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 フランクは世間話に交えて、アルノたちの暮らしぶりから始まって、最終的にはどの集落に住んでいるのかまで聞き出した。

「ほかにお困りのことはございませんか? 衣食住は足りておりますでしょうか?」

「足りないものだらけだよな」

「そうだ、せっかく町に来たんだし、ちょっと必要なものを買っていこうよ」

 薬が想像以上に高く売れたことと、自分たちのみすぼらしさを改めて突きつけられたカレルとチエムはそわそわする。

 掘り出し物が見つかるかもしれないから、とフランクも買い物についてきた。


「とりあえず、服と、靴と、」

「俺、鞄も欲しい!」

「エニーたちの服のサイズはこれでいいのか?」

 子供たちのものも買おうとするカレルとチエムに、アルノが首をひねる。

「大きめのを買ったら、すぐに成長するだろう」

 カレルが小さいサイズを買うくらいなら大きい方がよいという。


「問題はそこじゃない」

 チエムが腕組みをして眉間にしわをよせる。

「エニーの好みがどんなものかってことだ」

「フランクさん、どう思う? 七歳の女の子が好きそうな服ってわかる?」

 チエムの言葉に、カレルが真顔になってフランクに助けを求める。


 おしゃまなエニーだ。好みに合わないものを買っていけばどんなに責められるだろうか。

 アドバイスを求めた先は、アルノではなくフランクだった。学者よりも大手商会所属の商人の方が有用な情報を得られるだろうという、素晴らしい判断をしたのだ。

 フランクはエニーだけでなく、ティコやメイニ、なんならリシェルのものまで選び、さりげなくアルノにも勧めた。


 有能な商人は選択だけでなく、ぼったくり防止にまで目を配った。

「おや、店主、先ほどのお客さんに伝えた金額と違うようですが、」

「え、そ、そうでしたかな」

 そんな風にして七人の服や靴、日用品を買いそろえてもお金は余った。


「あとは食料と、」

「石鹸は?」

「いるな。それとろうそくと、」

 そんな風にしてあれこれ買い物をしていたとき、ふとチエムは視線の隅を横切る人物に注意をひかれた。


 やさしそうな男性と女性、その間に挟まれ両手をつないでいる子供、という絵にかいたような温かい家族の光景だった。

 買ったばかりの服をすぐに着替えればよかった。だったら、ちょっとは違ったかもしれないのに。みすぼらしさへの軽い羞恥が、かっとほほが熱くなるものへと瞬時に変わった。

 チエムの熱量は、聞こえてきた家族の会話で一気に下がった。


「今日の夕ご飯はシチューがいい!」

「シチュー?」

「うん。お母さんがつくったシチュー!」

「お母さんのつくったシチューは美味しいもんな」

「うん!」

 チエムは母からシチューをつくってもらった記憶はない。格好がみすぼらしいとかそういう問題ではなかったのだ。


「チエム、これはどうかな。チエム?」

「あ、ああ、なに?」

「なんだよぼうっとして」

「今日は朝早くから出かけてきたからさあ。それより、こんなに買って、持って帰れるのかよ」

「薬は全部売ったんだから、三人で分けて背負えば大丈夫だろう」

「よろしければ、荷馬車に乗っていきませんか?」

 村の向こうへ行く予定だというフランクに、カレルとチエムは顔を見合わす。さすがにそこまで親切にされると、疑念がわく。


「では、乗車賃を払おう」

「あ、なんだ、そういうことか」

「商人は空の馬車を走らせたくないって言うもんなあ」

 アルノの発言に、カレルとチエムはそういうことかと安堵する。

 少しでも荷を乗せなければ、金銭を得られない。荷馬車の維持費も嵩むのだ。


 フランクは金銭よりもアルノの話を要求した。

「薬草とか薬の話がお金の代わりになるのか?」

「学者さんの信頼性のある話は十分に価値があります」

 カレルとチエムたちは最近なにかとアルノの説明を聞いている。立派な商人に評価され、実はとても価値のあることだったのかと思い知る。


 フランクは御者台にアルノと並んで座り、薬草のことのみならず、現在滞在する村のことも聞いた。

 カレルとチエムは荷馬車の上、荷物の隙間に座っていつの間にか眠りこけていた。

 そうして、当初の予定よりも早い夕方に三人は村に帰り着いた。

 フランクに礼を言うと、「またお会いしましょう」とにこやかに去っていった。


 背負い籠に入りきらなかった荷物を抱える三人を目ざとく見つけたカリスタが近づいてくる。

「お帰りなさい。その様子だと、商談はうまくいったのね?」

「ああ。上々だ」

「ただいま。カリスタの分の土産もあるぜ」

 フランクのアドバイス通りリシェルとおそろいの小物はカリスタを大いに喜ばせた。

「女性は親しいご友人と色違いのものや系統が似たものを持つことを好みます。ここで重要なのは完全に同じものにしないことです」

「なるほど」

「フランクさんは本当にすごいな」


 その日はヨルグ町で買ってきた食材でカリスタも加わって食事を作り、ランディも招待した。

 料理をつくるのに、カリスタがあれを取ってきて、これを持って行ってとランディに指示する。

「瓶を集めてくれたお礼に招待したのに、手伝ってもらって悪いわ」

