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#第二章 #二人の距離 #停滞

「桜庭と別れたのか?」

「元々付き合ってないっての。何か聞かれても、面白い話なんて一つもないからな」


 放課後にやってきた駅前のファミレス。藤崎がタブレットに注文を打ちこんでから、配膳ロボが運んでくるのを待っている。


「そんなもんだよな。運命なんてねえし、長い付き合いでも、合わなきゃ一発で終わり」

「俺も中二の時の初カノとは結婚まで誓ったけど、今となっちゃ痛い思い出っつーかさ」


 藤崎がスマホをいじりながら、春樹に苦々しく笑いかける。遠回しだが、多分励ましているような気がした。


「知るかよ」

 別に終わった訳ではない。なんとなく同情されるのが、癪だったので、春樹は藤崎をあしらうように、雑な返事を返していた。


「お前ら、あんなに仲良かったのにな。好奇心とかじゃないんだが、事情を教えてくれよ」

「その前置きのせいで、話す気が無くなった。本当に知りたければ蒼依にでも聞いてみろよ」


 俺が悪者のストーリーが知れるぞ、と言いかけた言葉を春樹はぐっと飲みこんだ。


「桜庭に聞ける訳ないだろ。気まずいっての」

「お前もなんか飲むか?」

「スプライトな。変なもん混ぜるなよ」

「振りと受け取ってもいいかな」

「絶交したければ、ご自由に」


 何言ってんだよ、と呟いてから、藤崎が立ち上がった。彼なりの親切心というか、同情心のような気もしたが、無神経さに腹が立ったので、春樹は藤崎に飲み物を持ってこさせることにしたのだ。


「……結婚って。なんでだか知らないけど、自分の先のことに口出されるとムカつくっていうか。特に蒼依に意見されるのは、違うと思うんだよ」


「確かに仲良かった時は、未来とか将来とかをなんとなく思いつつ、今のことにも必死になれてたけど」


 春樹は喧嘩のことをぼんやりと思いつつ、楽しそうなファミレスの客たちを眺めながら、蒼依ともこんな時があったなと、思い返していた。どうしてあの時はそんなことができたのかと思えば、多分、余裕があったからだろうなと。


「進路もまだ決めてないし、成績もそんなに良くないのは分かってるんだけど。なんで蒼依にいちいち言われると、こんなにムカつくんだよ」

「デッかい独り言だな。春樹って、カッコつけてないくせに、意外とプライド高いよな」


 分かったような顔で、藤崎が話しかけてくる。


「本当は桜庭に良いところ、見せたかったんだろ?」

「……まあ、そういうのもある。でもそんなの一部でしかねぇよ」


 春樹はスプライトを一気に飲み干すと、もう一度持ってこいと藤崎に告げた。


「パシリかよ、まったく。ほんとお前らって、似た者同士だよなー。あまりにも一緒に居すぎて、妙なプライドが移ったんだろ」

「知るかよ。長くいたからって、相手のことなんか分かるわけないじゃん」


 さっさと行けよと、ドリンクバーを指差す。

 藤崎はやれやれと、わざとらしく口を尖らせると、春樹の前からようやく消え去った。


「はぁ、何にも上手くいく気がしない。藤崎も気晴らしにはならないし、前に蒼依と来たことを思い出しちゃうし」

「別に俺の生活の中心は蒼依じゃなかったけど、やっぱりこうなっちゃうと、簡単には納得できないっていうか」


 なんだかんだで仲の良い幼なじみではあったと思う。それでも自分たちの関係を、幼なじみにしか、当てはめることができなかった。

 きっと何かを変えるのが怖かった。今考えてみれば、蒼依がアプリの提案をした時も、本当はこんな気持ちだったのかもしれない。


「どうすりゃ良かったんだよ、本当に……」

 春樹は今更どうにもならないことを、ぼんやりと思いながら、もはや何も見たくないと、ファミレスの机に突っ伏していた。


「冷たっ! 何すんだよ、藤崎!」

「起きたことだけに目を向けても仕方ないんじゃね。俺は何にも知らないけどな」

「じゃあ何に目を向けるんだよ。つーかさ、別に後悔とか罪悪感じゃないし。蒼依だってここまで露骨にやらなくてもいいだろ」


 怒ってるなら、怒ってると伝えてくれればいいのに。過去のことが変えられないのはお互い様だろと、スマホを見ながら適当に笑っている藤崎を睨みながら、春樹はそんなことを思っていた。

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