ホウ・レン・ソウをしただけなのよ 1
「え、今から来る?」
ダンジョンから出て、忘れないうちに那智さんになーちゃんから教えてもらったことをメールで送っておいたら、びっくりな返事が来て驚いている。
「那智さんもしかしたらダンジョンに入りたいのかな。私今手が離せないんだけど、すぐ来るのかな。そうしたら、那智さんだけでダンジョン入ってもらうしかないかな」
なーちゃんが『通常の調理器具では調理中に魔素が抜けてしまう』と言っていたので、それがどの程度なのか確認したいなと思って家の台所にオーブンを出して調理開始したところ。
家に戻って、那智さんにメールしてからシャワー浴びてさっぱりして調理開始したところで那智さんから来てた返信に気が付いたというわけだ。
私がメール送って即返信来てたのが恐ろしい、那智さん暇なのか? いや、そんなことないか。
「那智さん来るなら、その前にパンの魔素残量だけ調べておきたいよねえ」
私鑑定持ってるし、普通の調理器具と、なーちゃんのボス討伐でもらった調理器具があるので、とりあえずオーブンを使ってパンを作ってみようかなって思ったわけ。
ちなみに鑑定するとボス討伐でもらった調理器具はすべて頭に魔道オーブンと言う風に魔道というものがついている。
この魔道ってところが重要なんだろうね、魔石とか魔素とか私の魔力とかで動くし、材料が揃ってなくてもメインの材料があれば作りたいものが出来てしまう謎仕様。
メインの材料がダンジョン産であることという条件はつくけれど、そんなの条件としても誤差の範囲でしかないと思う。だってチョコチップメロンパンを作ろうとして、イーストもチョコチップもないのに強力粉だけで出来てしまうんだよ。
凄くない?
で、このオーブンは発酵から成形までと指定してスイッチを入れると、ちゃんと焼く前までの状態になってくれるんだ。
しかも、スイッチ入れてからほんの僅かな時間しかかからないのよ、凄くない?
パンって、こねるのも大変だし、発酵完了まで時間がかなりかかるものなのに、小麦粉をオーブンの鉄板にちょっと入れるだけで、沢山出来ちゃうのよ。
ちなみにダンジョンの外で使う場合、魔石か魔力が動力として必要になるので今は私の魔力で動かしている。こんなに凄いオーブンなのにそんなに魔力は使わない。
沢山って具体的に言うと、一握り程度の強力粉で、鉄板一枚分のチョコチップメロンパンが焼ける。
一枚は大体パン屋で売ってるメロンパンサイズのものが、十個程度。
メロンパンって、私の知ってるレシピだと八個分で強力粉が二百グラム、クッキー生地分の薄力粉が百三十グラムくらい必要になるのに、薄力粉無くても強力粉一握り程度あればメロンパンが十個も出来ちゃうってどういうこと? ってなるよね。
で、とりあえず二次発酵まで終わって成形も終わったメロンパンとバターロールをそれぞれ普通のオーブンと魔道オーブンで焼いているところ。
魔道オーブンはチートな調理時間だからもう焼きあがっているけど、普通のオーブンで焼いている方はまだまだかかる。
パンが焼き終わったら、これを全部鑑定して結果を記録する。その後はパウンドケーキとかクッキーとかを焼こうかなって考えていたところで那智さんからのメールが来たのだ。
「うーん、パウンドケーキとクッキーは那智さんが帰ってからにするか。スモーカーだけ使おう」
お肉を沢山確保できたので、これは作るよ。今日の夕飯はハムステーキだよ、お父さんお母さん。
「まずはお肉を仕込んでおこうかな」
アイテムボックスから、お肉の塊を選ぶ。
オーク、ダンジョン狂い大豚、ハイオーク、オークキングが一層目で狩った魔物だけど、これがそれぞれの部位がセットでドロップが出ていたり、部位単品でドロップしていたりしている。
これはなんだろ、ランダムでドロップ率が変るってことなんだろうか。
「やっぱりロースかな。何がいいかなあ、名前的にはダンジョン狂い大豚かなあ。よし、これのロースいってみよう」
アイテムボックスからロースを出すと、とんでもなく大きな塊が出てきた。
いつの間にかドロップ品がアイテムボックスに自動で収納されるようになっていたので、私は狩るのに専念していてドロップ品は自分で拾ってないから一つ一つの大きさが分かっていないんだけど、お肉の塊が大きすぎて引く。
「美味しいハムになってね」
食べきれなくても私には時間停止するアイテムボックスという強い味方があるから、何も問題はない。
時間停止と収納無限は強いスキルだと思う、ありがとうなーちゃん私に使えるスキルをくれて。
感謝しつつスモーカーにお肉をセットして、魔力を込めながらスイッチを入れる。
「あ、結構魔力使うかも」
魔道スモーカーも謎仕様なので、できあがるのは当然早い。早すぎるくらいに早い。
普通のオーブンで焼いているメロンパンはまだ焼きあがらないのに、ハムが先に出来上がった。
「うわ、いい匂い。これはいけないわ。ハム齧りたくなっちゃうじゃない」
大きな塊のお肉を一つスモーカーに入れたのに、なぜか私の片腕くらいの長さで、断面が私の手のひらよりも大きいものが五本も出てきた。
試しに一本を台所にあったキッチンスケールで重さを計ったら、当然のようにエラーになった。そりゃ一キログラムまでしか計れないんだからエラーになるかと、脱衣所に置いてある体重計を持ってきて私体重を一回計ってその後ハムを持って計る。
「え、じゅう? 十五キログラム? それが五本」
あの塊そんなにあった? 十五キログラムが五本で七十五キログラムでしょ、私そんな重いのを気軽に持ち上げてスモーカーに入れてたの?
