不本意だけど怒られてる? 3
「え、あの、うん。でもなんで?」
那須さんの顔がなんだか怖いんだけど、これは不機嫌というより怒ってる?
なんかこれは怒られるパターンな気がするけど、でも私怒られるようなことしてないよね。
「頼むから絶対に他言しないと誓ってくれ」
確かに覚醒しない条件をうっかり公表したらそこから非覚醒者の差別を生むだろうことは想像できるから、ダンジョン協会的にそれでいいのなら言わなくても良いとは思う。
でも那須さんのこの言葉の迫力は、そういうたぐいの話じゃない気がする。
「えっと、理由を聞いてもいいのかな」
「食べても食べても覚醒しない。そういう人はある一定の地位にいる人が多いんだ」
やっぱりそういうものなのか、まあ清濁併せ呑む人じゃないと上の地位にはいけないのかもしれない。
でも、上の地位にいる人って別に覚醒しなくてもいいんじゃないのかな。覚醒してもダンジョンに入ったりしないと思うんだけど、どうなの?
「まあ、そういう人ってパートナーや恋人に一途って人が少ないから、なのかもしれないが」
あ、誤解してる。
浮気とか、そういうのは今日覚醒外扱いになったんだけど、それを知ってるのは私だけだしこれは墓場まで持っていく秘密にしないといけないやつだな。
「山崎さん、復唱して。覚醒しない方の条件はたとえ相手が家族でも話さない。はい」
「え、なんで復唱?」
私が考え込んでいると、那須さんはなぜか急に私に復唱しろと言い始めた。
「山崎さんの脳みそにインプットするため」
それ、私が三歩歩いたら忘れるニワトリだと思ってない?
那須さん私を全く信用してないなあ、私だって馬鹿じゃないから話をしても良いものと悪いものの区別くらいつくのに。
「私だって話していいことと悪いことの区別くらいつけられますうっ!」
「つけられてないから、胃が痛くなるなるほど心配してんだろうが! あんなに美味いもの食わせてもらったのに、その後が胃痛抱える問題聞かされた俺の身にもなってくれ!」
「え? 何かもうミスってる?」
私なにかしたっけ? すっとぼけているわけではなく本気で覚えがないから、んんんっとばかりに那智さんを見ながら首を傾ける。
「ホイホイとアイテムボックスから大量に素材を出すし、こんなレポートまで探索者登録初日に作ってしまうし、おまけに鑑定で魔素含有率なんてものまで出してくるしっ!」
「ええと、それは駄目なの?」
アイテムボックスも鑑定も称号取得のお祝いだから、私のせいじゃないよ。
そもそものところ、アイテムボックスもマジックバッグも持ってる人がいるんだから、私のスキルだってユニークスキル的なものじゃないでしょうに。
「アイテムボックスと鑑定ってスキル持ってる人結構いるんでしょ? 少なくともダンジョン協会には鑑定スキルを持っている人が各支部に一人はいるんだよね」
探索者の登録でスキルの鑑定が必要になるんだから、支部には必ず鑑定スキル持ちがいるってことだ。
「確かに鑑定スキル持ちは各支部に一人は絶対にいるし、アイテムボックスのスキルだって特殊スキルっていうわけじゃない。初入場称号持ちは大抵この二つのスキルを最初に貰っているからな」
「ほら、珍しくないんじゃない」
ダンジョンって沢山あるんだし、そうしたらこの二つのスキル持ちもかなりの数いるってことだよね。
「だが、山崎さんみたいに覚醒してすぐにこんなに使いこなしている人なんて聞いたことない」
「あー、そういうこと。それはでも私のせいじゃないよ、なーちゃんが私に忖度? してくれてるのよ」
私かなり無茶苦茶我儘言ってる自覚あるけど、それを結構な頻度でなーちゃんが叶えてくれてる。
パン粉だけじゃなく小麦粉各種出してとか、ドロップ品を拾うのが大変だとぼやいたら、自動収納してくれるようになったとか。
本当になーちゃんは私に親切にしてくれるから、とっても助かっている。
