ホウ・レン・ソウをしただけなのよ 4
「那須さん、ご飯足りた? まだ色々作ったのあるから遠慮しないでいいよ」
夕飯の後リビングに場所を移してコーヒーをいれながら聞く、両親は明日の出荷の準備で作業場にいるから、妙に静かだ。
「あれで足りないわけないだろ」
「あれ? なんか怒ってる?」
ちょっと不機嫌そうな那須さんの表情に、やっぱりうちの両親の距離が近すぎたか? と考えていると、那須さんは右手で顔を覆いながらはぁぁっと息を吐いた。
「どうしたの?」
「あんまりにも美味すぎて食べすぎた。こんなに腹が苦しくなるほど食べすぎるなんて。しかも初めて伺った家だし、そもそも仕事で来ているのに申し訳なくて」
不機嫌なのではなく、自己嫌悪に陥っていたらしい那須さんに慌ててしまう。
私にしてみたら、どこに申し訳ないって思う要素があるって気持ちだ。
「えええっ、何言ってるの仕事の話があるから飲んでないけど、そうじゃなきゃビールが出てまだ飲んでると思うよ。それに私が好き放題に出して食べてもらったんだから、那須さんが申し訳ないなんていう話じゃないよ。これからダンジョン関係でお付き合い続くんだから、両親のテンションに早めに慣れた方が那須さんも楽だと思うよ」
なーちゃんの話だとダンジョンから相当魔素が出てるらしいから、それを毎日吸っている私の家族は誕生日にダンジョンに入らなくてもその内全員覚醒するだろう。
そうしたら那須さんの付き合いは続く。
「え? 山崎さんのご両親に慣れるって、どういうことだろうか」
「だって那須さんはこれからも沢山うちのダンジョンの確認とかで家にくるでしょう? そうしたら家に来るたび家でご飯食べるしお酒も飲むようになるじゃない? それにお父さんと約束したから、近いうちに釣りも誘われるはず」
私の両親は社交辞令で誘ったりしないから、来る度ご飯食べていきなさいってなるし、勿論釣りだっていつ行こうか? って本気で誘う人だ。
「釣りは……一緒に行けるのは嬉しいからいいんだが、毎回ご馳走になるのはなあ」
「お茶飲んでから話してる内にご飯に進み、飲みになる。そんでもって最後は泊まりになるよ。もう家に来る人は諦めてお泊りの用意して来る方がいいよ。那智さんに限らずダンジョン協会の人もそうなると思うんだよね」
お父さんの友達とか、みぃ君の友達とかそういう感じに泊まっていく人が何人かいるから、それぞれ泊まりに使う部屋が決まっている。
ちなみに家は古い家に廊下でつなげて新しい家が建っていて、古い方の家の二階がお泊りの人用の部屋になっていて、一階の十畳の和室三部屋は何かあった時用の場所(お葬式とか宴会とかね)に何も置いてないし、二階で足りなければ一階の和室に布団を沢山敷いて雑魚寝な感じで寝てもらう時もある。
そんなわけで、家は小さな旅館か民宿かと言わんばかりにお客さん用の布団とシーツがある。
ちなみに私の友達は地元に残っている子は殆ど結婚しているから(泣)、泊まっていくパターンは無くなったけど。学生の頃は着替えや歯ブラシとかを置いている子もいた。
「今日だけで山崎さんが、山崎さんになった経緯が理解できたよ。だけどもし山崎さんの家のダンジョンを公表して知らない探索者が来てもそういう対応はしないで欲しい。探索者すべてが善人なわけではないからそれは約束してくれ」
なんだか疲れたようにしている那智さんの前にアイスコーヒーのグラスを置いて、私の前はマグカップに注いだ牛乳を置く。
私はまだ身長が伸びるのを諦めていない、だから夜に牛乳を飲むのだ。
「ええと、それではダンジョンの話しようか。これはですね、今日なーちゃんに聞いた話をまとめたものです。こっちは検証結果のまとめ。まず聞いた話のまとめから読んでもらっていい? 質問は全部読んでからまとめてでお願い。何かメモ書きしたいなら直接書いていいよ」
探索者すべてが善人じゃないのは確かだろうけど、宿泊施設なんてない田舎の町でどう対応するのが正解かは家族でこれから話し合わないといけないと思うから、那智さんの心配はとりあえず返事をせずに曖昧に頷くに止めて用意していた資料をテーブルに出す。
「用意いいな。助かる」
チュートリアルダンジョンでした質問と、なーちゃんダンジョンで聞いた質問、両方の話をまとめておいた。
それから覚醒に必要な魔素を取り込むために、私がなーちゃんダンジョンで採取できた食材を使って出来そうなことについての案と検証結果だ。
魔道調理器具を使った時とそうじゃない時、それだけで魔素含有率が大きく変わるんだから、これを使わないっていうのは勿体ない。
ついでに言えば、なーちゃんダンジョンは毎日出る食材が違うとはいえ、大量に食材が採取できるダンジョンなんだから、これも使わない手は無いと思うんだ。
「無茶苦茶な話だけど、これが真実だとすると納得出来ることも多いな。新発見ばかりだが」
「私にしてみたら、この質問を今まで誰もしなかったのが不思議なんだよね」
だって、誰かが『どうやったら覚醒する?』って聞いていれば良かった話なんだもん。
「そうだな何度も質問できるのは初入場、初ボス討伐の称号を両方持っている人間だけとはいえ、山崎さんだけじゃなく誰かは質問出来たよな」
はぁっと、大きなため息を吐く那智さんは、ビックリなことを言い始める。
え、誰でも質問できるわけじゃないの?
