第二十四章 シチリアの旧友
シチリアの港に降り立ったとき、最初に届いたのは匂いではなかった。声だった。波止場で荷を運ぶ男たちの怒鳴り声が、ナポリの方言とは違うリズムで耳に入った。その声の向こうから、懐かしい匂いが届いた。
コルナッキアの鼻に届いたのは、潮風と柑橘と火山灰の匂いだった。ミンニティの匂い。あのシチリアの日差しを吸った肌の匂い。マダマ宮に初めて訪ねてきたときに記憶した匂いと、同じ系統の匂いが、この島全体から立ち上っていた。
シラクサ。古い石造りの穏やかな街だった。ギリシアの神殿の遺跡が丘の上にあり、港には漁船が並んでいた。ナポリの裏路地ほどの貧困はなかったが、ローマの華やかさもなかった。穏やかな匂いの街だった。人を殺した男が身を隠すには、あまりにも穏やかだった。
ミンニティは港に来ていた。
誰かが船の到着を知らせたのだろう。カラヴァッジョが船を降りるのを待っていた。犬が先に匂いを嗅いだ。柑橘と汗と絵具。ミンニティの匂い。ローマで別れてからもう何年経ったのだろう。犬の体には年数を数える機能がなかったが、匂いの記憶は正確だった。この匂いを、犬の体は覚えていた。
ミンニティはカラヴァッジョの姿を見て、言葉を失った。
コルナッキアの鼻に、ミンニティの匂いの変化が届いた。驚きの匂い。心拍の急変。呼吸が止まる匂い。ミンニティは変わり果てた友人の姿を見ていた。痩せこけ、目が落ち窪み、大腿部を庇って歩き、修道服は汚れ、牢の匂いがまだ体に染みついていた。
しかしミンニティの目はすぐにコルナッキアに移った。犬を見て、顔が変わった。驚きの匂いに、別の匂いが混じった。喜びの匂いだった。体温がわずかに上がり、汗の組成が変わる匂い。温かい匂い。
「こいつ、まだ生きてるのか」
ミンニティは屈み込み、コルナッキアを抱きしめた。犬の巻き毛に顔を埋めた。柑橘の匂いが犬の鼻を満たした。懐かしい匂いだった。ロンギのソーセージの匂いとは違う種類の懐かしさだった。ミンニティの匂いには暴力がなかった。暴力の匂いがない、安全な匂いだった。ローマの夜を共に歩いた男たちの中で、ミンニティだけが刃物の匂いを持たなかった。
コルナッキアは尻尾を振った。老いた尻尾が、以前ほどの速さでは振れなくなっていた。しかし確かに、二回振れた。
ミンニティが顔を上げ、カラヴァッジョを見た。
「お前、こいつを連れてマルタまで行って、脱獄しても離さなかったのか」
カラヴァッジョの口が少しだけ動いた。笑おうとしたのかもしれなかった。しかし笑いにはならなかった。唇の端がわずかに上がっただけだった。
「ああ。なにしろこいつが俺の一番の傑作だ」
冗談だった。冗談の体裁を取っていた。しかしその声は冗談の声ではなかった。低く、乾いていた。真実を冗談として言う声だった。
ミンニティはシチリアで画家として暮らしていた。ローマを離れた後、故郷に戻り、穏やかに制作を続けていた。大きな注文はなかった。教会の小さな祭壇画や、地元の名士の肖像画。カラヴァッジョのように画壇を揺るがすことはなかったが、飢えることもなかった。剣は帯びていなかったし腰に金属の匂いがなかった。
ミンニティの家にカラヴァッジョを案内した。小さな家だった。石壁の二階建て。一階にアトリエがあり、二階に寝室があった。アトリエの匂いは、カラヴァッジョのアトリエとは違っていた。同じリンシード油の匂いがあったが、量が違った。密度が違った。カラヴァッジョのアトリエが絵具の嵐の中にあるとすれば、ミンニティのアトリエは絵具の静かな午後だった。壁に何枚かの絵がかけてあった。小さな宗教画と肖像画。カラヴァッジョの光とは違う光が、その絵の中にあった。穏やかな光。殺傷力のない光。
コルナッキアはミンニティのアトリエの隅に座り、二人の画家を見ていた。同じ世界で始まった二人が、こんなにも違う場所にいた。一人はシチリアの小さな家で穏やかに暮らし、一人はマルタの地下牢から脱獄して追われている。
才能の差だった。
しかし才能だけの差ではなかった。カラヴァッジョの中にある壊す力が、ミンニティにはなかった。壊す力がないことは、穏やかさだった。壊す力があることは、天才だった。どちらが幸福かは、犬にはわからなかった。
ミンニティが食事を用意した。パンとチーズと干した魚と橄欖の実と、地元の葡萄酒。質素だが清潔な食卓だった。カラヴァッジョは久しぶりにまともな食事をした。食べる速度が荒々しく速かった。牢の中で飢えていた体が、食事の匂いに反応していた。ミンニティは何も言わず、ただカラヴァッジョが食べるのを見守っていた。時おり犬にもパンの切れ端を投げた。
食事の後、ミンニティがカラヴァッジョに訊いた。
「これからどうする」
カラヴァッジョは窓の外を見た。シラクサの穏やかな夕暮れが見えた。
「描く。描くしかない。恩赦を得るための絵を描く。教皇に送る絵を描く。描いて、描いて、ローマに帰る」
その声には力があった。牢の中で失われていた力が、食事と安全な場所と、旧友の存在によって、少しずつ戻り始めていた。
瞳はミンニティの家の隅から、二人を見ていた。この世界に、まだカラヴァッジョを人間として見てくれる人がいる。才能としてではなく、騎士としてでもなく、犯罪者としてでもなく、かつて一緒にローマの路地を歩いた友人として。ミンニティの匂いの中にあるのは、利害でも政治でもなく、ただ昔からの親しみだった。犬が主人に対して持つ感情とは違うが、同じくらい単純で、同じくらい揺るがないものだった。
コルナッキアはミンニティの足許に寄り、体を寄せた。ミンニティの手が犬の頭を撫でた。若い頃と同じ撫で方だった。ローマの居酒屋の下でソーセージをくれたときと同じ手つきだった。しかし犬の頭は白い毛が増え、背骨が以前より浮いていた。ミンニティの指がそれに気づいたかどうか、犬にはわからなかった。
その夜、カラヴァッジョはミンニティの家の二階で眠った。コルナッキアは寝台の横に丸くなった。隣の部屋からミンニティの寝息が聞こえた。穏やかな呼吸だった。カラヴァッジョの呼吸も、今夜は穏やかだった。悪夢は来なかった。マルタの地下牢以来、初めての穏やかな夜だった。安全な場所の匂いが、二人の画家と一匹の犬を包んでいた。




