これで安心、出来るのか? 3
那須さんが了承してくれたので、これでなーちゃんダンジョンに定期的に入る人が二人に増えたことになる。
その内みぃ君や両親も覚醒するだろうし、そうなると私が体調不良とかでダンジョンに入れない日があっても任せられるようになると思うけど、それまでは私一人で頑張らないといけないと思っていたから、那須さんが来てくれると決まって心理的負担が一気に軽くなった気がする。
単純に探索の手が増えただけでなく、那須さんは探索者の先輩でもあるわけだから、これから一緒に活動して教わることって沢山あると思うんだよね、だから私にとって良いことしかない。
それに那須さんはチュートリアルダンジョンに入るより経験値が稼げるから、彼にも損がない。ドロップ品で稼げる点を考えるとプラスの方が多いのかな。
そう思ってもらえるなら嬉しい。
でも、家のダンジョンに通うとなると、一つ納得してもらわないといけないものがあるな。
「これから那須さんは、夕方家に来た時は一緒にご飯を食べることになると思うんだ。それは遠慮せずに沢山食べてね。両親には那須さんが来るって言っておくから大丈夫だよ」
「遠慮なく? え、家?」
まあ驚くだろうなというのは想定内のこと、ダンジョンに入りに来るのになんで夕飯ってそりゃ思うのは当然のことだ。
那須さん絶対細かいこと気にせず人の家に上がり込むような図々しいタイプじゃないと思うし、喜ぶよりも困惑するだろうって想像できる。
「うん、たとえ私が残業で遅かったとしても、那須さんは来る度に家で夕飯食べることになるだろうから、遠慮は無しと那須さんには前もってお伝えしとく」
「俺はダンジョンに入りに来るんであって、夕飯をご馳走になりに来るわけではないんだが」
さっき以上に困惑した顔で、那須さんは私を見下ろす。
「だって会社から帰ってからダンジョンに入るなら、その前に夕飯食べないとでしょ? 私お腹空いたままダンジョンに入るなんて無理だし。那須さんだってお腹空いてる時間でしょ」
「だったら俺はどこかで弁当でも買って食べてから……」
断ろうとする那須さんに、ちっちっちと人差し指を立てて振る。
「そんなのうちのお母さんが聞いたら泣いちゃうよ、家のご飯食べてくれないのって」
よその家のご飯が苦手って言うならともかく、すでに一度沢山家で沢山食べた実績があるんだから、お母さんの食べさせたいメンバーに那須さんはもう入っている。
ちなみに親戚だけでなく、山崎家の友人知人の殆どがこのメンバー入りしてるんだから、今更一人増えたところでという話だ。
「な、なんでそうなる? だいたい迷惑じゃないか」
「もうねえ、那須さんは家に泊まりの用意をして来る覚悟してた方が良いと思うよ。家の両親遠慮って言葉がないからね、もう山崎家に関わってしまったと諦めが必要だよ」
なにせお父さんは常に飲みの相手を求めている人だし、両親は那須さんを多分気に入っている。
両親どちらも昔から他人と距離が近い人なんだけど、今日は特に楽しそうに那須さんにに距離をつめていたからなあ。
那須さんが他人と関わるの苦手な人だと、結構キツイことになるけど、さっきの様子なら大丈夫だと思うんだけど。どうかな?
「なんで泊まり?」
「毎回ご飯食べてたら、そのうち飲もうってお父さん言い出すし、なんなら今日だって飲みたそうだったからね。那須さん、家の家族に遠慮と言う言葉はいらないからね。飲みたくないなら本気で断って大丈夫だからね」
これは最初に伝えておかないといけない話だ。
両親は飲みハラする人じゃないけど、お父さん世代の人ってアルコールがコミュニケーションツールだと考えてるところがあるんだよね。
「いや、山崎さんの迷惑でないならご馳走になるのも飲むの全く問題ないが、それと泊まりは話が違うと言うか……」
「みぃ君の友達も泊まるから、なんなら家に泊まるのはわりと誰でもしてくから」
頻繁に泊まる人は、その人用の布団セットが準備されているほど、家の両親はお客さん好きな人たちなんだよねえ。
「誰でも? そんなのありなのか?」
「家の場合はね。だから飲んで泊まるからとか、毎回夕飯食べるからとか、そういう気遣いは不要だから。むしろ何か気にして持ってきたりする方が家の両親の場合気にするから」
家って昔からそうなんだよ、お客さんが多い家だし、お客さんが来るのが嬉しいという家でもあるんだよ。
そんなわけで親戚に、私やみぃ君の友達、両親の友達だけでなく、農業研修しにきた人が長期で泊まったなんてのも過去にはある。
頼まれると、ホイホイと引き受けちゃうんだよね。
「そんなわけには……まあ、その辺はおいおい考える。とりあえず、一層目の魔物、俺にも狩らせてくれ」
考えることを放棄した那須さんは大きなため息をひとつついてからダンジョンの中に入ると、安全地帯の見えない壁に張り付こうとして消えていく豚の魔物に剣を向けた。
「那須さん、そんなんで剣使える?」
「とりあえず、こんなぎゅうぎゅう詰めの魔物を狩るのは、俺の探索者経験では初の試みだ」
安全地帯の中は呑気な会話が出来るほど守りが完璧だし、スキルのお陰で勝手に魔物が安全地帯の壁に激突して狩られていく。
「これが一層目って何の冗談だと思うよ」
そうだろうなと、チュートリアルダンジョンを思い出して頷く。
こんなにみちみちどころか、自分から安全地帯の壁に激突にくる魔物だらけなんて、多分他のダンジョンではありえないんだろう。
私も、どこもダンジョンはこんなものです。とか言われたら気が遠くなると思う。
「乱暴に剣を振っても狩れそうだっ!」
ザシュッ! 擬音にするとこんな感じだろうか。那須さんが勢いよく剣を振るとそんな音が聞こえて、分かりやすく豚一体分のスペースが空いてまたすぐに豚の魔物でその場所が埋まる。
こうなると作業だなあ、と感動も何もなく那須さんはその場で剣を振り続け、見てるだけじゃ時間が勿体ないから私も那須さんの邪魔にならないところで草刈り機のスイッチを入れて、巨大化出来る最大まで大きくして豚を狩り始める。
「巨大化は楽すぎなくらいに狩れるけど、探索者って感じじゃないよねぇ」
ボスを狩った時よりも、草刈り機は巨大化させている。大きさ何倍なのか分からないけれど、私が両手を広げたよりも円形の刃は大きいかもしれない。そして刃が大きくなった分メインパイプも太く長くなっていて、ハンドルは若干大きめエンジン部分は元の大きさのままだ。
でも、ゲームで大きな鎌を使うとか大斧使うとかあっても見た目に迫力があるけれど、巨大化しても草刈り機はしょせん草刈り機だから、迫力ってない気がする。
どっちか言えば、自分や那須さんを巻き込まないように狩らなくちゃと、気を使う。
不思議なのは、これだけ巨大化しても重さの負担がないところだ。
私の腕力が強化されているからなのかもしれないけれど、草刈り機特有の振動もあまり感じなくなっている。
「なんか、動物型の魔物なのに、気分は草刈りなんだよねえ。緊張感がないわぁ」
魔物を狩るってこんなんでいいのか? 一層目だとしてもなんだかなあ。
黙々と豚を狩っていると、いつの間にか豚の姿が無くなって広々とした草原が見える。
「ふう、あとはボスだけだね」
那須さんはどんな感じかなぁと横を向くと、なぜかじいっと那須さんは自分の剣を見つめてた。




