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今日はなんの日、食べ物ダンジョンできました  作者: 木嶋うめ香


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これで安心、できるのか? 1

「那須さん、大声出されると怖いよ。心配してくれてるのは分かるけど怒鳴られるのは怖い」


 あんまりにも那須さんが怒ってるから静かにそう言うと、我に返った那須さんに「すまない」と謝られてしまった。

 謝られるのもちょっと違うのかもだけど、大声を上げられるのは嫌だからここはキッパリと言わせてもらおうと思う。


「心配してるのは分かるけどね、私がおかしなことしてるのかもだけど、家の敷地にダンジョンが出来てダンジョン協会のきまりで一年間ここにダンジョンがあると公表されないから今のところなーちゃんダンジョンに入るのは私だけなんだよ」

「それは……そうだな」

「どんな魔物が出てこようと、私が狩らないと駄目なの。出来たばかりのダンジョンって本当は素人でも管理ができるくらいの脅威度だとダンジョン協会は思っているからこそ、一年間放置するんだろうけどさ」


 それって新しいダンジョン全部なのか、私は疑っている。


「一層目で大量に魔物が狩れちゃうダンジョンも同じなのかって疑問に思わない?」

「それは……」

「毎日私がなーちゃんダンジョンに入らないと、ヤバい可能性だってあると思わない?」


 ダンジョンって脅威度がそれぞれ違うし、出てくる魔物やそれぞれのダンジョンの特徴というものがあるらしい。

 なーちゃんダンジョンの場合、それが一層目に出てるってことだ。

 もしかすると二層目以降は雑魚魔物しか出ないのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。

 それは攻略を進めていかないと分からない。

 なーちゃんに質問したらいいのかもしれないけど、それでも今はなーちゃんから説明された二層目以降は他のダンジョンと同じような魔物が出ることしか分からない。


「他のダンジョンは一層目は弱い魔物が時々出る程度で、山程買い取りに出せるほどのドロップ品なんて手に入らない。それだけでもここのダンジョンは違う」

「でしょ? それでも初入場称号持ちの私でボスまで狩れるとダンジョン協会が分かっていたら、特例でここだけ公表して他の探索者を受け入れるなんてしないと思うのよね」


 ダンジョンを公表したとしても、探索者が余ってるならともかく世界的に足りない状況でこんな田舎の出来たばかりのダンジョンに来てくれる探索者がいるのかどうかも分からない。

 チュートリアルダンジョンみたいに閑古鳥が鳴いてるところだってあるんだから、特例で公表してもらえたら探索者が来てくれるかもなんて楽観できない。


「でも悪いことばかりじゃないのよ、魔素の放出を妨げてるのはダンジョンの入り口を囲ってるゲートだってはっきりわかってるわけだし、それが今のところ無いなーちゃんダンジョンから魔素が外に出てる。つまり私の家族は一年の間に覚醒する可能性が高い」


 覚醒時期なんて本人の申告次第だから、まずは私の弟みぃ君を彼の誕生日になーちゃんダンジョンに招待する。それで覚醒してくれれば御の字だ。

 時期を見て覚醒したとダンジョン協会に報告すればいい。


「それはそうだが」

「そうなったら、家族でダンジョンに入ることだって出来ちゃうのよ」


 ボス部屋まで行かなくても、一層目だけ狩りまくる選択もあるけど、なんかそれって勿体ない気がするから私はしたくない。

 家族が目出度く覚醒したら、家族皆で一層目を狩りまくりボスも当然狩る。

 リポップがどの位でするか分からないけど、それはなーちゃんに確認すればいいし、うちの家族は皆働き者だから畑仕事と自分の仕事と一緒にダンジョンでもキリキリ働くだろう。

 

「そんなに上手く覚醒するかな」

「するよぉ、だって私は魔素を吸い込む器が大きかったらしいけど、ダンジョンに入る前に魔素を吸っていたからダンジョンに入っただけで覚醒したって、なーちゃんが言ってたし、家の敷地の辺りは魔素が漂ってるから畑の作物も少しだけど魔素含有してるし、私が毎日ダンジョン産の食材を家族に食べさせるもの。覚醒条件はばっちりよ」


 私の家族が犯罪思想持ってるわけがないし、浮気思想も無いと思う。

 なにせ、両親は幼馴染で付き合って結婚し、今も仲良し夫婦という奇跡みたいな人達だし、みぃ君は幼馴染にずっと片思いしいて、半年ほど前にやっと付き合い始めたばかりで今のところ別れるとかそういう話は無い。

