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 フランクは学者があまり好きではなかった。

 学問を金儲けに使っているだけの人間ばかりだったからだ。


 直接的に金銭と物品のやり取りをして金儲けをする方がよほどすっきりしていてシンプルだ。なのに、学者は学問の世界にいない人間を愚かだとみなす。なんなら、称号が下の学者をも見下す。自分の方がいろいろ知っている、世の真理を知っているとおごり高ぶっている。その反面、効果があるかないかわからないようなものを売りつけようとする。

 だから、フランクは学者をあまり好きではなかった。


 そんな考えを持つフランクだから、大商会の一族の中で最も優秀だとみなされていたレファートが学問の世界に飛び込んだことを惜しく思っていた。だが、それは浅はかな感想だということがすぐに判明した。レファートは学問の世界でも頭角を現したのだ。しかも、学問の成果を商機に結び付けることすらやってのけた。

 真に優秀な人間は違うのだと思い知らされた。

 そんな彼が尊敬する師という人物に興味を持たないでいられなかった。


 アルノ・カルフォシスはとんでもない高効果の薬を製造した。カトリエン商会において、重要な人物となった。

 実際に会ってみて、薬への向き合い方が非常に真摯で、さらにはそのことを子供たちにまで浸透させていた。田舎の文字すら読めない子供にだ。

「あのレファート坊ちゃんが心酔するだけはあるということか」


 商会会頭の次男フォルマーの部下という立場のフランクは、思いもかけずアルノに出会ったときに、すでに予想を抱いていた。これを好機として、三男に乗り換えるのも一興だと考えたのである。


 常に冷静沈着なレファートは、フランクからアルノの詳細を聞いて、取り急ぎ必要と思われるものを携えて彼の元へ向かった。面白くないことに、その必要事項のなかに、顕微鏡の性能向上の第一人者であるエルミラ・ミンダートが含まれていた。

 レファートは認めたくないものの、アルノは彼女の腕を頼りにしており、研究になくてはならない人材だとみなしていた。悔しいが、アルノが寒村で物資が乏しい中でも研究しているというのであれば、連れていかないわけにはいかなかったのだ。


 フランクはアルノが滞在するピルア村とその周辺の情報収集を行った。

 そうして、レファートが宣言した家と研究施設を建築するというのは、フランクの各種手配によって実現に至るのだった。




 リシェルはレファートから大規模な研究施設建築構想を聞き、カリスタを引き合わせることにした。

「スライムの研究施設をつくるんですって?」

 思わずため息がでるほどの美貌を誇り、さらには高位称号を持つ学者であっても、カリスタはひるむことなく聞いた。


「それと居住施設と畑と温室と動物小屋を」

「大学でもつくるつもりなの?」

 カリスタは片眉を跳ね上げる。

「似たようなものだな」

「乗ったわ! なにもない村ですもの。働き口が増えるのは大歓迎よ」

 俄然やる気になったカリスタは祖父である村長を説き伏せ、村のすぐ傍に巨大施設の建設許可をもぎ取った。同時にランディと手分けして村人たちに説明をする。


「はあ、バートさんが助けなさった旅人が大学の偉い学者だったとはねえ」

「さすがはバートさん」

 助けたのは巨大スライムで、村まで連れて来たのはカレルとチエムで、今まで居候させて面倒をみてきたのはリシェルたちだ。村人からすれば、やってきた当初に泊めてやった聖職者の方に比重が傾く。


 余所者が村に大規模な建物を建築するということを受け入れさせたカリスタの手腕を、レファートも認めた。

 だから、カリスタの要請に応えて連れて来た工人だけでなく、村人にも仕事を割り振った。寒村は一気に賑わいをみせた。小さな村落に企業がやってきて繁栄を謳歌するようになるのは、ままあることだ。

