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 研究室にはアルノをはじめとする学者たちとリシェル、そしてカリスタがいた。

 いつもはスライムや動物の後を追い回している学者らが今は凛然としており、優秀な人間たちなのだとリシェルやカリスタに改めて知らしめる。


「情報収集を任せていたフランクから報告がありました。現在、より詳細な情報を探らせています」

 病の症状は高熱があるにもかかわらず寒気やふるえがおき、さらには頭痛や関節痛、筋肉痛を起こす。時には下痢、嘔吐を引き起こすという。

 風邪の症状にも似ているが、レファートの流れるような説明を聞くうち、学者たちは次第に悪い予感に顔色を失っていく。

「そして、発熱と無熱とを繰り返すというのです」

 息を呑む音、喉を鳴らす音、大きく息をつく音がした。


「おそらく、バダーだな。実際に診てもいないのに断定するのは危険だが、そう想定して早期に対応した方がいいだろう」

「っ?!」

 誰もが忌避した病名をアルノが口にし、さすがにその名を知っていたリシェルとカリスタが声なき悲鳴を上げる。

 それはがたがたと体が震える病で、ひとりが罹ると、近くにいる者も同じ症状を訴える。高熱が出た後、熱が下がったからといって放っておくと死に至る危険のある病だった。


「急ぎ、脾臓(ひぞう)の腫れの有無を確認してくれ」

「承知しました」

 アルノの言葉に、打てば響くように答えたレファートはおそらくすでに調べさせているのだろう。

 バダーは悪い空気、つまり瘴気によって引き起こされる流行り病と言われている。この瘴気に侵された者は風邪のような症状のほかに、定期的な高熱が起こり、一部内蔵の腫れが生じることもあるという。


「薬は足りているのか?」

「それが、流行り始めたとたん、品切れとなったそうです。もともと、ヨルグ町には小さな薬屋しかないので、オウカコウの在庫も乏しかったようです」

 オウカコウはバダーの特効薬に用いられる薬草である。羽状複葉の葉を持ち子供の背丈ほどの高さにまで成長する。


「クイニンは?」

 バダーに効果を示す成分を持つ薬草クイニンは、めまいや食欲不振、頭痛、耳鳴り、果ては視力低下といった副作用があるとされている。さらには、近縁種すべてに薬効成分があるのではなく、効き具合が違ってくる。

「流行り病が認められたときから、不足しがちとなっているようです」

 アルノはひとつ頷いた。


「村長の意見は?」

 レファートがカリスタに視線をやって質問した。

「村人たちにヨルグ町への出入りを一時禁止するように通達を出したわ」

「町に入った人間をこの村に入れないように」

 レファートは淡々と言ってのける。


「分からないわ。この村は今、発展しつつあるのだもの。病を恐れて逃げ込んでこないとも限らない」

「では、そういった者のための家を一軒用意するよう、村長にかけあってくれ」

 言外に、そこに隔離するというレファートに、カリスタはかすかに顔をしかめる。


「カリスタ、悪い意味ではない。病を食い止めるために、現実的にはそうするほかないのだ」

 エルミラの言葉を、カリスタはしぶしぶ受け入れた。

 流行り病は伝染するから恐ろしいのだ。だが、隔離するとなったら、被差別的な感情が生じやすい。ただ、現実的に必要な処置だ。研究のために突然大挙した学者たちの言葉ではあったが、寒村を発展させた者たちの言だったので、かろうじて聞き入れることができる。


「いや、二軒必要だ」

「かしこまりました」

「アルノ、どういうこと?」

 アルノの言葉に理由を問わず、レファートは受け、カリスタ怪訝そうな顔をする。


「バダーは発症までに時間を要するんだ。潜伏期間中に滞在する場所と罹患者が養生する場所は分けた方がいい」

「村の出入り口に近い場所が好ましい。カリスタ、村長にそう話してくれ」

「わかったわ」

「食料や生活用品などはこちらからも提供しよう」

「ありがたいわね」

 村を豊かにさせたとはいえ、アルノたちは余所者だ。運営方針への決定権はないが、ひとまずは、検疫について必要事項を抑えられた。


「問題は薬だな」

 エルミラが残る懸念、それも最大級の事柄を口にしたものだから、居並ぶ者たちの表情が曇る。

「そのオウカコウって薬草は森ではとれないの?」

「待って、カリスタ。オウカコウは最近、バダーに有効だとみなされた成分がある薬草で、確か、製薬には特許が取られていたわ」

 それ以前にバダーに用いられていたクイニンからつくられる薬は副作用が強かった。そして、効き目も波があった。

「そうなの? こんなに学者さんたちが大勢揃っているんだから、薬草さえあれば薬がつくれると思っていたわ」

 リシェルの制止にカリスタが肩を落とす。

「つくれるぞ」

 アルノの言葉に、リシェルとカリスタは顔を見合わす。


「じゃあ、特許料を払ってでもつくりましょう。村のお金をかき集めるとして、後からヨルグ町にも出してもらうから、足りない分は貸してもらえない?」

 カリスタは村長代理としてアルノに交渉した。すぐ近くの町で流行り病が起きたのであれば、早急に手を打つ必要がある。アルノが頷けば、レファートが貸してくれる。そう踏んでのことだった。


「いや、俺が特許取得者だから特許料は必要ない」

「えぇ?!」

「はぁ?!」

 リシェルとカリスタは素っ頓狂な声を上げ、レファートとエルミラが誇らしげに胸を張り、ピートたち学者らがこんなときではあるがにやつく。彼らが要に据える賢師は、大陸で猛威を振るう流行り病の新たな特効薬を開発した学者なのだ。


「そりゃあ、薬のつくり方を知っているわよね。っていうか、だったら早く言いなさいよ!」

「すまん。レファートたちはすでに知っていることだから、ついうっかりしていた」

 カリスタの勢いに、流行り病の新薬を開発した偉い学者はたじたじとなる。


「では、薬草さえ手に入れば、薬はつくれるんですね」

 リシェルが憂いから解放された明るい声を出す。その声にアルノも心が高揚する。

「ああ。オウカコウはヨモギ属の植物だ。探せばあるだろうが、取りつくされているかもしれない。ただ、ひとつ手に入ればいい」

 茎や根一本からでも成長させることができる。成長させたものを、さらに破片化することで増やし、さらに増産する。

 アルノの発言に、リシェルとレファート、エルミラがはっと息を呑む。


「スライム・クラフトで増やそう」




「ひぞうってなにー?」

「たいせつにしまっておくものー?」

「それは「秘蔵」だね。「脾臓」の方だよ。脾臓は、血液を濾過する役割を持つんだ。あと、免疫機能にも関係するんだよ」

「わー、いろいろあるー」

「ねー、ひぞう、すごいねー」

「脾臓の腫大を脾腫というのだけれど、これはおなかの左上や背中に膨らんだ感じや痛みが現れたり、触診で見つかることがあるよ」

「こわーい」

「すらいむのなかがはれてても、さわってもわからないよ」

「ぷるぷるしてめいににしらせよう」

「「「ぷるぷるぷる」」」




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