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【短編版】剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで   作者: 角乃とうふ


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3/3

第参陣 蒸気演算を砕く一撃

「まさか、極東の二等国家にこれほどの出力の蒸気兵器が存在していたとはな。これは、情報収集して、陛下に報告せねばなるまい」


 煤煙(ばいえん)の向こう側から、瓦礫(がれき)を揺らして一機の巨大な影が現れた。

 無人機巧兵(スチームドール)とは一線を画す、巨大な黒鉄の異形。それは六本の多関節脚で大地を掴む、蜘蛛を彷彿とさせる重戦車だった。背負った巨大な蒸気蓄圧タンクから、不気味なほど安定した排気音を漏らしている。


「気をつけろ。あれは、インペトラル帝国の指揮官級の搭乗機だ」


 黒猫の声に、今までにない緊張が含まれていた。

 コックピット正面の窓から見える敵機の中央、円筒形の砲塔に備わった赤色灯が明滅している。それは冷徹に、クラウスの関節位置や蒸気圧を読み取っているようだった。


「私はインペトラル帝国の参謀、イワン。せっかくの機会だ。私とも少し遊んでくれたまえ」


 黒鉄の異形が動いた。低い姿勢から多脚を駆動させ、地面を滑るような高速移動を見せる。

 尋人は反射的に操縦(かん)を引こうとしたが、その瞬間、こちらの動きを予測しているように、敵の銃口が火を噴いた。


「……無駄だ。先ほどの戦いで得た蒸気演算により、君の動きは予測できる。私の間合いに入る前に蜂の巣だ」


 ダダダダッ! と正確無比な銃撃がクラウスの装甲を叩く。ダメージは受けているが、まだ耐えられる。ならば――


「まだ見せてない、とっておきをお見舞いしてやる……!」


 尋人は深い息を吐いた。鋭い踏み込みと同時に上段から振り下ろす一撃。「型」だけは綺麗だと、当時、先生から褒められた一挙動だった。

 ボイラーの内圧が極限まで高まり、クラウスの脚部から高圧蒸気が爆発的に噴射される。

 

「なっ……!?」


 イワンが驚愕の声を上げたときには、クラウスは軽やかに跳躍して一瞬で間合いを詰めていた。石床が陥没するほど激しい踏み込みと同時に、イワンの搭乗機頭部へ渾身の一撃が振り下ろされる。

 刹那、イワンは機体前面の装甲板を兼ねた堅牢な副腕を交差させ、頭部を庇った。だが、一点に集中された規格外の一撃は、その両腕を粉砕した。


 ガシャァァァンッ!!


 衝撃波が走り、ガードしたはずの黒鉄の腕はひしゃげ、頭部の赤色灯も大破した。

 情報解析を、圧倒的な破壊力が粉砕した瞬間だった。


「……規格外の霊子出力。これは戦略の練り直しが必要な危険因子だな。この場は一旦、引かさせてもらおう」


 機体のダメージを察知したイワンは、姿勢を立て直すと煙幕を張り、霧の中へと消えていった。深追いはできなかった。クラウスの排気筒からも、限界を知らせる黒い煙が上がっていたからだ。


* * *


 数刻後。戦火が収まった大日本皇國皇都の片隅。


「今夜は、ここに逗留されよ。店主のお千代殿には話を通している。明日、司令部に同行願いたい。貴殿からは聞きたいことが山ほどある故」


 四条凛に案内されたのは、(ねずみ)色の屋根瓦と使い込まれた木の質感が歴史を感じさせる、二階建ての和風建築だった。一階の軒先には「夕凪亭」と染め抜かれた暖簾が揺れ、格子戸の向こうからは味噌汁の美味そうな匂いが漂ってくる。ここは皇都の労働者たちの胃袋を満たす、界隈でも評判の食堂らしい。


 凛は機巧甲冑の装備を解いていた。濃紺の(はかま)に、白い小袖。腰まで届く艶やかな黒髪を、高い位置でポニーテールにまとめている。凛とした佇まいで、尋人をまっすぐに見つめる切れ長で涼やかなその瞳には、最初に出会った時の厳しさはもうなかった。


「佐藤尋人殿。本日は助太刀いただき感謝している。貴殿の剣……あのような美しい『型』は初めて見た。あの太刀筋を私は信じたいと思う」


 彼女は武人らしい綺麗な一礼をすると、夜の(とばり)へと消えていった。

 夕凪亭の引き戸を開けると、割烹着姿の店主・お千代が「あら、凛ちゃんの紹介の方ね」と柔らかい微笑みで迎えてくれた。

 落ち着いた雰囲気の若い女性で、尋人の張り詰めていた緊張感は一気にほぐれた。急な板階段を上がった二階の一角にある空き部屋に通される。

 隅々まで掃除の行き届いた六畳一間の畳部屋には、どこかホッとするい草の香りが漂っていた。

 窓を開けると、夕暮れの心地よい風が通り抜け、眼下には黄色いガス灯の柔らかな光に包まれる皇都の夜景が見える。


「……さて、と。これから忙しくなるにゃ。帝国だけじゃない。いずれ、列強諸国にお前の『力』が知れ渡るにゃ」


 ホログラムから再び実体にもどった黒猫が、あくびをしながら告げた。


「にゃ?」

「猫は語尾に『にゃ』を付けた方が、人間は喜ぶんだにゃ?」

「いや、キャラ変が過ぎないか?」

「今まではナビゲーターとしての威厳を保つため、猫かぶってただけにゃ。明日は、吾輩のご主人に合わせてやるにゃ。言っとくが目の覚めるような美少女にゃ。惚れるにゃよ?」

「異世界にいきなり連れ込まれて、そんな余裕ないよ……」


 尋人は、夜空に響く汽笛の音を聞きながら、自分の掌を見つめた。

 何もなかった、これまでの自分。

 でも、今日この世界で感じた「手応え」は、嘘じゃない。


「とりあえず、明日だ。……今日はとっとと寝るとするか」


 佐藤尋人の、鋼鉄と蒸気が支配する異世界での戦いは、まだ始まったばかりだ。


 完

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

 

蒸気機関が異常発達した異世界で、現代高校生の「剣道の初歩」が無双する物語、いかがでしたでしょうか?


この短編は、現在連載中の『剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話・執筆済】』のお試し版(第1章相当)です。長編版では、この第1章も加筆修正しています!

 

長編版では、ここから尋人は、四条凛やまだ見ぬヒロインたちとともに、列強諸国の思惑が入り混じる、苛烈な戦いに身を投じていきます。

続きが気になる方は、是非下記から長編版もご覧下さい!

剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話・執筆済】https://ncode.syosetu.com/n0061me/


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※当初は長編版の投稿に伴い、この短編は公開終了の予定でしたが、皆様の応援のおかげで現在ランキング入りしておりますことから、【短編版】として残すことにしました。

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