「あ、オーブンと同じ理屈なのかな」
オーブンでパンを作る時に入れた小麦粉の量よりも多いパンが焼けるんだから、スモーカーも同じように入れたお肉の量よりも多い量のハムが出来てもおかしくないのかもしれない。
調味料無しでお肉だけでできるのが凄いし、チートだと思うけれど美味しくできたなら問題なし。
ちょっと切って味見しようかな。
「ハムは普通のスモーカーなんてないし、普通に作るなら一日で出来ないし。これは鑑定対象外。ちょっと切って味見っ。うわ、なにこれ美味しすぎる」
ハムって何食べてもそんな味に違いがないというか、感動が無いと思ってたのに全然違うよこれ、無茶苦茶美味しいんですけど。
「高級品なハムってこんなに美味しいのかしら、それともダンジョン産のお肉使ったから?」
とりあえず鑑定して見ると、ダンジョン狂い大豚ロースハムという名前が出た。脂身が美味しいダンジョン狂い大豚のロース肉を使用したハム。濃厚な旨味を保持し脂身が適度に入っているためしっとりジューシー。そのまま食べても焼いて食べても美味しい。魔素含有率九十五パーセントとでた。
最初魔素含有率なんて出てなかったのに、なーちゃんと話した後に追加された気がするんだよねえ。
なーちゃん、必要なことを理解して私にスキルをくれてる説が濃厚になってきた気がする。
「ダンジョンは人の未来はどうでもいいらしいけど、ダンジョンブレイクはさせたくないって思ってるんじゃないのかなあ」
都合の良い考え方かもしれないけれど、私の家になーちゃんのダンジョンが出来て、私が覚醒したのって私の性格を理解してな気がして仕方がない。
私は家族をダンジョンに入らせて覚醒してもらうつもりだ。
誕生日に限らずダンジョンに入り、覚醒するまでは私の見守りのもと魔素を吸い込んでもらって覚醒を促す。両親はダンジョンに興味持っていたし、覚醒したいとも言っていたから嫌がることはないと思う。
ダンジョンブレイクする未来があるなら、家族を覚醒させないなんて選択肢はない。
覚醒してどんなスキルを得られるか分からないけれど、ダンジョンブレイクした時に覚醒していなければダンジョンから出てきた魔物から逃げ回るしかないけど、覚醒していれば魔物と戦えるかもしれない。
まだみぃ君には話をしていないけれど、あの子もきっと私が覚醒した話をしたらチャレンジするって言うと思うんだよね。あの子はそういう子だ。
「ハムは那智さんにも持って帰ってもらおう。美味しすぎる、これは皆に食べてもらわないと駄目な奴だわ。あ、那智さんにメールしなきゃ」
家に来るのは大丈夫だけど、ダンジョンに入るのは疲れてるから明日にしたい。と返信したら。すぐに話を聞きたいだけだと返って来た。
それなら電話でいいんじゃないかと思わなくもないけれど、ハムも渡したいからいいかと思いなおしてそれならいいよと返事をする。
「あ、メロンパンも焼けたね。次はバターロールだ」
とりあえずメロンパンをそれぞれ鑑定すると。魔道オーブンで焼いた方は魔素含有率九十パーセントと出て、普通のオーブンは七十パーセントと出た。
「うーん、成形まで魔道オーブンでやってこれだけ下がるってことは、普通に手でこねて発酵させてだったらもっと下がりそうだなあ。それに、普通に作る場合は他に材料もいるわけだし、バターとかがダンジョン産のものじゃないならもっともっと下がりそう」
これはクッキーとかで試す意味もないわと、妬きあがったばかりのパンをそれぞれ大皿に盛ってアイテムボックスに収納する。
これでいつでも焼きたてが食べられるのが嬉しい。
「いっそハムとか私が作って売っちゃうとか? あ、でもそうすると販売許可を取らないといけないのかなあ。食品を加工して販売するって資格必要だったよねえ。うーん、普通に作っても食材から抜けた魔素は空気中に漂うって話だし、それなら私が無理して作る必要はないのかな」
なんだかダンジョンブレイクするかもと言われると、対策しないといけないんじゃないかってソワソワしてしまう。
なにせ覚醒してすぐに探索者として戦える人ばかりじゃないと思う。
チュートリアルダンジョンみたいに、稼げるのは十層目からなんてダンジョンばかりだったら専業なんて無理だろうし、そうなると覚醒してもダンジョンに入らないって選択する人も出てくるだろう。
私は専業になるつもりはないけど、覚醒してどれくらいの人が専業になるのか分からないけど、専業になりたくても稼げないんじゃ無理な話だ。
「他のダンジョンだと稼げるのかなあ」
覚醒したばかりの私が考えることじゃないと思いながら、私は覚醒するって大変なんだなとため息を吐いたのだった。




