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#第二章 #一人

 水曜日の五限目。タータン舗装の中央グラウンドから、自転車置き場の近くにある、バスケットコートを、春樹はぼうっと眺めていた。


「走り終わって暇だな。何してようか」

 別クラスの男子生徒たちが、トラックを何組かに分かれてから、周回していく。走り終わった生徒たちは、小さなグループに分かれて話し込んでいたり、体育座りのまま眠っていたりと、色々と自由だった。


「バスケの方が良かったんだけど」

 走ってから時間が経ってきて、身体が冷え始める中、春樹の視線の先では、女子たちが二つのコートを使いながら、バスケットのゲームに取り組んでいた。


「楽しそうだな、女子たちの方は」

 ボールが移動するたびに、コートの中の女子たちが、それを一生懸命に追いかけていく。本気の試合ではないので、成績のためのポーズもあるが、運動部の女子たちは、見せ場だと言わんばかりに、激しくゲームを動かしていた。


「……もう別にいいんだけどさ。幼なじみだって、いつまでも一緒にいられる訳じゃないし」


 バスケットコートのゴール側で、フェンスに寄りかかっている蒼依に向かって、春樹はまるで自分を納得させるかのように、そんなことを口にしてみる。


「俺がいなくたって、蒼依には蒼依の日常があるんだろ。試練が無くなったら、こんなに遠くなるだなんて、流石に薄情っていうか……」


 何を言ったところで、亜麻色の髪を後ろに結びながら、ジャージの上着を腰に巻いている蒼依は、友達と楽しそうに話しながら、バスケの試合を見ているだけだった。


 夕暮れの河川敷。春樹は面白くないなと思いながら、川を渡っていく電車を見送る。上下線の影が水面に映っては過ぎていくのを、片手にスマホを握りながら、立ち尽くすように何度も見ていた。


「藤崎と遊びにでも行けば良かったかな。でも、そういう気分ではないし、あいつも軽音部の活動で忙しいから」


 近くの中学校の生徒たちが、不思議そうに見ていたり、買い物袋を自転車のカゴに入れたおばさんが、慌てた様子で避けるようにハンドルを切って方向転換するのを見ながら、そろそろ帰らなきゃと、春樹も思っていた。


「蒼依は別に部活とか入ってないし、塾も週二でしか行ってないから、俺とは合わせやすかったっていうか」


 流石に未練がましすぎだろ、と自嘲しながら、春樹は『恋むすび』のアプリを起動する。通知がうるさかったので、溜まったメッセージを消そうとしたら、間違えて画面をタップしてしまったのだ。


「二人のことが知りたい。最後の試練から、二週間が経って、もしかして上手くいってるかな? って、どんだけ空気読まないんだよ。蒼依もログインしてないなら、もう削除しようかな」


『恋むすび』を見ると、蒼依との距離を感じるので、今はあまり触れたくなかった。春樹も設定のアイコンをタップして、アプリを削除しようとはしたのだが、何だか本当に自分たちの過去が消えてしまうような気がして、やはり思いとどまってしまう。


「不利な状況から、恋を成就させるモードとかないのかよ。恋愛成就率98.7%なんだろ?」


『恋むすび』の機能を確認しながら、何か出来ることがあるかもしれないと、縋るように画面をフリックしていく。ほとんどがペア向けで、シングル向けのモード自体が見当たらない。そんな中で、春樹は一つ気になる機能を見つけた。


「こいむすびAI相談?」

 様々な悩みや、恋愛のトラブルを最適化されたAIに相談できるらしい。分析モードの利用に同意すると、ログや相談内容から、利用しているモードの方針や傾向を、ユーザーに合わせてくれるそうだ。


 正しい答えを教えてくれる訳ではないし、現実を変えられる訳でもないのだが、何か出来ることがありそうなだけでも、それだけで春樹にとっては十分だった。

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