第十七章 逃亡
教皇領の外に出るまで、まる三日かかった。
夜だけ移動した。昼間はコロンナ家の関係者が用意した隠れ家に身を潜めた。農家の納屋、修道院の裏部屋、街道沿いの宿の地下室。場所が変わるたびに匂いが変わった。干し草の匂い、黴の匂い、土壁の匂い。ローマの匂いが一つずつ剥がれ、見知らぬ土地の匂いに置き換わっていった。
馬車の中でカラヴァッジョは横になっていた。右脚を伸ばし、丸めた外套を枕にしていた。揺れるたびに顔が歪んだ。痛みが走っているのだろう。しかし声は上げなかった。歯を食いしばる音が、犬の耳には聞こえた。
カラヴァッジョの大腿部の傷は、三日経っても塞がらなかった。歩くたびに血が滲み、包帯が汚れた。匂いでわかった。包帯を替えるたびに、古い血の匂いと新しい血の匂いが混じった。化膿はしていなかった。腐敗の匂いはまだなかった。しかし体力の消耗は続いていた。カラヴァッジョの体臭が薄くなっていた。汗の量が減り、体温がわずかに低い状態が続いていた。
コルナッキアはカラヴァッジョの足許を離れなかった。馬車に乗れば馬車の床にいた。歩けば隣を歩いた。夜、隠れ家の床に横になるカラヴァッジョの脇に、体を寄せて眠った。犬の体温が男の体の片側を温めた。
パリアーノに着いた。
ここはコロンナ家の領地だった。城壁に囲まれた小さな町で、ローマとは空気が違った。乾いた丘陵の匂い。橄欖の木の匂い。羊の毛の匂い。ローマの石畳と汚水の匂いが消え、土と草の匂いに変わっていた。風が違った。ローマの風は建物に遮られて渦を巻く風だった。ここの風は丘の上から真っすぐに吹き下ろしてくる風で、犬の毛を一方向に流した。
コルナッキアは馬車を降りて、初めて土の地面を踏んだ。ローマに来てからずっと石畳の上を歩いてきた。土は柔らかかった。肉球が乾いた草の茎を踏む感触があった。体の芯から力が抜けるような安堵が、脚の裏から這い上がってきた。安全な場所の感触だった。追手がここまでは来ない。教皇庁の手がここには届かない。
コスタンツァ・コロンナが待っていた。
彼女の匂いは高価な布と古い建物と、乾いた紙の匂いだった。権力の匂いだった。しかしデル・モンテ枢機卿の冷たい匂いとは違っていた。枢機卿の匂いが石と金属なら、この女の匂いは木と羊皮紙だった。古い家の匂い。何世代もの家族の匂いが染みついた建物の匂い。
コスタンツァはカラヴァッジョの姿を見て、顔を動かさなかった。痩せて、足を引きずり、衣服に血の跡が残った男を見ても、表情を変えなかった。声だけが低くなった。
「部屋を用意してある。傷を診る者も呼んだ」
それだけ言って踵を返した。コルナッキアの前を通り過ぎるとき、彼女の目が一瞬だけ犬を見た。眉がわずかに動いた。犬を連れてきたのか、という表情だった。しかし何も言わなかった。
カラヴァッジョは用意された部屋に入った。石壁の小さな部屋で、窓は一つだけだった。寝台の上の毛布は清潔だった。乾いた麻の匂いがした。ローマの寝台の匂いとは違う、洗濯された匂い。
カラヴァッジョは寝台に横になった。目を閉じた。数秒で眠った。三日間の逃亡で消耗した体が、安全な場所に着いた瞬間に崩れ落ちた。
コルナッキアは寝台の横に座った。主人の呼吸を聞いた。深い呼吸だった。逃亡中の浅い呼吸とは違う。体が安全を認識した呼吸。心拍も落ち着いていた。
瞳は犬の体の中で、ようやく自分の震えが止まったことに気づいた。三日間、震え続けていた。気づかなかった。体の震えが日常になっていたことに、止まった瞬間に気づいた。
翌日、コスタンツァが部屋を訪ねてきた。カラヴァッジョはまだ眠っていた。彼女は寝台の脇に立ち、眠っている男の顔を見下ろした。
コルナッキアは彼女の匂いの変化を嗅ぎ取った。いつもの乾いた権力の匂いの奥に、かすかに温かいものがあった。感傷ではなかった。もっと古いものだった。この女はカラヴァッジョの母ルチアを知っていた。ルチアの息子がこの姿で自分の城に転がり込んできたことで、何かが動いているのだろう。しかしそれを顔には出さなかった。
コスタンツァは部屋を出ようとして、足を止めた。コルナッキアが扉の脇に座っていた。彼女は犬を見下ろした。
犬はこの女の匂いを読んでいた。政治家の匂いだった。しかし枢機卿の政治とは種類が違った。枢機卿の政治は教皇庁の権力闘争だった。この女の政治は家の存続だった。何世代も前から続くコロンナの名を、次の世代に渡すこと。カラヴァッジョを匿うのは、カラヴァッジョへの愛ではなく、コロンナの家が保護した画家を見捨てたという汚名を避けるためだった。しかし匂いの奥に、それだけでは割り切れない何かがあった。
コスタンツァは手を伸ばし、コルナッキアの頭を一度だけ撫でた。指先が巻き毛に触れ、すぐに離れた。それだけだった。それが彼女の言語だった。「お前の犬を認めた」。言葉にしない承認。
コスタンツァが部屋を出た後、カラヴァッジョが目を開けた。起きていたのだ。コスタンツァが犬を撫でたことを見ていたのだ。
彼は何も言わなかった。しかしその夜、カラヴァッジョは少し穏やかに眠った。呼吸が深く、心拍が安定していた。犬の耳が、その微かな変化を聞き取った。
翌朝、カラヴァッジョは窓の前に立った。小さな窓から、パリアーノの丘陵が見えた。橄欖の木が斜面に並び、朝の光がその葉を照らしていた。
カラヴァッジョは部屋を見回した。壁を見た。光を見た。窓の位置を確かめた。
「紙はあるか」
コスタンツァに頼んで、紙と木炭を持ってきてもらった。寝台の上で体を起こし、膝の上に紙を置き、何かを描き始めた。小さなスケッチだった。人物の柔らかい輪郭。女と子供。聖母子像の構図だった。
瞳はそれを見ていた。この人は人を殺した数日後に、聖母の絵を描こうとしている。傷が塞がらない体で、逃亡先の寝台の上で、聖母と幼子の構図を練っている。
紙の端に、カラヴァッジョは小さな影を一つ描き加えた。聖母の足許の、犬の影。
コルナッキアの丸まった小さな影だった。




