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#第二章 #不在

「お前、何頼んだの?」


「……チーズハンバーグだけど。なんでそんなこと聞くんだよ」


「ただ気になっただけ。春樹こそ、そんな些細なことにイラつくなって」


「別にイラついてないって。どうにもなんないことに、嫌気がさしてるだけだよ」


「それはまだ分からんだろ。お前がどうしたいか次第だと思うけど」


「どうしたいも何もただの喧嘩なんだから、時間が経てば済む話だろ。俺たちは昔からこうしてきたんだ」


 蒼依がうるさいのも、そんな距離感が春樹にとって心地よかったのも、当たり前の日常だったはず。


「『恋むすび』なんてやらなきゃ良かったんだよ。変なことするから、こんな気まずい状況に……」

「遅かれ早かれ、結局こうなってたんじゃねえの? 合うか合わないかもそうだし、関係は無理に続けるもんじゃないだろ」


 テーブルの隣で待機している配膳ロボ。ミックスグリルとチーズハンバーグのプレートを確認しながら、丁寧に取り出していく藤崎の様子に、変に鋭いところがあるんだよな、と春樹は思っていた。


「だから繋げてくれるのが『恋むすび』だと思ったんだけどな」

「流行ってるよな、それ。本当に使えるのか?」

「俺に聞くな。今の状況じゃ、効果はなかったとしか言えないだろ」


 藤崎の気の利かない言葉に、春樹はさっきの言葉は撤回しないとだな、と思っていた。


「付き合うまでの駆け引きが面白いのに。あいつ何考えてんのかなとかを、俺のこと考えてるみたいにさ、そういう風に俺色に染めてくのが良いじゃん」


 ミックスプレートのウィンナーを切り分けながら、藤崎が熱く語る。


「春樹だってそうだろ。桜庭を自分のものにしたいっていうか、俺だけを見てほしいって思うから、そんな風に荒んでるわけでさ」


「俺はお前みたいに単純じゃない。そもそも蒼依は誰とも付き合ったことはないし、多分、俺のことを嫌ってはないと思うし……」


 嫌われていたら仕方ないと諦められるのか。それは嫌だ。もし本気で嫌われていたら、これまでの時間や経験を、すべて失ってしまうような気がしてきて、春樹は焦燥感のようなものに襲われていた。


「桜庭って結構モテるみたいだぞ。なんかちっこい感じで、警戒心強いけど、慣れた相手にはちょっと緩むところが可愛いって評判だ」


「知ってる。高校入ってからも何度か告白されてるし、あいつは確かに可愛い方だとは思う」


「これまでは春樹という絶対的な男がいたが、桜庭も遂にフリーか。これはワンチャン狙いにいくやついるだろうなー」


 女性店員をわざとらしく目で追っている藤崎の様子にムカつきながら、春樹は蒼依が誰かと付き合っている姿を想像する。


 まさかそんなのあり得ないだろ、と思ったが、もし本当にそうなったら、蒼依の自由だと割り切れるのだろうか。


「どんな奴を選ぶんだろう。まさか藤崎だったりしてな」

「やめろ。憎しみに満ちた目を俺に向けんな」

「憎しみなんかねえよ。そんなの蒼依の自由だから」


 春樹はすこし冷めはじめてきたハンバーグを頬張りながら、何だか面白くないなと思っていた。


「ところで話変わるんだけどさ。来月ライブやるんだけど、来ないか」

「どこで?」

「市役所広場でやる、クリスマスのイベントステージ。近くでバザーとか出店とか出るから、遊びに来るついでに観にこいよ」


 春樹は適当に返事をしてから、窓の外をぼうっと眺める。食器の当たる音や、何かの機械音。天井のスピーカーからは、いつかどこかで聞いたことがあるかのような洋楽。不規則なタイミングで、配膳ロボが料理を運ぶことと、運んできたことを、あちらこちらで告げていた。


「蒼依ともよく来てたんだよな」

 当たり前だったからこそ、そのことを遠く感じてしまうのか。不思議と周りが賑やかでも、春樹にはむしろ大事な何かだけが欠けているように思えてくる。


「……行儀悪いぞ、藤崎」

 何だか他人だけが楽しそうに過ごしてるようにさえ思えていたが、目の前でコーンをこぼしながら、何度も掬いなおしている藤崎の様子を見ていると、ちょっとだけバカバカしく思えるのだった。

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