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#第二章 #変化

「あいつと話すのが、こんなに難しいことになる。でも、それを間違ってるとも思えなくなって」


 だんだんと距離のある関係が普通になっていく。

 これまでの当たり前が、徐々に塗り替えられていくことを、すこし虚しく感じながら、春樹はため息をついた。


「もう仕方ないのかもしれない。家が近いだけで、今まで続いたことが偶然だったのかも」


 いくら過去を思い出しても、AIに相談しても、現実が変わることがない。春樹は自分で行動しなければ、何も変えられないことくらいは分かっていた。


「誰に聞いても、胸の内にも答えはない。俺と蒼依の問題は、他の人の話とも違う。自分たちにしか、自分たちの正解がないのは分かってる。分かってるんだけど」


 悩み相談やSNSのまとめ、喧嘩の仲直りの方法を、春樹は飽きるほど検索したが、同じような方向性のものしかなかった。


「言葉一つで、大事なものは簡単に壊れてしまう。綺麗事ってことも、本当のことってのも、両方とも正解みたいに思えてくる」


 誠意を伝えるための表現や、相手のことを尊重するとか、どうして謝りたいのかをはっきりさせるべきとか。もしそんな簡単にいくなら、こんなに苦労はしていないはず。


「あいつのことをどうでもいいとか思えないから、こんな風に馬鹿みたいに繰り返してるんだろ。そんなことくらい、俺だって分かってんだよ」


 好きとか嫌いとか、今はそんな綺麗な感情ではない。どうして自分の側にいてくれないんだとか、分かってくれないんだとか。なんで、過去も現実も未来も、どれも思い通りにはなってくれないんだよと、春樹はぶつけるところのない想いを、胸の内に強引に閉じ込める。


「好きになったら負けなんて、そんな単純にはいかないだろ。何かを失うような気がしてたからこそ、俺だって何も気にしない素振りで、あいつと接してきてたんだ」


 当たり前の関係を失ったことが惜しいから、こんな風に想ってしまうのかもしれない。今までは簡単にやってこれたからこそ、難しいことに直面して、混乱してるだけかもしれない。


「恋人未満って、幼なじみより不自由な関係になるくらいなら、今まで通りで良かっただろ。居心地が良くて、お互いを大事にできる関係を失うくらいなら、あいつとそのままで居たかった」


 春樹は想像以上に、未練がましくて言い訳がましいところを、弱さというよりも、なんか嫌だなと思いながら、変化することの痛みを感じていた。


『そんなのずっと分かってるよ。いつも何も変わらない——もう、このまま黙って過ぎてく時間にだって負けたくない』


 ふと蒼依の言葉を思い出す。あの時はちょっと馬鹿みたいだなと思っていた。二人の関係が、幼なじみのままじゃいけないとか、そんなことを思わなくても別に良かった。


「だから何も変わらないんだって、俺だって分かってたけど」


 今のあいつも頑として、色々な感情を抑えこみながら、どうにかしたいと思ってるんだろうか。自分自身の願望が、そんなことを思わせているのだろうか。


「届く時には当たり前すぎて分からない。今の方がよく分かってる気がしてるけど、じゃあ今分かったとして、後悔と一体、何が違うんだよ」


 まるで現在と過去の悩みが混ざり合っていくように、心だけが行き違っていくんだなと思いながら、春樹は河川敷の冷たい階段から、ようやく重い腰を上げたのだった。

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