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今日はなんの日、食べ物ダンジョンできました  作者: 木嶋うめ香


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12/19

本日のダンジョンさん

「え、豚ってこれ?」


 家に帰ってから、ボス討伐でもらったオーブンで色々作ったパンやピザの残りを食べてから、納屋に入りダンジョンさんのドアを開いた。


「ちょ、ちょっと待って」


 わらわらと一層目一面にいる豚、その写真を撮って一旦外に出るとドアをしっかりと閉めてから那智さんの仕事用パソコンのメールアドレスに写真を送付する。

 

 ちなみに那智さんの私用のアドレスは聞いてない、那智さんの名刺に書かれていた方のアドレスだ。

 同級生だけど向こうから教えてこなかったし、名刺貰ってるから個人的な連絡先は特に聞こうというのが浮かばなかった。

 私の方は探索者登録の際に自宅の電話番号とスマホの番号とメアドは書いているけど、今って個人的なやり取りはメッセージアプリの方使ってるからスマホのメアドって殆ど使わない。

 さて、写真を送ったし中に戻るかと、スマホをアイテムボックスに収納しかけた途中で着信に気が付いた。


「はい、山崎です」

「これはなんだ」


 メールを受信してすぐに反応するってことは、あの豚さん達レアな魔物なんだろうか。

 それにしても、名乗らずに「これはなんだ」は無いんじゃない? スマホの電話帳に支部の代表番号登録してたからいいけど、そうじゃなきゃ切ってるよ。


「豚ですが」


 他に言いようがなくてそう答えると、電話の向こうで大きなため息を吐いている様子が伝わってくる。

 

「そういうことじゃなくて、なんでこんなに大量にいるんだって聞いてるんですが」


 最初の一言は失言だったと那智さんも気が付いたんだろう、口調がちょっと改まっているけれど、苛ついているようも聞こえて、なんだか相手するのが面倒になってくる。


「大量にでる理由なんて、私に分かるわけないでしょ。ドア開けたらこんなにいたから写真撮って送っただけだし」

「……それはそうですね。初めてみた光景でしたので取り乱しました。申し訳ありません」

「昨日の麦畑も見せましたよね?」


 一面の黄金、麦畑の写真を私は見せたと思うんだけど、あれ植物だからそんなにインパクトが無かったんだろうか。


「麦……そういうことか、理解しました。写真を見る限り魔豚の子供に見えますが、ボスが同じとは思えませんのでボス部屋に入る前にドロップ品を鑑定して、用心してボス部屋に入ってください。一層目をすべて狩ってしまうつもりでしょうけれど、それで疲労があったら無理せずボス部屋に入らずダンジョンを出るようにしてください」

「え、入った限りはボス討伐するつもりだけど」


 だって、昨日と一昨日のことを思ったら、今日はきっと燻製機が何かが出てくると思う。

 鉄板もフライヤーもオーブンもアイテムボックスの中に入ってるし、調味料諸々も入れたからボス部屋で一人お疲れ様会する予定なんだよ。

 そんな楽しみを、少々の疲れ程度で止めるわけないよ。


「あんたって人は……麦やジャガイモと違って豚は動くんですから、疲労はかなりのものだと思いますけれどね。昨日まで大丈夫だったからと、油断してはいけませんよ」


 那智さんがため息を吐きつつそう言って、それを聞いて私はそう言えば豚は動くのかと理解した。

 なんかみちみちにダンジョンの中にいて、ドアの外に出る様子もなかったから動くって概念が無かったのよね。


「そうか、動くんだね」

「やーまーざーきーさーんっ! 動くんだねじゃないですよ、動くに決まってるじゃないですか。攻撃だってしてきますよ。分かってますか? 魔鼠や魔兎より余程動き早いですからね」

「ドアの外に出る気配ないし、写真通りみちみちに詰まってるんですから動きなんてまだ分からないんですけど」


 とはいうものの、これ言い訳だよね。

 自分でも分かってるんだけど、どんな動きするかなんて分からないのよ。

 ダンジョンに入ったら、頑張るしかないわけだし。


「分からないって、山崎さん。無理はしない方が……」

「そうは言いますけど、ここに入れる探索者が今のところ私しかいないんですから、ちょっと位無理はしますよ。植物タイプだけ刈っていくわけにはいかないですし」


 たまたま昨日と一昨日が植物タイプだっただけで、これからずっと動物タイプが続くかもしれないし、そうなったら狩れるようになっておかないのはマズイと思うのよ。


「一年は基本一人で頑張ってもらわないといけないのは事実なので、無理をさせている立場ではこれ以上言えませんが、怪我には気を付けてくださいよ」

「はい、十分気を付けます。それじゃあ」


 電話を切って、そんなに私頼りないかしらと考えて、初心者だし当然かと結論付ける。

 どうも私ダンジョンの探索が若干脳筋気味なところがある気がするし、はたで見ていたら心配になるのかもしれない。なにせ、さっき那智さんの動き気にせず草刈り機振り回しちゃったし。


「あれは魔物、あれは魔物、あれは魔物」


 那智さんは魔豚の子供って言ってたけれど、大きさは全然子供サイズには見えなかった。

 地元の農業学校の見学に行った時に飼育しているあまり大きくない種類の豚を見たけれど、あれは後数日で出荷されると言われていたもので、重さが二百五十キログラムちょっとあるという話だった。

