美味しいのだ」
「本当ですわ。毎日でもいただきたいくらいです」
そんな感じで結構大きめに作ってあったスポンジケーキは無くなった。
まあ人数もいるししょうがない。
「あ、今のケーキ、アルとメルに取っておいてあげればよかった」
「大丈夫、冷ましているのがある。あれが冷めて切れるようになったら作れる」
うん。
でも実は……
そう思った時だ。
「ところで昼食なら甘くない物も食べないとバランスが悪いと思いますわ」
ラインマインのお母さんがそれに気づいてくれた。
「下から適当に取ってきますわ。少しお待ち下さいね」
俺はちょっとほっとする。
甘い物だけだとどうしても物足りないから。




