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#第二章 #二人の距離

 『恋むすび』によるデートから、だいたい二週間が経った。春樹と蒼依の関係は『恋人未満』になったが、相変わらず試練は『友達』の頃のまま。

 関係の進展への決定打もないまま、二人は些細なことから、大喧嘩へと発展していた。


「もう二度と、春樹なんかと口聞かないからっ!」

「こっちだって、蒼依の顔なんか見たくない」

「……っ!」


 蒼依が悔しそうに唇を噛み締めながら、教室の外へと出ていった。春樹はその背中を横目で流しながら、これまでの出来事を思い返す。


「蒼依のことだから、そのうち機嫌を直すだろ。正直、俺そんなに悪いこと言ってないから、あいつもすぐに分かると思うけど」


 春樹はこの時、物事を軽く考えていた。

 いつもの喧嘩の延長線で、蒼依はどうせ俺のことが好きだから、すぐにでも謝ってくる。


 もしそうじゃなければ、俺から軽く謝ればいい。そんな風に、春樹は簡単に考えていたのだった。


「蒼依? そういえば教室にいないかも。春樹くん探してたって伝えとこうか」

「いや、いいよ。最近、全然あいつ話してないから、どうしてるかなと思ってさ」

「あー、喧嘩したって聞いた。蒼依は元気そうだったけど、もうそんなに気にしてないんじゃない?」

「そっか。なら良かった」

「蒼依も負けず嫌いだから、拗ねると大変だよね。頑張ってよ、事実上の彼氏!」


 そんな訳ないだろ、と思いながら、春樹はクラスメイトの嶋田に励まされる。


 あの喧嘩以来、蒼依は春樹を露骨に避けていて、軽い接点すら作らせなかった。『恋むすび』の試練にも応じないので、『恋人未満』でありながら、『恋ごころ』の変動やバイタルデータの変化がほとんどないことを検出したのか、怒涛のように今も通知が来ている。


「うるさいな。こっちはそれどころじゃないんだよ」

 春樹がスマホを確認すると、いつもの巫女さんが心配そうにこちらを見つめていた。久しぶりの他人からの優しさに、ちょっとブルーになってしまう。


 『恋むすび』のUI上で、相手のプロフィールが確認できる。最後のデートで撮った写真が、お互いのプロフィールに設定されていて、それを見ると、また何とも言えない気分になるのだった。


「あいつ、二日前にログインしてるじゃん……」

 自分と同じ気持ちかは分からない。それでも同じような痕跡があると、何となく親近感が湧いてしまう。今はそんなものを持ったところで、過去に戻れる訳でもないのだが、春樹はちょっとだけ楽観的になっていた。


「これもやめるわけにもいかないし。中断するにも、あいつが放置してたらどうにもならないし」

「なんか面倒っていうか。どうせ解決しないのに、こんなことに悩むだけ無駄だろ」


 春樹はスマホの画面を消すと、気分転換のために学食へと向かった。


 十二月も間近のある日。通学路にある街路樹の葉もすっかり落ちて、寒さをはっきりと知らせる冬の風が吹くようになった朝に、春樹は家の前で、久しぶりに蒼依と出会った。


「おはよう、蒼依」

「……」


 家の門を素早く閉めると、春樹には目も合わせずに蒼依が早歩きで去っていく。


「無視かよ。何がそんなに気に食わないんだよ」


 スクールバッグをぎゅっと自分の肩に引き寄せながら、遠ざかっていくネイビーのコートを見つめながら、春樹は蒼依が他の生徒と同じになっていくようだなと思っていた。


「確かに蒼依が先に謝ってたけどさ、原因作ったのはあいつだろ。それなのに、こんな理不尽な仕打ちってどういうことだよ」


 春樹は怒っていた。しかし、怒りだけでは簡単に片付けられない。


 これまでは、自分の隣にいつもいるはずで、喧嘩してもこんなに距離を感じることはなかったが、今は不思議と他人よりも遠く感じていたのだった。

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