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【短編版】剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで   作者: 角乃とうふ


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第弐陣 七級の実力

「……重い。なんだよ、この感覚」


 クラウスのコックピット。握った操縦(かん)から伝わってくるのは、その鉄腕の重みだった。

 だが、不思議と嫌な感じはしない。むしろ、小学校の体育館で、汗だくで竹刀を振るっていたあの頃の感覚が、掌を通じて鮮明に蘇ってくる。コックピット内には良く分からない計器が無数に配置されているが、尋人は、何故だか操縦できそうな気がした。


「大切なのはイメージだ。クラウスと一体になったつもりで操縦桿を操作しろ」


 浮かんでいる黒猫のホログラムが尋人の直観を後押しする。

 正面。インペトラル帝国の無人機巧兵スチームドールの一体が、キャタピラで石床を削りながら突進してくる。人型の上半身が、両手に持った巨大な鉄槌を力任せに振り下ろした。


「危なっ……!」


 尋人は咄嗟に操縦桿を引いた。

 ガキッ! と耳を突き刺す金属音が響き、クラウスの右腕が敵の鉄槌を受け止める。

 衝撃がコックピットを揺らした。だが、クラウスは全くの無傷だった。


「ふん、驚くことじゃない。機体の性能差に加え、その霊子力。……想定通りだが、やはりお前の出力は桁外れだな」


 黒猫が、満足げな表情を浮かべた。

 その時だった。戦場の空気を切り裂くような、鋭い声が響く。


「――そこまでだ、賊徒ども!」


 戦場を横切る青白い閃光。

 それは、機巧武者よりも小さく、しかし無人機巧兵を遥かに凌駕する速さで動く「人」の影だった。

 濃紺の袴を模した積層装甲に、真鍮の胸当て。背中の小型ボイラーから襟巻のように青い蒸気をなびかせ、一人の少女が立ちはだかる。


「――機巧甲冑『蒼月(そうげつ)』。四条凛のお出ましか」


 黒猫がその名を呟く。彼女はクラウスに鉄槌を振り下ろした無人機巧兵に向かって、腰の刀を抜きざまに斬撃した。刀身が輝き、白い蒸気がほとばしる。刹那、閃光と共に、無人機巧兵の胴が横に真っ二つに割け、爆発した。彼女は振り返ると、背後に立つ深緑の巨躯――尋人の乗る機体を見て、驚愕した。


「なぜ、甲一型が動いている……!? 適合者は未だ不在のはずだ! ……貴公がどこの所属かは知らぬが、下がっていろ! 実戦投入できる段階ではないはずだ。ここは私――皇國特務隊、四条凛が引き受ける!」


 無線から響く、凛々しくも困惑の混じった少女の声。

 しかし、後に控えた複数の無人機巧兵が、計算され尽くした連携で彼女を包囲していく。四条凛の機巧甲冑は、人型サイズだ。ゆえに、一撃でも加えられれば致命傷となってしまうのでは――そう心配する尋人の身体は勝手に動いていた。


「……四条さん、避けてくれ!」


 尋人は無我夢中で、クラウスの操縦桿を深く、真っ直ぐに押し込んだ。クラウスが腰の大太刀を引き抜いて、中段に構える。


「なっ……!? 待て、貴公、本気か! 適合試験も済んでいない機体でその出力……制御不能で自壊するぞ!」


 確かに、クラウスの計器類は針を振り切り、警告音が鳴り響いている。

 だが、尋人には確信があった。

 この有り余る力、真っ直ぐにぶつければ「一本」取れる。

 彼は目を閉じた。

 体育館の床を素足で踏む感触。何度も繰り返した素振り。一、二、三……。

 そして、先生に口が酸っぱくなるほど言われ続けた言葉。


『背筋を伸ばし、真っ直ぐに、最短距離で打て』


 クラウスのボイラーの内圧が一気に上昇する。

 尋人の霊子力が機体と完全に同期し、正面に直線の青白いレールが形成されるのが見えた。


 一歩。信じられない加速で、五メートルを超す巨体が地を蹴った。


「……めぇぇぇぇんっ!!」


 最短距離。一切の無駄を省いた、垂直の振り下ろし。

 クラウスの巨大な太刀が、深緑の残像を伴って、敵陣中央の無人機巧兵へと叩きつけられた。


 ドゴォォォォォォォーンッ!!


 衝撃波が周囲の無人機巧兵をまとめて吹き飛ばし、静寂が訪れる。

 直撃を受けた敵機は、頭部からキャタピラの底までを完璧に一文字に両断されていた。

 刀を振り下ろした姿勢のまま静止する、鋼鉄の武者。


「……嘘。あんな無茶苦茶な出力で、僅かのブレもなく一点に……?」


 通信越しに、四条凛の、信じられないものを見たような声が聞こえる。


「本当に、特務が捜し続けてきた『適合者』だというのか……!? 貴公一体、何者だ!」


 尋人は荒い息を吐きながら、操縦桿を握る手の震えを抑えた。

 クラウスの足元で、凛が自身の数倍もの大きさを誇る深緑の機体を見上げている。


「……何者って、帰宅部の高校生です」


 尋人がそう答えた瞬間、一刀両断された残骸がゆっくりと左右に広がるように崩れ落ちた。

 この時、彼はまだ知らなかった。

 この「基本の一撃」が、列強渦巻くこの世界の常識を、根本から揺るがすことになるなんて。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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※本作は、現在連載中の長編の短編版(第一章相当・全三話)です。

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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話・執筆済】https://ncode.syosetu.com/n0061me/

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