§64 これはスポンジケーキだな
大テーブルに取り敢えず全員座る。
今焼いたばかりの物はカット出来ないからという事でとりあえず放置。
事前に焼いたらしい長方形の甘い香りがする茶色いものがテーブル上に並んだ。
更に毎度お馴染み乳清飲料も登場。
こっちは使用人風の人がささっと入ってきて用意してくれた。
本当にお金持ちなんだな、ラインマインの家は。
お父さんは趣味が行きすぎて店をやっているようにしか見えないけれど。
「シルダとは珍しい処に行ったな。あそこは関係者以外は入れないだろう」
「色々学校であってね。でもまさかシルダの宿でうちのパンが出てくるとは思わなかった。ヴァトー兄に聞いたけれど随分広くやっているみたいね」
「いつの間にか広がったというのが正直なところさ。その辺は母さんの方の腕というか仕事だ。あとはヴァトーが結構頑張っているな。あいつが作っている色々な種類のパン、結構好評なんだ。パンだけの方はもうあいつに任せておいて大丈夫かな」
「それじゃ何を焼いていたのよ」
「パンを参考にした次の一手だ」
そう言って彼は茶色い長方形を二指位の薄さにスライスする。
「ちょっと試してみてくれ。昼食と言うよりおやつ向きだが」
早速皆で食べてみる。
パンとは違うきめの細かい感じ。
食べてみて気づく。
これはスポンジケーキだ。
しっかり甘めの。
「この気泡は卵ですか」
お父さんはにやりとする。
「バレたか。パンと同じように気泡を作る方法を色々試してみて、卵を泡立てる方法に辿り着いたんだ。しかし良くわかったな。ひょっとして他にもあったとか」
「この国では多分無いと思います。落ちる前の世界にあった食べ物です」
「それはなかなか興味深いな。参考までにこれをどうやって食べている?」
「このままでも美味しいのですが、冷やして回りに泡立てたクリームを塗ったりします。また薄く切って、中にクリームとフルーツを挟んだりもします」
いわゆるショートケーキだ。
ラインマインが紙とペンを渡してくれた。
なので得意ではない図を書いて説明する。
「なるほど、更にクリームで回りを囲むと。パサパサになるのもそれで防ぐ訳か。ちょっと待ってくれ」
そう言って彼はだっと部屋の外へと消えて行く。
ラインマインがふっとため息をついた。
「お父さん、何か新しい食べ物を思いつくとすぐ自分で作ろうとするんだよ。元々はチーズやハムが専門だったのに、パテを作ったり、クラッカーやクッキー作ったり、乳清飲料作ったり。チーズだってしょっぱいのだけで無くて甘いデザートチーズ作ったりしたしね。
まあそのおかげでうちの商売も大きくなったんだけれど。でも経済観念はあまり無いからその辺お母さんに頼りっぱなしかな」
「でもこのふわふわで甘いの、これだけでも美味しいのだ」
アン先輩がちびちびつまんでいる。
「本当ですわ。こういう物はカイドーよりステルダの方が美味しい気がしますしね」
ヘラもだ。
「まあ本場だしね」
ラインマインがそう言ったところで扉がノックされ、開く。
こっちは中年の女性だ。
顔立ちはラインマインに似ているが細身。
先程のラインマインの兄により似ているかな。
「皆様いらっしゃい。初めまして、ラインマインの母のアウロラと申します」
こちらも立ち上がって一人ずつ挨拶。
その後。
「まもなくラインマインの兄のヴァトーも来ると思います。もう一人、ロダニアという兄もいるのですがは高等学校の合宿に出ていて留守ですわ。それにしてもラインマイン、お父さんは?」
「新しいメニューを聞いて材料を取りに行った」
「こんな時に?」
「思いついたらすぐだからね」
その台詞の直後、廊下側から足音が聞こえてきた。




