§63 社長室は試作工房
店はとんでもなく賑わっていた。
もうすぐお昼時という時間のせいもあるのだろうか。
店の中は商品が並んだカウンターがあって、そこで店員さんに注文するタイプだ。
注文を担当する店員が五人。
客は一列に列を作って待つというスタイル。
その待ち行列が店内を二往復半している。
待っている客は五十人程度。
次々に客がやってくるので一向に列が短くならない。
「何かとんでもない事になっているのだ」
「どうする、すぐ上に行く?」
「確かにこれではどうしようもないのだ」
なにせ人ばかりで陳列してある商品をじっくり見る余裕が無い。
そんな訳で階段から上へ。
こっちも店になっているようだ。
それもイートインが主体という感じ。
カウンターでサンドイッチと飲み物を買って、店内で飲み食いするスタイルだ。
テイクアウトも出来る模様。
いわゆるファストフード店のようなものだろうか。
そしてやっぱり客が長い列を作っている。
「何か店が前と全然違っている」
「そうなのか」
「つい私が出る前までは普通のお店だったんだよ……あ、ロワゾさん」
中年くらいの女性をラインマインが呼び止める。
「あれ、お嬢様。カウフォードの学校に行かれたんじゃなかったですか」
「今夏休みでちょっとだけ顔を出しに。でも何か店が全然違っているんだけれど」
「パンというものが出来て一気に変わったんですよ。一緒にいらっしゃるのは御学友ですか。とりあえずお父様のところに案内しますからどうぞ」
そんな訳で従業員専用らしい扉を通り、更に階段をのぼる。
「パンが評判良すぎてですね。またあれにハムやチーズを挟んだサンドイッチというものが流行りまして。
それで倉庫を潰して新しい店を作って、取り敢えずサンドイッチとそれ以外の店を一階二階で分けたんですよ。サンドイッチの方はその場で食べたいという人も多いのでテーブル席を作って。
これでも大分落ち着いたんですよ。一時は列が道路の先まで延々と伸びて大変だったんですから」
そんな事になっていたのか。
「何かパンの工場を新設したって手紙で読んだけれど」
「工場は港の倉庫を潰して新しく作りました。近隣の街や村に下ろすのはそっちがメインですよ。作るそばから注文が入って捌き切れていない状態です」
そんなとんでもない事を話しながら廊下を進み、奥の扉をノックする。
「ロワゾです。お嬢様が顔見せにと御学友といらしてますよ」
「入ってくれ。今ちょっと手が離せない」
ロワゾさんは何故かため息をついて、そして扉を開ける。
場所的にもいる人間的にも社長室の筈だった。
でも実態はその名前でイメージする部屋と大きく違う。
小麦の香り、窓全開でも感じるオーブンの熱気。
前に一度学校の面会室で会った、がっしりした体型の男性が何かを焼いている。
いや、焼き終わったというべきかな。
オーブンから何かを出したところだ。
「お、ラインマイン、どうした」
「夏休みにシルダに旅行に行った帰り。でもどうしたの、このお店」
「客が捌ききれなくなってな。仕方無く倉庫を潰して新設した。それより新作を作ってみたんだ。どうだ、ちょうどいいから御友達と一緒に食べていかないか」
何だかな。
本来はきっと社長室なんだろうけれど、オーブンや水場や作業台が完備している。
事務机らしき物はあるけれど使っている様子はあまりない。
でも何かやっぱりなとか、なるほどなという感じがする。
多分この人はこういう人なのだろう。
「これ以上新商品を開発しても店に余裕が無いから出せないです、そう奥様が言っているのですけれどね」
「飽きられる前に次を作っておく。それも仕事だ」
「旦那様のは仕事という以上に趣味だと思いますけれどね。それでは失礼します。あと奥様もお呼びしておきますね」
ロワゾさんが一礼して部屋を去る。




