チュートリアルって大事よね 3
「それは当然だろ、ボス部屋迂回して次の階層にはいけないからな」
何言ってんだ? という顔で那智さんに言われて、それもそうかと納得する。
そもそもボス部屋に出る魔物って、次の階層では普通に出てくる魔物だってさっき見た研修の動画で説明していたから、余裕でボスが狩れないと次の階層で探索なんて出来ない。
「それにしても、最初からドロップするなんてラッキーだな」
「那智さんは魔石だけだったね」
私もしかして運がいいとか? 毎回ドロップするのは、なんの日ダンジョンだけだったよね?
「ここのダンジョンはドロップ率があんまりよくないんだよ。その上十層目までは魔物が本当に弱いから稼げない」
「でもチュートリアルなら、それで良いと思うんだけど」
「それは初心者の探索者が多ければの話だろ。覚醒者って今本当少ないからな、初心者が楽々探索できそうなダンジョンはここに限らず閑古鳥が鳴いているんだよ」
初心者が入れるダンジョンって日本にはそんなに数が無かったと思う、ネットでダンジョンランクの一覧見たけど、十個も無かったと思う。
「このダンジョンってランク十になるのよね」
「そう、ランク一っていうのがダンジョンも探索者も最高になる。一から三が上級、四から七が中級、八から十が下級だな。探索者ランクとダンジョンのランクは同じか、ダンジョンランクが一つ上くらいが適性と言われている」
つまり、私だと十か九のランクのダンジョンが適性になるんだよね。
「私は下級も下級のペーペーと」
「探索者ランクは依頼達成貢献度や狩った魔物の討伐記録で上がっていくから、山崎さんはすぐに中級に上がっていきそうだけどな」
「私暫く一層目だけで活動しようかなって思ってるんだけど、上がるかしら」
今日ここでどれだけ動けるかによるけれど、無理しても続かないだろうから、一層目だけでしばらくは活動したいんだよね。
だって一層目だけの活動でも今のところはダンジョンブレイクの心配ないらしいし、今はお盆休みだからいいけど、会社始まったら朝早くか会社から帰ってからしかダンジョンの中に入れないわけだしさ。
他の層まで進んで攻略進めるとか、現実的じゃないんだもの。
「今レベル二十五の人が何を言ってんだか、それだけ魔物を狩ったってことだろ。魔物の討伐記録だけで上がっていくさ」
「でも、今のところ魔物を討伐したって実感は魔鼠一匹だけだし」
のんびりと話しながら、那智さんの誘導で一層目のボス部屋を目指す。
ここ弱い魔物しか出ない上に出てくる魔物の数も少ないのか、今のところ次の魔物の気配はない。
「いや、凶悪ジャガイモと最恐魔小麦ってランク低い探索者が討伐できるもんじゃないからな」
「楽々刈れましたが?」
「そこがおかしいんだよなあ、絶対に一層目にでるものじゃないし、麦の写真は最恐魔小麦じゃないし」
那智さんはブツブツ言っているけれど、刈ったしボスも討伐したのは事実だ。
まあ、私には身体能力向上っていうスキルがあるし、これレベルと同じ倍率だから今二十五倍だし。上限五十だけど、これ初心者にはありがたいスキルだよね。
これのお陰なのか疲れ知らずだし、腕力もあるし。
「ん? 何か聞こえる」
「ああ、魔物が近づいてる。って聞こえる?」
「うん、あ、魔兎ってあれだね。うわああ、なんであんなにダッシュしてるわけっ」
那智さんのレベルを知らないけど槍で一突きで倒せてたんだから、大きいけどさっきの魔鼠程度の強さしかないんだと思うけれど、大きな兎が突進してくるのって結構怖いんだけど。
なんであんなに殺意マシマシなのっ。
「騒がない、すぐに武器を構える」
「はいっ」
草刈り機を発動し、しっかりと構えながらこっちからも突進してみる。
待つより進む方が怖くないよ、当たって砕けろの精神だわ、いや実際に砕けたら困るけど。
「え、山崎さんなんで走って」
「技、突進っ!」
そんなスキルないけど、どんどん刈る、もとい狩らないと帰る時間がどんどん遅くなっちゃうのよ。
ういぃんと唸るモーターの音が、私のやる気を加速する。
草刈り機を構えながら魔兎目指してダッシュして、そのままうっかり停止できずに首をぽーんと飛ばしてしまう。
「あれ?」
多分刃先が魔兎に当たっただけだよね? なんで首が飛んでったのか分からないんだけど。
「山崎さん、あんたって人は」
「那智さん、魔兎の首が飛んで行っちゃった」
飛んで行った首を見てたら、胴体がいつの間にか消えていて何がドロップしたのか分からない。
あ、そうかアイテムボックスに拾ってもらえばいいんだ、アイテムボックスちゃんドロップ品分かったら収納して欲しいんだけど、お願い……できたね。なんて使える子なんだアイテムボックス。
「ええと、ドロップは魔石とウサギの足? 足っ」
「それレアドロップだな。二千円ぐらいになるかな。魔石はこの大きさなら百円だな」
アイテムボックスから魔石とウサギの足を出した私に、追いついてきた那智さんがため息を吐きつつ金額を教えてくれる。
「レア、レアなんだ」
鑑定してみると、ウサギの足は、幸運のお守りの幸運値アップの媒体になると出た。ただし魔兎は魔物ランクが低いから幸運値も気休め程度らしい。
「買い取りは常時しているから」
「そうなんだ、それは良かった」
「でも走るってなんだよ。それに突進って」
「いや、なんかつい勢いで」
勢いだよねえって、自分を鑑定したら一般スキルに突進が増えてた。
突進、魔物に駆け寄った勢いで攻撃力が上がる(ランダムで一から百倍の攻撃力増)だって。
「なんかスキル増えたみたい」
「はあ、いいやもう。山崎さんについてはそういうもんだと思うことにする」
「え、酷くない?」
那智さん、私の扱い雑過ぎない?
