探索者登録とか色々手続きとか 1
「ここがダンジョン協会の支部かぁ」
車を駐車場に停めて入り口まで歩き、建物を見上げる。
昨日は調べ物しまくっていたからダンジョン協会には来られなかったので、今日は朝畑の野菜を収穫後隣町のスーパーの地場産に野菜を納品しそのままさらに隣にある市のダンジョン協会第五支部にやって来た。普通土地の名前が付くんじゃないの? と思うがこの支部は第五支部という名前がついている。
全然興味なかったから知らなかったけれど、こんな近くに支部があったし、なんなら不人気だけどこの市にダンジョンも一つあった。
名前はチュートリアルダンジョンというらしい、誰がその名前をつけたのかと言えば、ダンジョンさん自身、自身? らしく。
初入場した人が『チュートリアルダンジョン初入場』の称号を持っているから、ダンジョンの名前がわかったのだそうだ。
ちなみに世界各国にあるダンジョンの名前も、チュートリアルダンジョンと同じで初入場の人の称号から名前が判明しているらしい。
ちなみに、私が生まれた頃に発見されたダンジョンで、ダンジョンが世界各国で発見された直後だったらしく、当時は人気があったそうだけど今は覚醒者を育てる学校があるから、徐々に人気が無くなったらしい。どうせだったらこのチュートリアルダンジョンが授業で使える場所に学校を作ればいいのにって思うけれど、ここは交通の便が悪い田舎で新幹線どころか特急電車すら停まらない、というか新幹線を使うためには二時間ほど電車に乗って新幹線が停まる駅を目指さないといけないから不便過ぎる。という理由で学校は他の初心者向けダンジョン近くに作られたらしい。
まあ田舎だからね、私なんて電車に乗ってどこかに行きたい時はまず車でこの市まで来ないといけないし、バスなんて朝晩一本ずつしか走っていない。
それを考えるとこの市にダンジョン協会支部があって、本当に良かった。
これが県庁所在地にしか支部がないとかだと、確実にお泊りコースになっていたと思う。
「ダンジョン支部で買い取りとかもしてくれるらしいから良かったわ、本当ありがたい」
買い取り先が遠くて宅配便とか使わないといけなくなったら、経費がかかりすぎる。
何せ今私のアイテムボックスには、一昨日のジャガイモと昨日の小麦粉各種が大量に詰め込まれているのだ。
昨日八月五日はパン粉の日らしく、次の日にダンジョンに入ったら一面の麦畑だった。
ドロップ品が最初は小さな紙袋に入ったパン粉で、パン粉ばかり使えないし売れない! と叫んだら次から薄力粉、中力粉、強力粉各種がランダムでドロップするようになった。
それに気がついた後、無茶苦茶ダンジョンを褒めまくったら、いつの間にか刈った後のドロップ品は勝手にアイテムボックスに収納されるようになった。
勿論、無茶苦茶ダンジョンを褒めてお礼も言いまくった。
他を知らないけれど、家のダンジョンは優しいと思う。
もう私の中では、ウチのコ扱いになっている。
そんなわけで昨日のボスは麦だった。
レベルが上がっていた私と草刈り機は、テンション上がって戦った。
無事にボス討伐後、でたお宝は一つで業務用か? というくらい大きなオーブンだった。
何せトレイが五段使える。
しかもそれぞれの段で別なものが同時に調理できる。ダンジョンは私に何をさせたいのか分からないけれど、ありがたく昨日はピザを焼いて食べた。
それから草刈り機は巨大化スキルを覚えていたんだけれど、これなんで機械にスキルがついたんだろう。わけがわからない。
ちなみに、ネットで調べてみたところ本日六日がハムの日、明日七日がバナナの日、明後日八日がタコの日、パパイヤの日、白玉の日だった。
八日多いなというのはともかくとして、ハムの日ってなんの植物が出るんだろと考えた。
もしかして植物じゃなくて豚さんだろうか、そこまで考えて思い出した。
ダンジョンの説明さんは、動植物って言っていたんだわ。