 そう言ってリシェルが代わりにやろうとするのを、エニーが止める。

「いいのよ、リシェル。ランディは少しでもカリスタの役に立ちたいんだから」


 カリスタがこちらを向いたので、ランディは慌てて話を逸らす。

「たぶん、そのフランクさんって、村にも来ていたよ」

「あれ? 出入口で別れたんだけれどな」

「後から興味が出てきて、戻ってきたんじゃないか?」

 ランディの発言に、カレルとチエムが手伝いの手を止めずに話す。

「なにをしていたんだ?」

「村のことについていろいろ聞いていたなあ」

 顔を出したものの、手を出せば邪魔になりそうだと戸口に立ったままのアルノが聞くと、ランディが答える。


「フランクさん、わたしも会いたかったわ。あのお土産を選ぶセンス、ただものじゃないわね」

「エニーとは話が合いそうな商人だ」

 きっとすぐにエニーの歳不相応なものを感じ取って的確に対応するだろうとアルノは想像する。


「食材だけでなく調味料までたくさん買ってきてくれて助かったわ。三人とも、ありがとう」

「それもフランクさんのアドバイスで買うことにしたんだ」

 自分やリシェルへの土産もおそらくそのフランクという商人が選んだのだろうと予想をつけたカリスタは、ひやりとする。

 つい先ほど、リシェルがアルノから土産をもらったと聞いて喜んでいたのだ。良かったねと言ったものの、見知らぬ商人フランクが選んだのなら親友を落胆させるのではないかと心配した。

 リシェルはアルノからプレゼントをもらったというのでずっと機嫌がいい。だから、アルノが個人で贈ったものではないとか、あの唐変木が土産を買おうと言い出したのではなかろうとか、そういった無粋なことは言わないでおくことにした。


「相手のすることのちょっとしたことが嬉しい、ってもうそれは恋よね」

「そ、それって、カリスタもそういう人がいるの?」

 カリスタのつぶやきを拾って、いつもの爽やかさはどこへやら、ランディがあたふたと挙動不審になる。

 カリスタはランディを見上げて、ふっと笑った。

「どうかしらね?」

「カ、カリスタ?!」


「カリスタが一番罪な女ね」

 一連のことをデバガメしていたエニーがそうつぶやくのだった。




 みなで料理を囲みながら、町のことについて話した。

 フランクが薬瓶につけた「妖精の帽子」のイラストも高く評価していたと話すと、ティコが嬉しそうにはにかんだ。


 薬の効果の高さに驚いていたと言えば、メイニがとても誇らしげだ。

「チュライム、がんばったものね!」

「スライ―――痛ぇっ! 誰だよ、俺の脚を蹴ったのは!」

 口をずっと食べることに使っていたチエムがわめく。


「余計なことをしゃべろうとするからよ」

「お前か、エニー!」

 白い目で見るエニーを、チエムがにらむ。

「違うわ」

「嘘つけ!」

「俺だ」

「なんだ、カレルかよ」

 カレルが自己申告すると、とたんにチエムの勢いがしぼんだ。


「薬の作り方がどうかしたのか?」

「え? あ、ああ、そういうことか。その作り方を話せないから、フランクさんはアルノのお陰で効果の高い薬ができたと思ったんだ」

 カレルに先を促され、チエムが話そうとしていたことを思い出す。

「アルノさんのお陰でできたというのは、本当のことよ」

「アルノだけの力じゃないけれどな」

 リシェルにチエムは肩をすくめる。


「フランクさんはアルノがなんとかっていう大学の修師だから効果が高い薬を作れたって信じたんだ。修師ってすげえの?」

「修師! アルノさん、修師だったんですか?!」

 リシェルが血相を変えてアルノに問う。

「え、ああ、いや、」

 勢いに押されたのか、アルノがたじたじとなる。


「修師ってあれでしょう? 学師よりもすごい称号」

「そうよ。学師だって、大学の授業で好成績を収めなければ得られないわ」

「その上の称号を持っているのか。それはすごいな」

 カリスタにリシェルが力説し、ランディが感心する。

 カリスタは内心、親友を任せるのならば、そのくらいでなくてはと考えていた。


「あれじゃね? 研究馬鹿で、ずっと研究し続けていたら、たまたま良い結果が出たとか」

「幸運が重なったとか、な」

 チエムとカレルがのほほんとしたアルノがそんなにすごい称号を得られるのは偶然の結果だろうと話す。

「馬鹿ね、あなたたち。幸運を引き寄せてチャンスをつかめるのも実力のうちよ」

「本当にエニーは年齢不詳だな」

 腕組みをしながら鼻で笑う七歳児を、アルノは興味深そうに観察するのだった。





「アデノシン三リン酸から二リン酸になったときにエネルギーが生まれるんだよ」

「じゃあ、すらりんもふつうのすらいむになったときにえねるぎーがうまれるの?」

「ちがうよー。すらりんみっつがふたつになったときだよ」

「ほんとー?」

「やってみる?」

「待って、それって怖い」

「どうやるのー?」

「いやー、聞きたくなーい」

「うーん。ぶちっと?」

「「「「ぶちっと!!」」」」

「いーやー」

「ものすごいえねるぎーがでそう!」

「こわーい」

「「「ぷるぷるぷるぷる」」」




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