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今日はなんの日、食べ物ダンジョンできました  作者: 木嶋うめ香


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これで安心、できるのか? 2

「よし、なーちゃんも確認してくれたから、これで那智さんはダンジョンに入れるよ。あ、入る前にパーティー組んだ方がいいのかな」


 私が意気揚々と那智さんに振り返ると、那智さんは頭が痛いとばかりに右手を額に当てて俯いている。

 どうしたのかな、沢山食べさせちゃったから気分悪くなったのかな? と心配しながら声をかける。


「那智さん、気分が悪いならダンジョン入るの止めようか?」


 私と那智さんの身長差だと、那智さんが俯いてくれていた方が表情が良く見えるな。なんてどうでもいいことを考えていると、那智さんは力なく顔を横に振る。


「具合が悪いわけじゃない、ちょっと眩暈がしただけだ」


 人はそれを具合が悪いと言うんじゃなかろうか、やっぱりダンジョンに入るの止めとく? とそんな私の考えを読んだかのように那須さんは探索者証を襟元から取り出して私に差し出す。


「ダンジョン入って大丈夫? 入ったからには一層目のボス部屋まで行くけど平気?」

「具合がわるいわけないから、大丈夫だ」

「眩暈したんじゃないの?」


 体調が悪くても無理しちゃう人なのか、昔の記憶だけじゃよく分からない。

 過去はそうじゃなくても成長過程で人の性格なんて変わるものだし、なにせ外見からして昔とは全然違うわけだから無理してるのかそうじゃないのか判断できない。


「眩暈は気分的にしただけだから、ダンジョンに入る分には問題ない。これからもっと眩暈と頭痛がするかもしれないが、俺が気を強く持っていればいいだけだ」


 なんだか重大な決心をしたような顔で那須さんは言うけれど、なーちゃんダンジョンでこんな決意表明されることってなにかあるのかなって私はそういう気持ちしかない。

 この気持ちの温度差、ちょっと不安だけど大丈夫だと言う人を無理に止めるわけにもいかないから、私も探索者証を引っ張り出す。


「それならパーティーを組むよ」

「ああ、よろしく頼む」


 頷いたのを確認してから探索者証を合わせてパーティーを組んで、なーちゃんダンジョンのドアを大きく開く。


『パーティー初入場を確認しました。入場パーティーは、初入場パーティー入場者称号を取得。これに加えパーティー内のダンジョン初入場称号持ちにダブル初入場称号を付与します』


 え、なにそれ。また称号が増えた? 確かにこれからも称号増えるんだろうなと思ってたけど、パーティーと個人って別になるとは思ってなかったよ。


「那須さん、称号だって聞こえた?」

「ああ、俺はこういう称号は初だ」


 そうなんだ、まあ初入場ってそんなに簡単に得られる称号ではないのも? よく分からない。


「そうなんだ」


 あれ、称号の特典? お祝い? の声が聞こえてこないな。

 というより、私たちまだドア開けただけだ、中に入らないと。


「あれ見て、安全地帯の境目からこっちに来られないみたいよ」

「あ、ああ。……これは本当に大丈夫なのか?」


 那須さんは、ダンジョンの声に驚いてドアの向こうのダンジョンの中に意識がいってなかったみたいだけど、安全地帯の向こうに豚の魔物がぎゅうぎゅうになっている。

 私たちはまだ中には入らず中の様子をドアのところで見ているだけだけど、那須さんは豚の魔物の様子に驚いているみたいだ。


「大丈夫だと思うよ。豚の魔物が集まり過ぎて何かに張りついたみたいになってる辺りが、安全地帯の境界線だと思う」


 今日ダンジョンに入った時は安全地帯なんて意識がなかったから豚の様子なんて見る余裕すらなかったけど、これを見ると安心はできないけど油断しそうだ。だって全然魔物がこっちに入ってこれてないんだから、安全地帯の威力凄すぎる。


「安全地帯ってこういうものなのか、ここまで魔物が密集することないから分からなかったな」


 那須さんは呆けた様子を見せながら、それでも右手にはしっかり剣を持っている。私はアイテムボックスから草刈り機を持ってるけど、まだスィッチは入れてない。

 