動植物、つまりなんでも食べ物に関するものが出てくるってことだ。
運転しながらそれに気がついて、運転中なのに頭を抱えそうになった。
実はまだ二層目に行っていない、なぜなら二層目からは普通の魔物が出るらしいからだ。
色々調べた結果、一から五層目あたりは下層と呼ばれていて、弱いウサギとかネズミとかがでるらしい。あとゴブリンとかスライムとか。
家にたまに出るネズミすら見たくないのに、私は自らそれと戦うためにダンジョンに入らないといけないのか。
軽く絶望しながら、まだ決心がつかずにいる。
でも、今日ダンジョンに入ってもし豚が一層目に出るのが確定なら、狩らないわけにはいかない。麦が一層目一面に生えていたんだから豚だってかなりの数が出ると思う。かなりの数ってダンジョンブレイクになりそうで怖い。そうならないと思ってるけど、もしもってあるよね。
でもいきなり豚って怖すぎる、普通の豚って確か百キログラム超えだと聞いたことあるし、それをいきなり初心者の私が狩る? それって無理過ぎる。
こんなことなら昨日、二層目で魔物を狩る練習するんだった。
豚を刈るなら家に戻る前にどこかで魔物を狩る練習をしておいた方が、絶対にいいと思う。
動物型狩るの怖いなんて言ってらんない、私は私の家を守るって決めたんだから。
「仕方ない、帰りにチュートリアルダンジョンに入っていくか」
チュートリアルというくらいだから、一層目でも弱々魔物しか出ないだろう。
私の武器、草刈り機と片手斧と草刈り鎌なんだもの、私と一緒にレベルが上がったとはいえ、所詮農業用で武器じゃない。
でもアイテムボックスに入れて、ダンジョンさんに武器と防具認定されているものは入れてきてあるから、いつでもダンジョンには行ける。
ちなみにアイテムボックスはわりと出やすいスキルではあるらしく、容量無限とか時間無制限とかもたまにあるそうだ。
その他だと、ダンジョンの宝箱からたまにマジックバッグというものも出てくるらしいので、うっかりスキルを言って悪目立ちするとかはないそうな。
「さてと、電話してあるから受け付けでそれを言えば良いって言ってたよね」
いつまでも建物の入り口に立っているわけにもいかないから、中に入らなくては。
昨日の夕方、ある程度調べ終えて最寄りのダンジョン協会支部を調べて問い合わせの電話をかけておいた。
支部じゃ買取できないとか、ダンジョンが出来たと言われても管轄が違うとか言われたら困るなと思ったから、念のためだ。
「すみません、昨日電話しました山崎と申しますが、支部長さんはお手すきでしょうか」
午前中ならいつでもいいよと言われたので、野菜の出荷を終え次第向かうと伝えてある。
なんだか少しギシギシした感じに開いた自動ドアから建物の中に入り、受付と天井から札が下がっているカウンターに向かい紺色の事務服を着た女性に声をかける。
「はい、山崎様、覚醒おめでとうございます。支部長から探索者登録を先に行った後他のお話をと指示を受けておりますので、こちら書類にご記入をお願いいたします。こちらにおかけになりご記入ください」
ダンジョン協会第五支部の中はどこかの会社というより、市役所の受付という感じの雰囲気だった。
入って正面にカウンターがあり、その奥にいくつか机が並びパソコンに向かっている人達がいるのが、お役所感がある。
まあ、ダンジョン協会って国の機関みたいなものなんだろうし、似た造りになるのかもしれない。
勧められたカウンターの横、少しカウンターが低くなったところの前に置かれた椅子に腰を下ろして受付の人が出してくれた書類を見下ろす。
「ええと、覚醒日、覚醒した時の状況……」
書類に住所と氏名生年月日などを書いて、覚醒日、覚醒した時の状況欄でペンが停まる。これなんて書けばいいんだろ。
家の納屋に見知らぬドアがあり、開いて向こう側に足を踏み入れたら、覚醒した?
