第二十六章 襲撃
ナポリに戻った。
二度目のナポリの匂いは、一度目とは違って聞こえた。同じ塩と魚と汚水の匂いだったが、犬の鼻がそれを処理する速度が遅くなっていた。匂いの情報量に、老いた脳が追いつかなかった。ローマに来た最初の日、匂いの洪水に溺れそうになった。あの日は若かった。匂いが多すぎて処理できなかった。今は逆だった。匂いは同じだけあるのに、鼻がそれを受け取る能力が落ちていた。世界が薄くなっていた。匂いの解像度が下がっていた。以前は百の匂いを百のまま識別できた。今は百の匂いのうち六十ほどしか分けられなかった。
コルナッキアの体は確実に衰えていた。右の後脚が朝ごとにこわばった。階段を降りるのに以前の倍の時間がかかった。目のかすみも出始めていた。夜間視力はまだ人間より優れていたが、若い頃の鋭さはなかった。蝋燭一本の光で主人の手許を完璧に追えたあの夜間視力が、曖昧になりつつあった。
カラヴァッジョはナポリで制作を続けていた。顔の傷跡が残ったまま。恩赦を求める絵を描き続けていた。ローマの有力者に送るための作品。ボルゲーゼ枢機卿。教皇パウルス五世の甥であり、恩赦の鍵を握る男。その男の心を動かし、ローマへの帰還を許してもらうための絵を。
ある夕方、カラヴァッジョは一人で居酒屋に出かけた。オステリア・デル・チェッリーリョ。コルナッキアも一緒だった。老いた体を引きずりながら、主人の半歩後ろを歩いた。以前より歩幅が狭くなっていた。主人の歩幅に合わせるのが難しくなっていた。
居酒屋に入り、テーブルについた。犬は椅子の下にいた。葡萄酒の匂いと肉の匂い。いつもの居酒屋の匂い。
異変は、突然に来た。
前触れなく。
匂いの変化を感知する前に、音が来た。扉が勢いよく開く音。複数の足音。走っている足音。
コルナッキアの体が反応した。老いた体が一瞬で緊張した。毛が逆立った。しかし反応が遅かった。若い頃なら匂いが先に来たはずだった。今は音が先に来た。嗅覚の処理速度が聴覚に追いつかなくなっていた。
刃物の光。
犬の目にも金属の反射が見えた。
男たちがカラヴァッジョに向かって走ってきた。
テーブルが倒れ、杯が床に落ちて砕けた。
カラヴァッジョがテーブルを蹴って椅子から立ち上がった。剣を抜こうとした。しかし遅かった。最初の一撃が彼の顔の左側に当たった。血が飛んだ。
コルナッキアは叫ぶように吠えた。噛みつこうとした。テーブルの下から飛び出し、一番近い男の脚に歯を立てようとした。犬の歯が男の脛の布を噛んだ。しかし歯が肉まで届かなかった。老いた顎の力が弱かったのだ。布を噛んだまま振り回され、蹴り飛ばされた。犬の体が居酒屋の壁に叩きつけられた。肋骨に衝撃が走った。
このとき、瞳は完全に犬だった。噛みつこうとした瞬間、人間としての判断は一切介在していなかった。主人を傷つける者に対する、純粋な動物の怒り。牙を立て、唸り、噛み、引きずろうとした。計算はなかった。恐怖もなかった。ただ一つの衝動。主人を守れ。
壁に叩きつけられた後、数秒間動けなかった。肋骨が痛んだ。呼吸が苦しかった。目の前が暗くなった。老いた体に、この衝撃は大きすぎた。
横たわったまま、犬の耳は戦いの音を聞いていた。カラヴァッジョが反撃していた。剣を抜いた音が聞こえた。金属と金属がぶつかる音。しかし長くは続かなかった。カラヴァッジョの体も万全ではなかった。大腿部の古傷が、激しい動きを許さなかった。
音が遠くなった。走る足音が遠ざかっていった。男たちが去ったのだ。店の中に怒鳴り声と泣き声が残った。テーブルが横倒しになり、葡萄酒が床に広がっていた。酒と血の匂いが混じって、居酒屋の薄暗い空気を汚していた。