 浮気とかそういうのがどの程度まで駄目なのか分からないけど、多分気持ちが冷めて別れちゃったとか他に気持ちが向いちゃった程度なら大丈夫なんじゃないかと思う。

 結婚してるのに愛人もいるとか、彼氏彼女に内緒で他の人とも同時に付き合ってるとか、そういう人の心ないんか的な人が該当するんじゃないのかな。

 じゃないと、覚醒できる条件が厳しすぎて誰も覚醒しなくなっちゃうもの。


「ああ、山崎さんなら家族に大量にダンジョン産の食材食べさせそうだな。そうなると覚醒も早いのか」

「うん、だって那須さんもそういう条件で覚醒したんじゃない? 魔物の肉食べてたって言ってたよね」

「ああ、母が魔物肉を俺に食わせてたからな。というか、一時期はそれしか食卓に上がらなかった」


 それはそれで凄くない? 那須さんのお母さん、買い取りに出さずに魔物肉食べさせてたんだろうか。


「チュートリアルダンジョンでだと買い取りに出しても、スーパーで買う肉とそう値段が変らないっていうのがあるんだよ。魔兎の肉とか魔蛇とか」

「え、蛇も出るの」


 それはちょっと嫌だなあ。


「蛇は苦手なのか?」

「草刈りしてるとさ、たまに蛇とか蛙とかやっちゃうんだよね。あれ、結構心臓に悪い」


 ダンジョンは魔物を狩ってもグロいことにはならなくて、ドロップ品になってくれるからいいけど、現実はそうじゃないからね。

 うっかり胴体真っ二つにしちゃって、泣く泣く穴を掘って埋めるとか。年に一、二回あるんだよね。

 あれはいつまでたっても慣れないのよ、びっくりするしヒエエッてなるし。


「兎とか鼠が平気ってわけじゃないよ。あれだってダンジョンの外で狩るなんて無理だからね」

「そりゃ、平気で草刈り機で真っ二つ言われたらそっちの方が困惑する」

「そんなんできないってば、ねずみとりに貼り付いた鼠を捨てるのも悲鳴上げつつしてるのに、できるわけないってば」


 それがダンジョンの魔物ってだけで草刈り機で戦えるのは、怯えてたら自分がやられるっていう恐怖心と仮に真っ二つにしても死体が残らないからなんだろうと思う。


「まあ、話がそれちゃったけどさ。私の家族が覚醒するにしてもまだ先だろうし、それまでは私しか入れる人がいないんだから、那須さんが心配しても私はダンジョンに入るよ」

「仕方がないんだろうな」


 那須さんは納得してないというか、心配そうだ。

 これはどうしたらいいのかな、私が大丈夫だと見てもらうしかないのかな。


「那須さん、まだ時間って大丈夫? 後は家に帰るだけ?」

「ああ、資料はこのまま預かって山崎さんが明日来るまでに支部長と話をまとめておく」


 そういうことじゃないんだよね、那須さんに時間があるならこれから一緒にダンジョンに入らないかとお誘いしたいのだ。


「装備って持ってきてる?」

「車の中にあるが」


 さっきはマジックバッグ持ってたけど、普段は車の中に装備置いてるのかな。でも持ってきてるなら話は早い。


「じゃあ、これから一緒にダンジョンに入ろう。私がなーちゃんダンジョンで魔物を狩っている様子を間近で見たら安心するんじゃない?」


 今日の一層目は豚だし、ボスもきっと同じだと思う。

 なーちゃんダンジョンなら、私には安全地帯という超絶便利なスキルを使えるのだからこれを見たら那須さんも安心すると思うんだ。


「え、ダンジョン」

「そう、うちのダンジョン」

「……分かった。着替えてくる」

「私も上で着替えてくるから、那須さんここに荷物持ってきて着替えていいよ」


 私がそう言うと、那須さんはなんだか疲れた様子で外に出ていった。


「さて、着替えちゃお」


 私の部屋は二階にある、ささっと部屋に行って着替えてからトイレをすませて作業場にいる両親に「那須さんとダンジョン行ってくるね」と声をかけに行って戻ってくると、那須さんは昼間見た格好で玄関に立っていた。


「あ、用意完了? トイレとか水分補給大丈夫」

「お手洗いだけ借りていいだろうか」


 困惑していると言わんばかりの表情で、那須さんが言うから納屋近くのトイレに案内する。


「ここ、ダンジョンの後だとこっちの方が近いから、覚えておいてね」

「なんで外に……」

「あると便利だから、あ、ちゃんと水洗だし掃除もしてるから安心して」


 そう言えば普通の家には家の外にトイレはないのかと、一人納得しながら納屋の引き戸を開ける。

 昼間より暑さは落ち着いていても、それでも暑いのは暑い。

 灯りを手探りで点けて、虫が飛んできてるなと見ていると那須さんがやって来た。


「那須さん、ここが家のダンジョンの入り口です。最初は私が知らないうちにお父さんが裏庭に抜けられれるドアを付けたんだと思ったのよ」


 納屋の奥の壁に不自然に存在しているドアを指さす。

 古い木製のドアについてるのは、木の取っ手。

 明るい時は気が付かなかったけど、ちょっと発光しているように見える。


「あれがダンジョンの入り口、珍しいタイプだな」

「そうなの? チュートリアルダンジョンの石碑よりは入り口感あると思うけど」


 チュートリアルダンジョンは、石碑に触らないと中に入れない。

 ああいう入り口が多いとなると、うちのは珍しいになるのかもしれないけど、実際どうなんだろう。


「ドアを開いても魔物が飛び出すことはないけど、一応武器は構えておいてね。じゃあドア開く。あ、その前に那須さんに入場許可出しまーす」


 入場許可ってこんな感じでいいのだろうか、ダンジョンのドアに触れながらそう宣言すると、頭の中になーちゃんの「入場許可を確認しました」の声が響いたのだった。

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