これが分かりやすいのかな、間違ってないと思う。あれ、草刈り機使った後だったかな。
「ご不明な点ございますか」
私の手が止まっていると気が付いたのだろう、にこにこ笑顔で声をかけてきてくれるから、素直に聞くことにした。
「あの、覚醒したのが、話聞いてるか分からないですが、ダンジョンに入った時なんですが、魔物らしきものを刈った後だったかダンジョンに入った瞬間だったか記憶があやふやで。多分入った時だと思うんですが、こんな感じでもいいんでしょうか?」
正直に話して、馬鹿だったなあと後悔する。
だってなんとも言えない顔で、受付の人が私を見てるんだもん。
「山崎様、ご自宅にダンジョンが出来たと聞いております。山崎様はそこに入った時におそらく覚醒したのですね」
「多分?」
なんか興奮してたのか、今になってみるとあやふやなんだよね。
ダンジョンブレイクするかも、と慌てて本格的に草刈りしたのはその後だけど、初入場と初討伐って同時にお知らせが来たような? 違ったような。はっきり覚えてない。
「では称号に初入場がついていると思われますので、そちらは後で担当者が確認致しますね」
「あ、初入場と初討伐と初ボス討伐です」
「え」
鑑定スキル持ちはそれなりにいるらしいけれど、人を鑑定出来るのは超ベテランだけらしいとネットには書いてあった。
なので、私が自分を鑑定出来るのは黙っているとして、称号は頭の中に声が聞こえるらしいからこれは言っても大丈夫だろうと話す。
「あの、初入場と初討伐は分かりますが、初ボス討伐と言いますのは」
「実はですね、家に出来たダンジョン、一層目が植物の弱い魔物しかその時出なくて、ボスもそこまで強くなかったんです。というか、草が魔物だと思わなくて、ダンジョンの状況確認するために草刈りしたらそれが魔物だったというか」
両親には物凄く呆れられ心配されたけれど、話してみるとなんか間抜けに聞こえる。
両親には四日の夜にしっかりと報告して、納屋の中のドアも実際に見せた。二人はお盆休みに入ったら自分もダンジョンに入ってみると言っていた。
覚醒してなくても、家のダンジョンならこっそり入れるだろうと言うんだけど大丈夫なのだろうか。
「それでボスを初討伐されたのですか」
「そうなります」
そうなりますじゃない。と思っている気配を感じつつ真面目な顔で頷く。
「それで頭の中に称号が聞こえたのですか?」
「はい、どんな言葉だったか忘れましたけれど、覚醒したのと、三つの称号取得の声は聞きました。ええと後何か聞いたこと……」
どこまでが自己鑑定で、どれが説明で、どれが頭の中の声だったかあやふやになってる。
私の記憶力って一体……。
「あ、あの。これ以上の詳しいことは、支部長にお話ください個人情報になりますのでここではちょっと、申し訳ありません。迂闊に私が話し始めてしまったせいで」
どうも私は余計なことを口走ったらしいと、口を閉ざす。
「探索者はスキルをオープンにしている方も多いですが、ほら今は配信もありますし。でも、基本的には称号含め聞くのはマナー違反なんです」
「あ、そうなんですね。すみません私自分からペラペラと。ダンジョンについてよく知らなくて、実は配信もまだ見たことなくて」
「見たことがない?」
申し訳なさそうな顔が、一瞬で驚きの顔に変わって、私の方がビックリなんだけど。
え、配信見たことないって普通じゃないの? どうしよう、こんな無知が探索者やるのかと思われていたら。
だって全く興味なかったし、昨日は調べものするので時間使ってて、というかダンジョン配信なんて頭になかったから見る気もなかった。
「……覚醒する条件なのかしら」
「え?」
「いえ、統計を取っているわけではなくて、私が今まで受付した時の体感なんですが、ダンジョンや探索に興味がない方の覚醒が多い気がしていまして」