「そんな条件あったんだ」
「あったんだよ。でも、今まで両方称号持てるようなダンジョンは、残しておく価値もなく簡単に攻略出来るダンジョンが多かったから、もうダンジョンコアを潰して閉鎖しているんだ」
「閉鎖」
「そういうところは出来てから一年以内に閉鎖するから、そういう意味もあって正式な公表は一年経ってからって決まっている」
なるほど、自然消滅するだけが理由じゃなかったんだね。
でも残ってるダンジョンもあるなら、ダンジョン協会で不明点を色々聞いたりすれば良かったんじゃないのかなあ? それに私の称号はなーちゃんダンジョンのものだけど、チュートリアルダンジョンでも質問できたよ。
「質問って、そのダンジョンに関して以外を教えて貰えるとは思ってなかったんだよ。それから他の人は自分が称号を得たダンジョン以外で質問できると思ってなかったから、魔法陣でも行先しか選択して無かったんだと思う」
私が疑問を口にしたら、那智さんからそういう答えが返ってきた。
「え、どういうこと? 選択肢には出るけど選ばなかったってこと?」
「例えば俺がダンジョンに質問を選択すると『条件を満たしていないので選択できません』となるんだ」
「……じゃあ質問できるのって私みたいな称号持ちの特権ってことなんだね」
なーちゃんが最初に初入場の称号持ちは特典が他にもあるから確認してって言ってたのは、こういうのも含まれるんだね。
「称号が無いと質問できないっていうのは、山崎さんみたいな初入場初ボス討伐の称号を持っていない覚醒者は、探索者登録の講習で説明がされるんだよ。ボス部屋で選択肢が出ても説明は聞けないって。一応条件は不明っていう説明しているから、これは他言しないように」
「そうなんだ。でもなんで不明?」
「海外で質問が出来たらしいって噂もあるんだよ。でも確かじゃない、見栄張ってそう言っている可能性もあるし、初入場初ボス討伐の称号持ちだけ狡いと言われても困るだろ」
まあ、情報を得られるの狡いって思う人もいるかもだから、それは黙っていた方がいいのかな。
「色々あるんだねえ、難しい世界だわ」
「俺には山崎さんの扱いが難しいよ」
ため息吐きながら那智さんが言うから、ちょっとムッとする。
私の扱いが難しいってどういうことよ、私クレーマー体質とかじゃなんですけど。
「アニメとかの主人公なら、自分なにかやっちゃいましたか? で済むかもしれないが、山崎さんは無自覚でとんでもないことしそうだから怖いよ。探索者になった初日でこんな案出してくるしさ」
私が作った資料をひらひらとさせながら、那須さんはまたため息を吐く。
「こんな案って、没決定な案ってこと?」
「こんなの決定したら、あんた都合よくダンジョン協会に使われる案ってことだよ」
「都合よく使われる?」
私は素材じゃなく、食品にしてから買い取りをしてもらうって案を書いただけなのに、どうしてそれが都合よく使われるになるんだろう。
「魔道の調理器具なんて、俺が知る限り始めてドロップしたものだ。つまりこの世で持っているのは山崎さんただ一人ってこと」
「そうなんだ」
「それで、普通に調理するより魔素含有率が高い料理が出来るのが実証された」
「そうだね」
苦労せずに調理出来る上、出来上がるのは魔素が沢山入った料理だから素材よりそっちを買い取ってもらった方が良いと思うんだよね。
すべてをそうするわけじゃないよ、たとえば探索者育成学校とかの給食とかに料理を使ってもらうの。
そうしたら魔素を沢山体内に取り込めて、覚醒が出来そうじゃない? いい案だと思うんだけどな。
「ダンジョン協会の下僕になるつもりはないけど、覚醒者が増えなくてダンジョンブレイクしたら私罪悪感で死んじゃうと思う」
「なんでそうなる」
「だって、何も知らないで探索者やってるだけならともかく、覚醒方法と覚醒者が増えない場合未来に何が起きるか知っちゃったんだもの。何かできることしなきゃって思うでしょ」
私は正義のヒーロー願望があるわけじゃないよ、でも不幸な未来が起きない方法を知っているのに何もしないでいるなんて出来ないってば。
「あんた、お人よしもたいがいにしろよ」
それなのに、那智さんは呆れたと言わんばかりの顔で私を見て何か考え始めてしまったのだ。




