主人
この地震によりダメージを受けたロボットは三十八機に上ったが、人的被害は僅かに岩の破片などで打撲や擦過傷を負った程度で済んだ。
ダメージを受けたロボットも、完全に行動不能になるようなものではなかった。ボディに傷が付いたり、メイトギアの一部に、落ちてきた岩塊を受け止めた際に過剰な負荷がかかったことで間接が外れたりした者が出た程度である。現行のメイトギアの構造は、さらに人間のそれに近いものとなり、フレーム同士は関節部分を<筋組織アクチュエータ>で支え繋ぎとめているだけなので、無理な荷重がかかると外れたりもするが、逆にそれでより大きな破損を回避するという形にもなっているので、実は致命的なダメージを受けていない。
ひめを除いては。
最大限の警戒を行いつつ、メイトギア達は、折守市市民達を、焦ることなく、かつ迅速に誘導し、避難を行った。始閣達も折守市側のスタッフとして速やかな避難に尽力する。
そのおかげもあり、泣きはらした目をした浅葱もシャトルへと乗り込み、その窓から生れて初めて、自身がこれまで生きてきた惑星の地表の景色を目にした。
「……」
上を見上げてもそこにあるのは見慣れた天蓋ではなく、どこまでも落ちていきそうな錯覚さえ覚える闇ばかりで、声も出ない。
そして、闇の奥底に見える光の正体(星)に、彼女は思い至らない。浅葱が絵本などから思い描いていたものともあまりにかけ離れていたからだ。
そんな中、シャトルへの搭乗ゲートを兼ねた待機所だけが灯りを放ち、ただただ凍り付いた周囲の景色を浮かび上がらせていた。
やがて、二千五百余名の人々を乗せたシャトルはふわりと魔法の絨毯のように飛び立ち、三十分でグランマズ・ダンデライオン号へと到着する。
メイトギア達によって岩の下から助け出され収容されたひめは、浅葱達と共にいた。彼女はロボットなので、人間のように急いで治療を受ける必要もない。そもそも修理をしようにも、三千年も昔に作られた彼女に適合する部品は殆ど存在しないのだ。
体の半分がメチャメチャに壊れた状態で横たわり、その上に毛布が掛けられたひめを、浅葱や開螺や子供達をはじめとして、人々が心配そうに取り囲む。
それに向かって、ひめはやはり穏やかに微笑みかけた。
「心配していただいて、ありがとうございます。でも、私はロボットですので、痛みは感じませんし死ぬこともありません。こんな体になってしまってお役に立てなくなったことは残念ですが。
申し訳ありません」
「なんでお前が謝るんだよ……」
赤く泣きはらした目にさらに涙をためて、浅葱は悔しそうにそう言った。自分を守る為にひめがこうなってしまったことが悔しかった。自分がもっと気を付けていたらと思わずにはいられなかったのだ。
「浅葱様。どうぞお気になさらないでください。これこそが私達ロボットの役目なのです。あなたが無事ならば、私は何もネガティブな思考をする必要がありません」
「ひめぇ……」
拳を握り締め、体を震わせ、浅葱は泣いた。気にする必要はないと言われてもそんなことできる筈もなかった。そしてそれが人間というものだろう。
しかし、ロボットは悲しまない。苦しまない。後悔もしない。ただ人間の幸福だけを願う。人間が健やかでいられることだけを望む。
だから唯一問題なく動かせる右手で浅葱の頬をそっと撫でたのだ。あどけない子供の表情に戻ってしまった主人を慈しむ為に。