「ここにずっと立ってるのもなんだから、まず私が入るね」


 声をかけてから足を踏み入れる。

 早く魔物を狩り終えてボス部屋にいかないといけないよね、那須さんが帰るの遅くなっちゃうし。


「おい、安全地帯広がってないか?」

「え?」


 那須さんの声に思わず振り返りながら、惰性で二、三歩前に進んで前に向き直すと、なんだか安全地帯が広がったように見える。


「ん? 広がってる?」


 私がもう一歩踏み出した途端安全地帯がまた少し広がってその瞬間、何匹か豚の魔物ががはじけ飛んだように見えた。え、はじけ飛ぶってなに、どういうこと?


『初パーティー討伐及び称号効果で魔物討伐を確認』


 称号効果の魔物討伐? なんだそれ、なにかした?

 私の戸惑いに、なーちゃんダンジョンの説明が忖度してくれたのか説明が加わる。


『安全地帯は狩る場所じゃない称号の効果が魔物を討伐したため、称号効果での討伐と判断しました。これにより安全地帯は狩る場所じゃないがスキルに変化、安全地帯の壁に魔物が衝突した際に魔物討伐が可能となります。スキル持ちの任意で討伐するかどうか選択可能。これは他のダンジョンでも使用可能。ただし現在のスキルレベルが一のため、使用可能階層は第一階層のみです。なお、スキルレベルが上がってもボス部屋では使用できません』


 それって安全地帯の壁にぶつかった魔物は全部討伐すると私が思えば、魔物が狩れちゃうってこと?

 ただ、いまのところ使えるのは一層目の階層だけになるのか。


「山崎さん、魔物が」

「え、ああ、討伐ってこういうことなんだね」


 見えない壁にぶつかる、魔物が消える。また新しい魔物がぶつかる、また魔物が消えるを延々と繰り返している。

 さっきダンジョンに入った時と同じく、豚の魔物はどんどん周囲から集まってくるので、どんどん魔物が勝手に安全地帯の壁にぶつかって討伐されていく。ドロップ品は見えないけど、私のアイテムボックスに勝手に収納されているんだろう。


『初パーティー入場、初パーティー討伐の特典として、使用武器の強化及びパーティーを組んで魔物を討伐した場合、このダンジョンに限りランダム二から十倍の経験値増大を付与。これは個人の初入場称号者の経験値とは別に取得します』


 あれ、つまりどういうことだろう。私二重に経験値貰えるってことなのかな? でもまあ那須さんとここでパーティー組むってそんなにないだろうし。那須さんにはあんまり意味ないかもしれないな。


『ただし初パーティー入場称号持ちのパーティー解除はこのダンジョンではできません。また今後パーティーメンバー追加はダブル初入場者称号持ちの家族のみです。ダブル入場称号の特典として使用武器と装備の強度アップとアイテムボックスの区分けを付与。パーティーを組んで討伐した場合のドロップ品と個人で狩ったドロップ品を分けて保存します。またパーティ―ドロップ品のみパーティーメンバーも出し入れ可能になります』


 え、今なんて言った? 家族のみって、うちの家族まだ覚醒してないからダンジョンに入れないんだけどどういうこと?

 それにアイテムボックスがまた進化した? 


「那須さん、こんなの聞いたことある?」

「あるわけないだろ」


 那須さんが私に返事をしながら、困惑してます。を絵にかいたような顔で討伐され続けている安全地帯の壁辺りを見ているけれど、これ考えるの放棄してないよね?


