思いがけない事態
すでに砕氷として氷窟のプロとなっていた始閣、宗臣、蓮杖、そして彼らの後に代々ひめの手伝いをしてそれぞれの道に就いたかつての子供らの誘導もあり折守市市民達の避難は順調だったが、それと同時に、第二次捜索隊の間ではある懸念材料が持ち上がっていた。
避難の為の順路として用いられていた<坑道>が、あまりに多数の人間や物資やロボットが行き交った為に傷んできていることが分かったのだ。
念の為、応急の補強は行ってはいるので理論上は持ち堪える筈だったが、万が一の事態を想定して監視と警護は強化され、さらに数百機のメイトギアと多脚式輸送車両が投入された。
だが、その日、あまりに順調だったことの揺り返しとでも言うのか、思いがけないことが起こってしまったのである。
それは、浅葱達が、シャトルに乗り込む為に坑道内を通っている時に起こった。
「! 地震です! 人々の安全の確保を!!」
警護中だったメイトギアの一機がそう声を上げた瞬間、坑道内にいた全てのロボットが反応、多脚式輸送車両や移動電源は足を延ばして最低地上高を稼ぎ、その下に人間が避難する為の空間を作った。過剰なほどに投入されたそれは、この為に用意されたものだった。警護のメイトギアは人々を多脚式輸送車両や移動電源の下に誘導。入りきれない人々については自らの体で守る。
初期微動が感知されてから約五秒後、ドーンと、坑道を横から何かが突き飛ばすかのような衝撃が襲った。
震度そのものは、精々、五強と言ったところだっただろう。とは言え、堅牢で安定した地盤に囲まれた地下空間で住んでいた折守市住人達にとっては、地震というものがあるのは知っていたが精々が震度二程度のものが最大だった為、誰も経験したことのない衝撃に、「うわーっ!」「きゃーっ!」っと、普段は決して出さないような大きな悲鳴を上げていた。
それでも、応急とは言え補強を行っていた坑道は、おおむね、その地震に耐えてくれた。
しかし……
「ひめ! ひめっ!!」
坑道内に、悲痛な叫びが響く。
浅葱だった。その浅葱の目の前には、崩れてきた岩に、体の半分を圧し潰されたひめの姿があった。
子供達を優先して多脚式輸送車両の下に避難させたことで隠れきれなかった浅葱を守る為に、ひめが自らの体を使った結果だった。
「余震が来ます! 動かないで!!」
近くにいたメイトギアが浅葱を抱きかかえ、余震から守る。戦闘力も付与された、軍配備のメイトギア達は落下してきた重さ数百キロの岩塊すら受け止めてみせたが、一般仕様でそれほどの強度もパワーも備えてなかったひめは、ひとたまりもなかったのだ。
「ひめ! ひめぇっっ!!」
泣き叫ぶ浅葱の声に反応するように、ひめが僅かに頭を動かした。
「浅葱様、呼吸を落ち着けてください。肺が凍ってしまいます」
痛みを感じないロボットであるひめは、そう言って普段と変わらずに笑顔を浮かべたのだった。




