§36 突然の呼び出し事案
学校生活そのものは極めて順調だ。
授業はそれなりに内容があるし教え方も悪くない。
課外活動もなかなか楽しい。
ラインマインもヘラもメルも可愛いし、アルも真面目でいい奴だし、アン先輩も癖はあるけれど根本的にはいい人だし。
ただ、物を作っていても俺には引っかかるというかわだかまりというか……
とにかくそういう物を感じる時があった。
この世界ではやっぱり物が揃わないのだ。
物が揃わない理由は色々ある。
一つは技術水準の問題。
例えば金属を量産する方法論が確立されていない。
例えば鉄はたたら法で一回ごとに炉を作って精錬をする状態。
おかげで包丁や鍋釜に至るまで金属製品はかなり高価だ。
もう一つは流通の問題。
流通が内航船と駅馬車までしかない事だ。
海流や風の影響から外航船が使えない事もある。
つまり基本的には付近にある材料で色々工夫するしか無い訳だ。
何か作ろうと考えるとどうしてもこの辺から限界が出てくる
何時かその辺りに手をつけなければならないのだろうか。
鉄の量産から始めて、大型蒸気船の製造まで。
でもそこまでやると産業革命だよな。
社会に色々弊害が出てきそうだ。
その辺のバランスはどうするべきなんだろう。
そんな事を考えつつ実験室でアイデアスケッチを描いているところだった。
トントントン。
実験室の扉がノックされ、返事を待たずに開かれる。
「失礼、ホクト君はいるかね」
パヴァリア先生だった。
摂理学主任教授で摂理アカデミーの会員、そしてここ技術研究会の顧問でもある。
忙しいから滅多に課外活動に顔を出すことはないのだけれど。
「はい、俺ですが」
「おお、いたか」
パヴァリア先生は俺の顔を見る。
「実はちょっと知的権利の件で相談がある。半刻程大丈夫かな」
「はい、大丈夫です」
そう返事はしたけれど、ちょっと疑問。
単なる権利の使用等なら相談しなくても自動的に処理される筈だ.
何があった、もしくは起こったのだろう。
どっちにしろ行かないという選択肢は無い。
「ではちょっと行ってきます」
「了解なのだ」
アン先輩がそう返してくれた。
そんな訳でパヴァリア先生について実験室を出る。
先生は隣の第二実験室前まで歩いてから俺の方を見る。
「さて、ちょっと遠距離移動をする事になる。軽く目を瞑ってくれ」
えっ、どういう事だ。
でも取り敢えず俺は目を瞑る。
一秒後、ふっと足下の感覚が無くなった。
落とし穴でもあったかのような感じだ。
「心配いらない。移動魔法だ」
移動魔法!
レマノの知識では超高等魔法の一つとなっている。
他人の移動が可能な術者は魔法使い千人に一人程度しかいない。
何が起こっているんだ。
少なくとも普通の事態ではない。
何処かに着地した感触がした。
固さからして木の床かそんな感じ。
「もう目を開けて大丈夫だ」
目を開ける。