私がキョトンとしていると、受付の人の後ろの机でパソコンを使っていた人の一人が突然立ち上がりカウンターに向かって歩いてきた。
うわぁ、背が高い。
私の身長だと見上げたら首が痛くなりそうなほどの高さだ、受付の人だって私より大きかったのにさらに頭一つ以上大きいと思う。
「やっぱり、アンケート答えてもらう必要ありそうですか?」
「どうでしょう、ただ覚醒者を増やす何かにはなりそうですが。あ、申し訳ありません」
いきなり私抜きで話し始めた二人に呆然としていると、私の存在を思い出したのか謝ってくれたから、いえいえと手をふる。
「覚醒条件を確認するアンケートですか?」
私、一瞬だけ良い人になるのって割と得意な方だ、だから愛想笑いを浮かべながら問いかける。
三人で黙ったまんまって、なんか気まずいじゃない。
「はい、ご存知かどうか分かりませんが、ダンジョン発見当初に比べ現在は覚醒者があまり増えていなくて、その割にダンジョンは次々発見されていまして探索者の数が足りないんです。なので、ダンジョン攻略が進んでいないところも多くて、新しくダンジョンが出来ても対応が遅れがちで。出来たばかりであればすぐにダンジョンブレイクになることはありませんから」
困ったように言う受付さん、確かに探索者っぽい人はいない、つまり職員しかいない。チュートリアルダンジョンが人気ないらしいとはネット情報にあったけれど、このダンジョン協会支部も過疎ってる感じかもしれない。
あれ、つまりうちのダンジョンなんて後回し確定ってこと?
「あの、そうしたら一つアンケートに入れて欲しいものが」
探索者、すぐに増えないとマズイんじゃない?
うちのダンジョンだって、私一人で攻略なんて専業じゃないんだから難しいよ。私は初心者なんだから。
「はい、なんでしょうか」
「誕生日にダンジョンに入って覚醒した人を入れて欲しいのですが」
「そもそも未覚醒者はダンジョンに入れません」
私の提案を聞いて、男性が即反応する。
そ、それはアンケートの意味なし? あれ、でもなんで都市伝説? なんか根拠あるんじゃないのかな。
「そうですか、実は私覚醒したのが誕生日なんですよ。その日偶然出来たばかりの家のダンジョンに入って覚醒したので、都市伝説本当だったのかなって思ったんです」
覚醒しないとダンジョンに入れない、その常識を知らないのかと思われるのが恥ずかしくて早口で言うけれど、なんか言い訳みたいに聞こえてるかもしれない。
誕生日にダンジョンに入ると覚醒するっていう都市伝説は違うのかあ、なんか提案しておいて見当違いなこと言ったのなら恥ずかしい。
「そうなんですか?」
「はい」
「それなら、学校でダンジョンに入るのを誕生日当日にしてもらう? 未覚醒者はそれを試すのはどうかな」
あれ、探索者学校って覚醒した人だけ入るんじゃないの?
「学校って、覚醒者だけが行くんじゃないんでしょうか」
無知を晒すようだけど、聞かぬは一生の恥になるよね。
うんうん、初心者の内に聞いておこう。
「山崎様は今、都市伝説とおっしゃいましたよね。覚醒しないとダンジョンに入れないというのは、決まりとしてあります。それでも覚醒前の人がダンジョンに足を踏み入れる。そういう事実は存在します」
「覚醒していないのに、ダンジョンに足を踏み入れる」
あれ、それってなんかそういう状況、覚えがあるかも。
「そうです、山崎様のようにダンジョンを発見した方です」
「ダンジョンに入って覚醒した?」
あれ、それなら誕生日関係なくない? 私の疑問はすぐに解決した。
「入っただけですべての発見者が覚醒したわけではありません。でも発見者の中には山崎様のように覚醒した人がいるんです」
「それが偶然誕生日の日にダンジョンに入った人?」
それなら都市伝説ってやっぱり本当だったのかな。
私の呟きに、男性は大きく頷いたのだ。