「それに、最初っから大量に魔物? あれ植物系も魔物でいいのよね? それを刈ってアイテムボックス使いまくってたし、今日も鑑定を使いまくってたから熟練度が上がったんだと思う」
スキルって使えば使う程熟練度が上がって難しいことが出来るようになるらしいし、そういう意味で私は覚醒したばかりでスキルを使いまくってるんだと思う。
「そう言われると何とも言えないのかな。……覚醒初日にアイテムボックスに大量に物を入れたらスキルの熟練度も上がるのかもしれないのか?」
この人真面目だなあ、私が苦し紛れに言ったことを真に受けて真剣に考えている。
でも私のスキルってこういうものなんだし、そういうこともあるって受け入れていかないといけないと思うのよね。
一年間ダンジョン公表しないって考えると、私がメインでなーちゃんダンジョンに入り続けるわけだから、そうなると私これからもなーちゃんダンジョンで称号取りまくると思うし、称号取っていくとそれのご褒美のドロップ品も手に入るだろうし。
あ、そういえばドロップ品といえば……。
「那須さん、そういえば今日のボス討伐した時に鞄もらったんだよ。まだ鑑定してなかったから鑑定するね」
ひょいっとアイテムボックスからボス討伐で貰った鞄を取り出して、鑑定する。
ちなみに鑑定はさっき使いまくったお陰で、かなり詳しく見ることが出来るようになった。
魔神豚革製マジックバッグ:容量無制限、時間停止の魔法鞄。任意の数でまとめて収納、取り出し可能。まとめた場合、ダンジョン素材の箱に入り収納され、箱は全て中身を取り出した後で消滅する。再収納可能。
アイテムボックスから、マジックバッグへ直接移動可能。その逆も出来る。
内容はリスト化(収納順、アイテム名順、収納量順などでソート可能)できる。
「んんん? どういうことだろ」
考えて、アイテムボックスからマジックバッグにジャガイモ百個を移動する。その際五十個をひとまとめにと設定する。
「山崎さん?」
「んーと、取り出し? 一箱?」
リストからジャガイモ(一箱五十個/ニ箱)から一箱取り出す。
「へえ、これが箱」
「山崎さん、これは」
「マジックバッグ? 今日のボス討伐のドロップ品だけど、魔神豚の革なんだって」
箱の蓋を開けると、綺麗にジャガイモが並んで入っている。これなら買い取りにコンテナがいらないじゃないか、素晴らしいね。
ニッコニコで那須さんを見ると、人ってこんなに固まるんだって感じにカチンコチンになってこっちを見ている。
え、漫画じゃないのに、実在の人を見てカチンコチンなんて思うことってあるの?
「那須さーん、大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃない。魔神豚って最上級の魔物なんだけど、まさか戦ったのか? 怪我は?」
「いや、ボスはダンジョン狂い大豚王だったと思う、スモーカーの方が、ダンジョン狂い大豚王ボスを魔法で倒した記念とか鑑定に出てたし」
鑑定で得られる答えが増えたから、貰った調理器具にどのボスを倒した時のドロップ品なのかとか、お勧めレシピとかまで教えて貰える様になったのよね。
「それだって、結構な強さの魔物だぞ。あんた一人でそれを倒したのか?」
「だって、私一人しかいないし」
「山崎さんっ! あんたもっと危機感持ってくれないかなっ!」
ばんっとテーブルを叩いて、勢い込んで那須さんが立ち上がる。
え、なに? 怖いんだけど。
「那須さん落ち着こう?」
「落ち着ける理由がないだろっ! あんた覚醒して三日なんだぞ! レベル上がったって魔物を狩る技術が追いついてるわけじゃないんだ! 自分のレベルを過信するなっ! 死にたいのか!」
本当の本気の怒り顔で、那須さんは延々と話し続ける。
でも、一人なのは仕方ないし、ボスが何かなんて入るまで分からないし、入ったら戦うしかないんだから、私は逃げない一択しか取れないと思うんだけど?
なんてことは言ったら駄目なんだろうなあ。




