§101 私は自分で知りたいのだ
アン先輩は続ける。
「この国には元から住んでいる人にはわからない不自然な点が色々あるらしいのだ。ジュール先生がそう言っていたのだ。ホクトも何か他に感じた事はあるのか?」
俺は首を横に振る。
「いや、今の神話や伝承が無いというのも言われて始めて気づいた位です。でも言われると確かにそうだなと思います。特に魔法なんて普通、神や悪魔のような人以上の力を根源にしていたりするものですから」
「その通りなのだ」
アン先輩は頷く。
「他にもあの遺跡の事とか、不自然なことは色々あるのだ。
例えばこの世界には他世界から人や物が落ちてくるのだ。更に別世界の人でも普通に結婚して子孫を残したり出来るのだ。
でも本当に別の世界なら、生殖可能なほど遺伝子が同じだというのはおかしいのだ。並行進化で形態が似たとしても交配可能にはならないのだ。
更に言うと魔法という力そのものも謎なのだ」
うんうん、俺は頷く。
「考えても答が出ない問題というのもある事はわかっているのだ。でも月が綺麗な夜はつい、ジュール先生のあの話を思い出してしまうのだ」
なるほどな。
神がいないというのは気づいていた。
でも言われてみると確かに不自然だ。
ふと思う。
レマノとか、更にはサフィールとかはこれらの謎の答を知っているのだろうか。
少なくとも一部の答は知っているのだろう。
カイドーの本家地下に遺跡があるというのなら。
少なくともその遺跡が何であるかくらいは。
色々考えてみて、そして気づいたことを口にしてみる。
「でもこの国の社会そのものは上手く行っていると思いますよ。特に貧困層がほとんど無く、皆ある程度の生活水準にあるという意味で」
アン先輩は頷く。
「それも確かなのだ。上手く行きすぎていてまた不自然なのだ、きっと」
なるほど、そう言われれば確かにそうかもしれない。
「きっとサフィール姉やレマノ姉はある程度の事は知っていると思うのだ。そして十七年後、おそらく私も知る事になると思うのだ。でもその前に自分の手である程度の真実を知りたいのだ」
知る事になる、という事は。
「跡を継がれるんですか」
「おそらくそうなるのだ」
アン先輩は頷く。
「バルジヴェル家の同世代には禄なのがいないのだ。レマノ姉の次の世代で高級大學まで行けそうなのが私だけなのだ。この辺の進学審査は公正なのだ」
「俺は横入りに近い形で入学しましたけれど」
「学力がそれ相当と認められたからこそなのだ。そうでなければ市長推薦でも入れてくれないのだ」
思った以上にこの国は公正かつ厳格なようだ。
「タイムリミットはあと十七年なのだ。用意された答を与えられる前に自分で謎を解き明かすのには。自力で答の一部にでも辿り着くにはなのだ」
「神の不在やあの遺跡や、この社会の妙な点ですか」
「そうなのだ。久しぶりに綺麗な月を見て思いだしたのだ。ちょっと前までの燻っていて絶望していた私も思い出したのだ」
?
どういう事だろう。
「まあその辺は色々とあるのだ。ただ思い出したからには取りかかろうと思うのだ。
まずはカウフォードの遺跡をもっと調べてみるのだ」
「でも入口はIDとパスワードが無いと入れないですよね」
「他に入口が無いか探してみるとのだ。他にも図書館で手がかりが無いか調べるなんて事もしてみるのだ。やろうと思えば幾らでも手段はあるのだ。ただ途方に暮れているだけでは先に進めないのだ。
取り敢えず帰ったら、ホクトのスケッチにあった熱気球を造ってみるのだ。あれで上空から見えれば他に遺跡は無いかある程度わかるのだ」
なるほどな。
「布がたくさん必要そうですね」
「ヘラが渋りそうなのだ。でも空を飛べるという事を強調すれば出してくれると思うのだ」
うん、やってみる価値はあるかな。
カウフォードに帰ってからもまだまだ色々ドタバタしそうだ。
でもそれはそれで楽しいに違いない。
そんな事を思いながら俺は先輩と月を眺めていた。