恨めしく見上げても、彼が下を向いてくれないと私には那智さんの表情は分からないのよね。
身長差が憎い。
「酷いのは俺じゃなくあんただから、なんだよスキルってそんな簡単に増えないからな」
「だって増えたし、あ、レベルが上がってる。そのタイミングで増えたんじゃないのかな」
レベル二十六になってるよ、多分二十六に上がりそうなとこだったんだね、で魔鼠狩って二十六になってスキルも増えたと。
「そんな簡単に、まあいいや。あそこ一層目のボス部屋の入口だ」
「簡単に着いたねえ」
「簡単に着くように、最短ルート通ってきたからな」
「さすが那智さん、できる人だねえ」
ぱちぱちと手を叩くと、物凄く嫌そうな顔で見下ろされたけれど私は真剣に褒めている。
私方向音痴じゃないけれど、うちのダンジョンさんと違って一層目のボスの部屋の入口分かり難いんだもの。これ私一人だったら多分素通りしてると思う。
「ここのダンジョンって、ダンジョンの入り口もそうだけど、ボス部屋もとても入口だと思えないね」
ダンジョンの入り口は石碑だったし、ボス部屋の入口は魔鼠の像だ。
「この像に触る感じ? 中に入るとボスが突進してくるの?」
「なんでボスが突進してくるんだよ。入ると中央の一段高いところにボスの魔鼠が出てくるだけだ」
え、そうなの? 思わず那智さんと魔鼠の像を交互に見て、ボス部屋ってそういうもの? と首を傾げてしまう。
「どうしたんだ」
「うちのダンジョンさんのボス、一層目しか討伐してないけど、ジャガイモも麦も中に入るなり向こうから突進してきたから」
もうね、構える間もなくですよ。
結構あれ大変なんだけどね、それに植物なのに走ってくるって何なのよと思うのよね。
「聞いたことないぞ、なんでそんなに殺意マシマシなんだよ」
「私初ダンジョンなので、私に聞かれても」
言いながら魔鼠の像に触ろうとして、高すぎて触れなかった。
長方形の台座の上に像があるんだけど、私の身長だと手をどれだけ伸ばしても台座の一番上に届かないんだけど、これじゃ私入れないじゃない。
「や、山崎さん台座のところ触ればいいんだぞ」
「そうなの?」
「ああ、それからここはパーティ組む練習もするから、はい俺の探索者証に重ねて」
「ええと、パーティー組みます」
「はい、パーティー組むのを受け入れます」
便利な仕組み、これだけでパーティーが組めるらしい。
さっきまでは単独扱いで、魔物討伐記録も魔物を討伐した時のレベルアップの、ゲームで言うなら経験値的なものも私の独占だったけれど、パーティーになるとそれぞれに分配されるらしい。
「ここのボス部屋は三匹でてくる。メイン一体、サブ二体だ。俺がサブをやるから、メインは山崎さんがやってくれ」
「はい」
「入る人間がそれぞれ像か台座に触れると中に入れる。ボスを討伐した場合次回から望めばこの前に出るが、そうじゃない時はダンジョンの入り口入ったところからだ」
「はい」
「じゃ、行こうか」
那智さんはしっかりと魔鼠の足の辺りに触れて吸い込まれるように中に入っていく、私はジャンプしても像に届かなかったから、仕方なく台座に触って中に入る。
「あ、違う」
ここも神殿の中っぽい造りで、中央に一段高い部分があった。
ボスの魔鼠はゆっくりと形になっていく。
「あれってちゃんと全部出てくる前に攻撃仕掛けちゃ駄目なの?」
「今の状態だと、攻撃入らないと言われているな」
「やってみてもいい?」
草刈り機を動かし始め、那智さんの返事を聞く前に突進する。
「え、おい山崎さん」
「突進!」
だってこれができたら簡単にボスが狩れるわけじゃない? 狩るっていう気持ちが大事よ!
「お、狩れた? あ、一体だけか」
丁度到達したのが出現完了した時なのか、どうなのか分からないけどボスは狩れたみたいだけど、サブ二体は残っている。
これは狩らなくちゃっ。
「やーまーざーきーさーんっ!」
ぶんっと草刈り機を横に大きくスライドさせて、サブ二体を狩ってから草刈り機のスイッチを切ると同時に頭をぽかりと叩かれた。
「え、なんで叩くの」
「なんでじゃないだろ、なんで勝手に動くんだよ。あんたがボスで俺がサブって言ってただろう、いきなり走ってボスは狩るわ、そのまま周囲も見ずにサブまで狩るわ。俺が近くにいたらどうなってたか分からないだろうが!」
「え、どうなるって」
「あんたが持ってる草刈り機、殺傷能力高い武器なんだって自覚して動けってことだよ」
那智さんが本気で怒っている様子に、私は「考えなしでした」と頭を下げたのだった。




