§37 技術革新の光と影
それほど広くはない部屋。
会議室とかそんな感じだ。
一辺に長テーブル二つずつ、合計八つのテーブルが四角形にセットされている。
そして三辺にはそれぞれ四人ずつの男女。
「カウフォード上位中級学校摂理主任教授パヴァリア、及び同生徒のホクトです」
パヴァリア先生がそう言って礼をするので俺も真似て頭を下げておく。
パヴァリア先生の態度を見る限り相手は相当のお偉方なのだろう。
「お二方ともそちらの席にお掛け下さい。公の場ではありませんのでかしこまった礼は不要ですわ」
そう言った女性にどことなく見覚えがある。
何故かなと思って気づいた。
そうだ、レマノに似ている。
顔の形と目がそっくりだ。
こちらの方がちょっと年長っぽいけれど。
テーブルの空いている一辺に俺とパヴァリア先生がついたところで話は始まる。
「さて、ホクト君にはまずここがどういう場かを説明しましょう。と言ってもレマノから知識を受け継いでいるからこう言えばわかりますね。
ここはこの国の最高首長会議、私はレマノの叔母でカイドー市管理担当者のサフィールです」
最高首長会議!
おいおい、この国の政治上の最高意志決定機関じゃないか。
この国の政治体制は緩い封建制。
各地方及び指定都市政体の上に国の政権が乗っかっている形だ。
その国の行政側最高決定機関が最高首長会議。
地方及び指定都市十一の首長とこの国の君主とで構成される合議体だ。
一名を除いて二十代から三十代位の年齢に見えるが、おそらく長寿種。
だから実際の年齢は不明。
ドムロの管理監だけ六十代に見えるが、きっと他も同じくらいの歳なのだろう。
それにしても何故そんなお偉方が登場したんだ。
状況が良くわからない。
「まあホクト君も状況がわからないだろう。だから私から説明しよう」
俺から見て左側一番手前に座っている一見二十代の男が口を開く。
「お初にお目にかかる。私はステルダの統治官でブラバントと言う。アルバレートの父と言えばわかるかな。息子がどうも色々と世話になっているようだ。色々手紙に書いてあるよ。君の発想を見ていると飽きないと」
「はあ、ありがとうございます」
確かによく見るとアルに似ているような気がする。
「それでだ。ここへ呼んだ理由はその、君が持ってきた知識についてだ。
具体的に言うと蒸気機関、及び内燃機関について。
この内容を公にして研究開発を続けた場合について、何人もの未来視達から注意喚起された。どんな内容かはおそらく君自身も知識として知っていると思う。君のかつていた世界で起きた産業革命。その正の面と負の面について資料を集めた上で検討が行われた訳だ」
その辺は社会科で充分に学んだ場所だ。
ラッダイト運動なんて単語が頭をかすめる。
「負の面とは例えば生産力が増大する代わりに労働力搾取、大気汚染等の公害、資源採取の名の下の自然破壊、人口集中による都市環境の悪化。そういったものだ。
君がかつていた世界で起こったその事実をきっと君も知っている。違うかな」
当然俺の知識にもその辺はある程度入っている。
俺は彼らが何を言おうとしているかを理解した。
「もし産業革命が起こればこの国でもそれら負の面は避けられない。検討の結果そういう結論になった訳ですね」
ブラバント氏は頷く。
「その通りだ。故に蒸気機関と内燃機関の知識に関しては、しばらくの間凍結しようという事になった。
幸いにもこの世界は国同士の抗争という物が起こりにくい。外海が通路として使えず、飛行可能な魔術も限定的だ。つまり外敵という要因をある程度無視できる。
ただそれ故に確かに発展が遅いという面もある。それでも我々が知る他の世界と比べ、国民の生活環境は決して劣っていないと思っている」
確かに俺の知る限り、この国の生活水準は高い。
地理的に恵まれているというのもあるかもしれない。
でも例えばカイドーのような大きい街にも貧民街のような物は存在しないのだ。
その辺はレマノの知識でわかっている。
現代日本と比べれば色々遅れてはいるかもしれない。
でも現代世界全体と比べれば、非常に生活水準は高いと思う。
医療水準だって魔法併用の結果、現代日本に匹敵する状況だ。
ただ技術を凍結すると気になる事もある。
「その場合の問題は他の国の技術及び魔法動向ですね。例えば大型の蒸気船等が開発されればその時点で海路は使用可能になるかもしれません。その場合外敵という要因も無視できなくなります」
「その通りだ」
ブラバント氏は頷く。
「他に魔法側でも同様の技術がある。例えばある世界では魔法蓄積・増幅理論が発達してやはり移動方法の革命が起きた。残念ながら理論不明でこの国で完全な再現は出来ていないのだけれども。
双方のリスクも考慮した結果、それでも当面は蒸気機関及び内燃機関の研究は封印しようという事になった。エネルギーの近代化はまず水力発電による電気だけを研究の上、採用して研究していこうという事だ」