 そして、カトリエン商会の名前はこの寒村にも届くほどだった。すぐにレファートはバートと同等の扱いを受けるに至る。


 レファートは住居の他、食料の質の向上も視野にいれていた。村で収穫された麦穂を手に取り、観察する。

「ふむ。麦自体は悪くないな」

「そうでしょう、そうでしょう」

 学者でもあり、カトリエン商会の商人でもあるというレファートの感触の良い雰囲気に、村長たちはもみ手せんばかりだ。


「この麦を増やそう。畑は拡張できるか?」

「土地はありますが、いかんせん、そこまで手が回らなくて」

「もう少しで、リーパーを買えるんですがね」


 農業は重労働だ。

 村にある農具と言えば、スコップ、畑を耕す鋤や鍬、鎌、足踏み脱穀機などだ。

 せめて、刈取り機を買おうとこつこつとお金を貯めている。

 この刈取り機を「リーパー」というが、大鎌を持つ骸骨姿の死神も同じ語だ。

 村では刈り取りの際、「リーパーが来てくれないかな」という軽口が飛び交う。おどろおどろしい姿の死神も、刈り取りの大変さの前には、その大鎌で刈り取ってくれ、というのだ。死神ですら現れてほしいと願うほど、大変な作業なのだった。


「では、機材を貸与しよう」

 リーパーが必要だという村人の発言には、建物を新たに建築することができるほどの余裕があるのであれば、あわよくば、という気持ちが透けて見えた。食料品質向上を目指すレファートからすれば、渡りに船であった。

 そうして、村には悔恨のために必要な器材、耕運機、草刈り機、刈取り機、脱穀機といった最新機器が運び込まれた。


「魔力充填が必要なものもある」

「「「「魔農具!」」」」

 村人たちから悲鳴交じりの声が上がる。

 魔農具は魔道具の一種だが、特別にそう呼ばれている。これは、食糧確保の重要性と同時に、農業の重労働によるものである。

 以前、大切に使っていた古い魔農具を壊した農民は、みなに非難されて村を追われた。それほどまでに貴重な、そして希少なものだったのだ。


 魔力によって重労働から解放させる画期的な器械だ。それだけに、とても高価だ。だが、これがあれば、食糧問題の改善が大いに見込めるとして、借金をしてでも大量購入した君主もいた。そう遠くない未来に赤字を帳消しにすることができると踏んでのことだ。


 レファートはそれほど広くない農地ならば、各種一台ずつを交代で使えば問題なかろうと言った。

「も、もちろんでございます」

「魔農具は貸与とする。借料などの契約はこの通りだ」

 あらかじめ作成していた契約書を提示する。

「あの、この、一文は?」

 必要事項を説明し、契約は締結された。こうして、寒村に最新機器の魔農具をひと揃え与えられた。

 そのほか、粉挽機やふるい機も魔道具も貸与された。

 パンは主食であり、必要不可欠だ。けれど、麦の殻粒から粉にするのはとても重労働だった。

 だから、村長は一も二もなく契約書にサインした。


 レファートは必要資材調達のみならず、その見目の良さから、村の女性たちに秋波を送られるようになる。

「ついこの間まで、ランディの気を引こうとあの手この手を使っていたのに、現金なものね」

「俺はカリスタ一筋だから、どうでもいいよ」

 そのカリスタは、ランディが気のある素振りをするものだから、村の女性たちから距離を置かれていた。村長の孫だから嫌がらせをされることはなかった。今度は、カトリエン商会の美青年との仲介役を担ったため、やはり嫉妬と羨望の眼差しを受けることとなった。


 慌てたのはランディだ。

 自分の容姿にそれなりの自信があったものの、はるかに優れた人物の不意の登場に、風雲急を告げる心境に陥った。

 それで、さらりと告白した。

 カリスタは青い瞳を見開く。そして、形の良い唇の両端を吊り上げる。

 胸を張って腕組みをする。そんな恰好をすると、豊かな胸がより強調されて、ランディは視線が下にいかないように、内心大いに努力した。


「あなた、わたしといっしょにこのピルア村を発展させる覚悟はある?」

「もちろん」

「いいわ。じゃあ、わたしたちはこれから運命共同体ね」

 差し出された白い手は、指先が荒れていた。働き者の証に、ハンドクリームを買ってやるくらいの甲斐性を持ちたいものだと思いながら、ランディはその手を握るのだった。





「本人はあまり気にしていませんが、実は追放系です。代わりに弟子がガチギレしています」

「ついほう?」

「つうほう?」

「ううん、それ違う。お巡りさん来ちゃう」

「きゃー、おまわりさん!」

「いやーん、つかまっちゃうー」

「「「やろうども、ずらかるぜ!」」」




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