 ダンジョンの中にいた豚は、あの豚よりもだいぶ大きかったからとても子供とは思えない。


「体が大きいんだから草刈り機は当たりやすいし、ダンジョンの中では血は飛ばないすぐに消える」


 やっぱり私色々考えると駄目っぽい気がする。

 勢いでいかないと、段々怖くなってくる。

 

「こういう時は一番怖いことを考えておこう。あれが全部外に出てきたら、家の畑も田んぼも全滅しちゃうんだよ。それは駄目でしょ」


 やっぱり生き物に見えちゃうと躊躇しそうになるけど、あれは魔物だと自分に言い聞かせる。

 幸い外で動物に何かするのと違って、ダンジョンの中は狩ったらすぐにその血の一滴すら残さずに消えてしまうから、スプラッタな恐ろしいものは見なくていい。

 それは物凄くありがたい、さすがに私魚は捌けるけど豚の解体はできる自信が無いし、それを見ている気力も根性もない。

 それに、消えるってところがゲームっぽい気分になって、現実味が薄れてくれる。

 

「ゲームじゃないけど、あれは魔物。戦ってもいいもの、残虐行為じゃない」


 自分に言い聞かせて、すでに魔鼠と魔兎を狩ってるのに、私まだ躊躇してたんだなと気が付く。

 殺意マシマシで私に襲ってきた魔鼠みたいなら勢いでいけたけど、豚はただそこに大量いいるだけだし見慣れた見た目っていうのも躊躇しちゃう理由なんだろう。


「そんなこと言ってらんない、もう私探索者なんだから」


 那智さんだったら、魔鼠も魔豚も同じ魔物だって言うだろう、魔鼠は躊躇わなかったのにあんた何言ってんだ? ってきっと言うし、私もそう思う。


「よし、とっとと狩るぞ」


 大量に襲ってきたら困るけど、ぶんぶん草刈り機振り回してたらいける気がする。


「まずスィッチを入れて、草刈り機君君の動きに掛かってるからね!」


 相変わらずの農作業スタイル、しっかり日焼けカバーで口元を覆って、麦わら帽子もしっかりと被ってから草刈り機のスィッチを入れる。

 ういぃんという、いつものモーター音を響かせながら、草刈り機片手に中にドアを開き中に入る。

 

「おとなしく狩られなさいっ」


 私の大声に合せて、草刈り機の大きさが三倍程度になる。

 円盤型の金属刃は巨大になりすぎて、これ雑草とか藪とか刈るやつじゃなくて木工場で材木切る用なんじゃないかって大きさになっているのに、重さは変わらないのが不思議だ。

 ちょっとでも油断して手を止めると豚が私に近付いてきそうになるから、無心で草刈り機を動かし続けていると、金属刃に魔豚だったものが四方に飛んでいく。

 なぜか魔豚は、私の草刈り機の刃が動く範囲より中には入ってこられないらしく、私が魔豚を狩って出来た隙間に突進してくるくせにそれ以上は肉迫してこない。

 それに背後からも襲ってこない、それがなぜか分からないけれどお陰で私はひたすら前を見て雑草を刈り続ける感覚で草刈り機を動かしていけばいいだけだった。

 植物タイプとの違いは、向こうから魔物が寄ってきてくれるってところだ。

 つまり私が動き回らなくても、勝手に魔豚が私に近付いてきて草刈り機の餌食になってくれる。


「あ、そうか入り口を背にしてるからだ」


 実は私、ダンジョンの入り口からほぼ中に入っていない。

 入り口近くは安全地帯になっていると、今日新人研修で教わったけれどこのダンジョンにもそれがあるらしく私はダンジョンの多分安全地帯の中にいて、草刈り機の刃の部分だけが多分安全地帯の外に出ているんだと思う。

 そして、魔物は人を見ると襲ってくる性質ならしく、私が一体狩ると次の一体がそこの隙間に寄って来てまた草刈り機に狩られていくというわけだ。

 音にするとブンブンッって感じに私は勢いよく草刈り機を左右に振っていて、巨大な金属刃が高速回転しながら魔豚の首を狩っていくから、そのスピードに魔豚が対応できないまま首が飛んでいっているんだろ思う。


「これ多分他のダンジョンじゃ使えない技だわね」


 魔物って狩ってから一定時間が経たないと新たな物が出現しない、ゲームでいうところのリッポップという現象になるけど、今丁度そんな感じで一層目の魔物を狩り切った私は、次の魔物が出てくる前にボス部屋の入り口へと急ぐ。

 チュートリアルダンジョンはかなり広さがあったけれど、ここはそんなに広さがないし、ボス部屋は分かりやすく何もない空間にドアっぽいものが浮いている。

 とっても親切設計だと思う。


「ええと、私のレベルは上がったのかな? ん? レベルそんなに上がってないな、三十か。なんだろ安全地帯強化って」


 新しいスキルを覚えていた。

 

「ええと、安全地帯は狩る場所じゃない? え、これ称号なの? 安全地帯で一定数の魔物を短時間で討伐した者に与えられる称号で、この称号を持つ者がいると安全地帯が広がる、安全地帯が強化される。任意の場所が一時的に安全地帯になる? (現在なんの日ダンジョンのみの効果)」


 なんだか私、またやっちゃった感じなんですけど。

 これっていいのかな、なんの日ダンジョンのみの効果って書いてあるから那智さんに言わなくてもいいかな。

 いいよね???

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