§30 慌ただしい放課後の終わりに
「そんなに食べると夕食が食べられなくなりますよ」
「こっちの方が夕食よりも美味しいのだ」
「確かにそうだな」
そんな事を言いつつもパンを切ってサンドイッチを作り、皆で食べている。
パンやバターはこれで無くなったが、パストラミとチーズはまだまだ残っている。
この二点は常温でも普通に保存できるそうだ。
残りはラインマインが持ち帰って、周空の日にでも皆で食べようとの事。
なお俺は食べながら受け取った書類を確認している。
中身は権利書数通と、新たな発明物が出来たという論文の概要だ。
権利書はガラス、蒸気機関、内燃機関、それに電気の知識ひととおりのもの。
それに更に電球の概念発明権利と実証機械の開発成功というのが加わっている。
ガラスの知識と電気の知識から電球の試作品が完成し、成功したそうだ。
更に電池以外で電球を光らせるため、水力発電装置も試作中との事。
これも開発成功したら報奨金の一部が俺に来るらしい。
そしてそれら権利から受け取るべき今期の報奨金と、レマノから先渡しされた支度金とを合算した内訳精算書。
それがプラスになった事から差額の金庫預金振り込み確認書まである。
五百万円程度、こっちの単位だと正金貨五〇枚あった預金が正金貨六〇枚へと増えた。
いいのかこんなに順調で。
何か色々申し訳無いような気がするぞ。
例えば電球のフィラメント案なんてエジソンの伝記のパクリ。
つまり紙や竹を蒸し焼きしたものだ。
史実通り無事使えたようだけれども。
「どうしたの、何か難しい顔をして」
ラインマインが聞いてくる。
「いや、何か申し訳無くてさ」
「何が申し訳無いのだ?」
アン先輩がサンドイッチを頬張りながら聞いてくる。
「いや、この書類は僕がこの世界に持ち込んだ知識の権利書と報奨金の書類なんですけれどね。何かこんなにお金を貰っていいのかなという気になって」
「気にする事は無い。それは当然の権利だ」
アルはそうあっさり言う。
「でも前の世界では当たり前に近い知識だったんだ。僕も多少色々知識はあるけれど、元の世界では初級上位学校の生徒に毛が生えたような存在だし」
「それでもこの世界にとってはそれだけ有用な知識だと判断されたんだ。だから胸を張って受け取ればいい。そうする権利がホクトにはある」
そうなのかな。
何か申し訳無いような気が抜けない。
「もしそれでも気になるようならな、実際にこの世界に貢献するような物を作ったり発表したりすればいいのだ。私はこれだけお金を貰ったけれど、それ以上に生活は豊かになったし向上した、そう胸を張れればいいのだ。
まあこの前のヘアブラシといいパンといい、私個人には立派に貢献しているぞ」
「私の家にも貢献しそうだけれどね、あとヘラの家にも」
これはラインマインだ。
確かにそう目に見える形なら少しは俺も納得するかもしれない。
今は書類でしか見えないけれど。
「それに高額の報奨金が手に入ったという事はだ。年単位のスパンで見ると間違いなくこの世界に目に見える形で貢献していく事になると思うのだ。来年、再来年と経つうちにそれらの知識から生まれた様々な便利道具が生活を豊かに変えていく。そうすれば自分でも納得がいくようになると思うのだ」
なるほどな。
「例えば夜も火とか危ない物を使わずに室内を充分な明るさに出来たり、そうしたら俺もきっと納得出来るんですかね」
「なぬ、そんな発明物だったのか」
アン先輩がそう言って書類を覗き込んできた。
「それはこの前の電気というものの知識の一つなのか」
「電気と、あとガラスという透明で硬い材料を使って電球という道具が出来るんです。それがあれば夜でも本を読める程度の明るさは手に入るようになります」
「いいなあ。そうすればもっと使える時間が延びるよね」
ラインマインがそう言って、皆が頷いた。