「まあ、初入場称号が理不尽なほどの恩恵を受けるって言うのは俺の母から聞いたことがある。これもそれの範疇ってことなのかもしれない」

「そうなのかな、でも那須さんにはあんまり恩恵ないんじゃない? このダンジョンに入るって今後あれば別だけど。那須さんの称号だと私と一緒に入らないと効果ないっぽいし」


 入ろうと思えば入れるだろうけど、那須さんはチュートリアルダンジョンにダンジョン協会の仕事で入らないといけないから、こっちに来る時間は取れないんじゃないだろうか。


「いや、経験値増大はありがたいから、山崎さんの都合がつくなら一緒に入るのはお願いしたい」

「それはいいけど、私平日は仕事あるから早朝か夕方のどちらかになるよ」


 そういえば那須さんのシフトってどうなってるんだろ、平日のみの勤務なのかな。お盆休みとかあるのかどうかも分からない。

 私はゴールデンウィーク、お盆休み、年末年始はお休みがある会社でしか働いたことないから、シフト制の仕事ってどんな風に休むのかよく知らない。


「早朝は難しいな、夕方なら……ううん」

「那須さんのお休みは?」

「不定期に月八回休んでるんだが、馬場班長が休みかダンジョンに入る時には俺が支部にいないといけないから、二人の休みが重ならないように休んでる感じなんだ。一応どちらも勤務時間は九時から五時だ」


 つまり、夕方からなら那須さんはこっちのダンジョンに入れるってことか。あれ? そうなると支部の買い取りってその時間帯しか受け付けてないのかな。


「ちなみに那須さんの今のレベルって」

「俺は四十三だ。こっちの支部勤務になってからはレベルが上がってない」


 苦々しい顔で那須さんが言うけど、自分のレベルを鑑定して無言になる。

 私の今のレベルはもう三十八なんだけど、今も魔物が安全地帯の壁で勝手に討伐されているから黙ってるだけでレベルが上がっていきそうだ。


「チュートリアルダンジョンってそんなに経験値稼げないんだね」


 私のレベルの上がり方がおかしいとはいえ、支部勤務になってからレベルが上がってないというのはチュートリアルダンジョンの魔物の弱さがそれだけで察せられてしまう。


「そもそもレベルというのは三十五辺りから必要経験値が多くなると言われていて、そこからはなかなかレベルが上がりにくくなるんだ。その上チュートリアルダンジョンは日本のダンジョンの中でも特別出てくる魔物のレベルが低いし取得できる経験値も少ないから、俺だけでなく馬場班長のレベルも多分上がってないんじゃないかと思う」


 仕事とはいえ、魔物を狩っても殆ど稼げなくて経験値も得られないダンジョンに入らないといけないのは辛そうだなぁ。

 それなら、那須さんにも沢山うちのダンジョンに入ってもらおう。


「公表前のダンジョンでも、頻繁にダンジョン協会の人が入るのは問題ないのかな」


 魔物を狩ったら売るとか魔物討伐の記録とかがあるから、那須さんがうちのダンジョンに入ってない振りは出来ないと思うけどいいんだろうか。と思い確認すると那須さんは簡単に頷く。


「まあ、山崎さんには理不尽に感じるかもしれないが、公表しない期間に探索者がこのダンジョンに入っても問題はないんだ。ただダンジョン協会が管理をしないっていうだけだからな」


 理不尽、確かに理不尽なのかもしれない。

 ダンジョン協会が管理していない、つまりダンジョンブレイクが起きてもダンジョン協会の責任じゃないってことだもんね。


「まあ、ダンジョンがあるって公表したら必ず探索者が来てくれるわけでもないだろうし。それはいいんだけどさ」


 そういう決まりだって言われたら、一般市民の私はそれに従うしかないし。

 探索者が足りないのはもうどうしようもないし。

 なーちゃんダンジョンは私が毎日入るから、その辺りはもういいよ。


「理不尽なことを強いているダンジョン協会の人間が、経験値欲しさに山崎さんの時間も使ってダンジョンに入るっていうのが申し訳ないんだが」

「え、それは全然いいよ。探索者になったばかりの私が言うのはアレだけど、探索者にとって経験値はとっても大事でしょ、それにこっちの方が稼げるわけだし。もう二人で沢山狩りまくろうよ、那須さんが一緒なら二階層以降にも行けそうだしさ」


 私がそう言うと、那須さんは大きく目を見開いた後で「ありがとう」とお礼を言ってくれたのだ。 

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