§29 まだまだ続く知識の収穫
「それじゃそろそろお得意様の処へ行ってくる。本格的な生産を始めたら改めてお礼をしよう。ではまたな」
そう言ってラインマインの父は去って行った。
取り敢えずのお礼と言って残していったのは、
○ 丸いでっかいチーズ
○ 大きな肉塊という感じのパストラミ
○ 試作のパンもう一個
○ 小さいバターの塊
というセットだ。
「いいのかな、こんなの貰って」
買うとこれも正銀貨三枚以上はする代物だ。
パンに至ってはまだ何処でも売っていないし。
「いいんじゃない。お父さんいつも新製品に飢えているし。どっちも製品から作り方を想像できないから当分の間、後発品無しで売れると思うわ」
「それよりそのパンとチーズ、またサンドイッチにして食べようではないか」
アン先輩はパンとチーズが気になる様子。
「そうね。とりあえず実験室に戻りましょ」
「私は金庫に寄ってきます」
そんな訳でヘラと別れ、残りは紙箱に肉塊など一通りを入れて実験室へと戻る。
「しかし凄いな。まさかあのメモでここまで美味しいのを作るとは思わなかった」
「お父さんは凝るからね。本人は五十個くらいと言っていたけれど、多分その倍以上は試作していると思うよ」
そうなのか。
「あのクラッカーだって父が満足いく味にするまでに、小麦だけで各種あわせて数十キロは試作しているんだよ。更にバターを混ぜ込んだり色々試して。ずっと同じ味のままだと飽きられると言って。
だから工夫する場所がいっぱいあるパンなんて、どれだけ試作したのか想像するだに怖い位だわ。仕事柄という以上に父の趣味みたいなものだし。おかげで経理担当の母が良く怒ったり嘆いたりしているわ」
「でも気持ちはよくわかるぞ」
アン先輩がうんうんと頷いている。
ものは違うけれどこの人も作る人だからな。
その辺のところは通じるものがあるのかもしれない。
「しかし今日一日で色々なものがやってきたな。正銀貨十枚にパストラミにチーズにパンか」
「この調子じゃあっという間に一財産になりそうね、まあホクトのおかげだけれど」
「そうでもないさ。俺が出したのは原案だけで、あとはアン先輩なりラインマインのお父さんが色々工夫して形にしたんだ。俺一人じゃ何も作れない。不器用だしさ」
そう、俺の手柄ではない。
少なくとも俺だけの手柄ではないだろう。
俺の怪しい説明と図だけで予想以上の物を作れる人がいた。
量産して販売したり研究して美味しい物にしたりする人がいて、それと繋がる人がいた。
そのおかげだ。
「そうやって謙遜するところがホクトだな。普通は落ちてきた人はもっと進歩した世界から来た進歩した人間だと偉そうな癖に何も出来ないものらしいぞ」
「それはアルのお父さんがたまたま始末に困るのばかり面談したんじゃない」
「その可能性高そう」
そんな事を話しながらもうすぐ実験室という処。
「ああ、そっちにいたのか」
パヴァリア先生に呼び止められた。
この前の電気の時にアン先輩の被害に遭った先生だ。
この学校の摂理学の主任教授で技術研究会の顧問でもある。
「取り敢えずホクト、これを受け取れ」
何やら分厚い封筒を渡される。
「何ですか、これ」
「国立技術研究所による権利書類等だ。この前の電気の知識、以前カイドーで渡した知識、更にその複合で新たな権利が発生したらしい。取り敢えず後でいいから中身はじっくり読んでおけ。以上」
それだけ言ってパヴァリア先生は去って行った。
用件終了という事らしい。
「権利書類か、何なんだろう」
「取り敢えずサンドイッチを食べながらゆっくり読むのじゃ」
アン先輩の意識は完全にサンドイッチに向かっている。
「それにしても国立研究所の権利書類か。何か立派だな」
「でも俺の知識なんて、向こうでは初級上位学校の生徒でもわかる事なんだけどな」
確かに僕は標準より若干色々無駄な知識は持っているかもしれない。
でも所詮は小学校で優秀だった程度。
それに読書好きとか百科事典好きや雑学好きを加えた程度だ。
何か色々と申し訳無い気がする。
せめて中学生か高校生で更に色々知識があればもっと役だったんだろうけれど。