コルナッキアは体を起こした。四本の脚で立ち上がった。右の後脚が痛んだ。しかし立った。主人の匂いを探した。血の匂いが部屋中に広がっていた。カラヴァッジョの血だった。
テーブルの横に、カラヴァッジョが倒れていた。顔から血を流していた。頬と額に切り傷があった。深い傷だった。鼻から顎にかけて、刃が走った跡があった。
コルナッキアはカラヴァッジョの傍に寄った。顔に鼻を近づけた。血の匂いの下に、まだ生きている匂いがあった。心拍が聞こえた。速かったが、止まっていなかった。
後から冷静さが戻ったとき、瞳はようやく自分が何をしたかを理解した。あの時、人間としての判断なしに。犬として噛みついた。十五年かけて、本当にコルナッキアになっていた。
人間の瞳なら、暴漢を前にして判断しただろう。逃げるか、叫ぶか、助けを呼ぶか。計算しただろう。リスクを測り、自分の安全を確保しただろう。犬はしなかった。犬は噛みついた。計算なしに、ためらいなしに、歯を立てた。蹴り飛ばされることがわかっていても止まらなかった。止まるという選択肢が、体の中になかった。
それは恐ろしいことだった。人間の判断力を完全に失った証拠だった。しかし同時に、奇妙な解放感があった。
計算しないこと。
判断しないこと。
結果を考えないこと。
体が先に動くこと。
ヘレン教授が言っていた「火傷することを拒否している」という言葉が、犬の体の底から浮かんだ。火傷した。今夜、噛みつくことで、蹴り飛ばされることで、壁に叩きつけられることで。感情が体を動かすことが、火傷するということだった。
居酒屋の主人が駆けつけた。カラヴァッジョを別の部屋に運んだ。水で傷口を洗った。コルナッキアは主人の横から離れなかった。右の後脚が痛んだが、座ることはできた。肋骨は折れていないようだった。呼吸のたびに痛みが走ったが、吸い込むことはできた。
カラヴァッジョの顔の傷は深かった。鏡はなかったが、犬の鼻には傷の深さがわかった。筋肉まで達している匂い。頬の傷からは骨が近い匂いがした。この傷は跡を残す。この人の顔は永遠に変わる。
しかしカラヴァッジョの体からは、不思議なことに恐怖の匂いが薄かった。怒りの匂いはあった。しかし恐怖は少なかった。シチリアの悪夢の中の恐怖の方が、今夜の襲撃よりも激しかった。夢の中の追手の方が、現実の追手よりも怖かったのだ。現実の暴力はこの人にとって馴染みのある場所だった。剣を抜く感触。血の匂い。痛み。すべてが既知だった。既知のものは恐怖にならなかった。
数日後、カラヴァッジョはアトリエに戻った。顔に包帯を巻いたまま、筆を持った。右目の上の傷が包帯の下でまだ痛んでいたが、左目は無事だった。片方の目だけでカンヴァスに向かい、筆を走らせた。
カラヴァッジョの顔に新しい傷跡が加わった。ナポリでの襲撃で、この人の顔は永遠に変わった。鏡を見れば、ローマにいた頃の顔はもう二度と戻らない。
それでもこの人は描き続けるだろう。描き続ける以外のことを、この人は知らなかった。傷ついた顔で、傷ついた体で、傷ついた犬を連れて。次の絵に向かうだろう。次の光を探すだろう。最後の光を見つけるまで。
コルナッキアは主人の足許で目を閉じた。右の後脚が鈍く痛んだ。壁に叩きつけられた衝撃が、老いた骨の中に残っていた。しかし痛みの中に、奇妙な温もりがあった。噛みついた歯の感触が、まだ顎に残っていた。噛みつくことができた。体が動いた。主人のために動いた。犬として、最後まで、体が動いた。それだけが、この老いた体の中で、確かなことだった。




