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#第十二話C #幼なじみ #恋人未満

『お疲れさま! プリント完了まで、あと240秒……』

 落書きを終えて、二人は写真の出来上がりを待つ。


「春樹、スマホ用意しといてね。写真は一枚ずつしか出てこないけど、データで全部貰えるから」

「その写真って、シールになってるのか?」

「なってないよ。これは台紙のタイプだけど」

 蒼依がどうしたの、といった様子で、不思議そうに春樹を見る。


「うちの母さんが昔、よく撮ってたらしい。なんかシールになってて、携帯のカバーの裏にまで貼ってたとか」

「……それ、聞いたことある。カップルがやってたんだって」

「まさか試練で出ないよな?」

「し、知らないわよ。だいたいスマホじゃ貼れないでしょ」

「女子たちって、透明ケースにステッカーとか入れてるじゃん。蒼依もかめとうさぎ。のステッカー入れてるし」

 春樹は、蒼依の片手に握られたスマホを見る。


「は、春樹とのプリクラをここに入れるの?」

「いや、入れろってことじゃなくて。試練で出たりすんのかなと」

「……さ、先のことなんて分からないわよ。知らないけど」


 しばらくしてから、プリクラが出来上がった。蒼依が屈みながら、それをさっと手に取る。


「ねぇ、春樹。さっきより可愛くなったと思わない?」

「これとか、特別って感じがする……」

 蒼依が小さくつぶやきながら、もう一枚を春樹に渡す。

「可愛いかどうかは分からないけど、なんか蒼依っぽいなって」

「どういうこと?」

「落書きとか、文字の書き方とか。そんな一つ一つに、蒼依の手触りが残ってるっていうか」

「これを見れば、今をいつでも思い出せるような気がするんだ」

「……すごーく恥ずかしいこと言ってるんだけど、気づいてる?」

 その言葉に春樹がはにかむように笑うと、蒼依もうつむきながら、小さくうなずいた。

 すっかり夕方になって、日中の騒がしさもだいぶ落ち着いた。秋の低い太陽が、お互いの顔をはっきりと映しながら、並んだ影を細長く伸ばしていく。

 帰りのバスが来るまでの短い時間。二人はショッピングモールを出て、近くの小さな公園の中を歩いていた。


「今日の勝負、終わっちゃったね」

 蒼依の声には、いつもの刺々しさがなかった。

「これがデートで良かったのか。普段通り蒼依とすごしてたような気がするんだけど」

「……こんなこと、中学以降はしてなかったでしょ」

「お互いに部活とかで忙しかったしな。高校入ってからは、わざわざ出かけたりもしてなかったし」

「そういうことじゃなくって。春樹は本気で、昔と同じだって思ってるの?」

 立ち止まった蒼依に、春樹も合わせる。

「さすがに同じではない、って分かってるけど、はっきりと何が違っているかは分かってない」

「だから、これは勝負なの。春樹に負けないための、ただの勝負……」


 きっと夕陽のせいなんかじゃない。すこし顔の赤い蒼依が、自分に言い聞かせるかのようにこぼした姿に、春樹は思わず視線を奪われてしまう。


「この勝負が終わったら、俺たちはどうなるんだ。ただの幼なじみの二人は、一体何を目指せば、幸せになれるんだろうか」

「分からないわよ。それが分からないから、春樹と私は、こんな勝負をしちゃってるんじゃない」

「アプリの導きに頼るのを、良いことだなんて、思えないんだが」

「でもそれが無かったら、今日みたいなすごし方なんて、きっと出来なかった……」


 蒼依が春樹をゆっくりと見上げる。その瞳に、いつものような勝ち気さはなかった。


「確かにそうかもしれないけど。今は流れに任せるしかないのか」

「多分ね。終わらせたくないってことは、きっと続けたいってことだと思うし——」


 一歩を踏み出した蒼依が、春樹に背を向けながらつぶやいた。


「続けたいよりも、続いてきたってことを信じてみたいなって、私は思ってるから」


 立ち止まることなく、蒼依が続けていく。


「だからまだまだ勝負よ、春樹」

「——幼なじみは、好きになった方が負けなんだから」

 バイタル変化を検知したのか、二人のスマホが震える。確認してみると、アプリの画面には『デート成功!』の通知が表示されていた。


『とっても絆が深まりました! 春樹の恋ごころ+50、蒼依の恋ごころ+50』


 巫女キャラがいつもの笑顔で「おめでとうございます! 二人の絆が特に深まりました!」と祝福している。


『素敵な想いで恋ごころが満たされました。奉納しますか?』


 タップしてね、の筆文字と共に、満たされた器が輝きながら画面の中央に浮かんでいる。


「えっ、どういうこと。まさか終わっちゃったの?」

「さすがにそれはないだろ。何も始まってないし」


 明らかに動揺している蒼依に対して、春樹は根拠はなかったが、何となく大丈夫だろうと思いながら続けていく。


「ほら、説明のポップアップが出てるぞ」


「『恋の試練モード』は、関係に最適化して、行動を学習していき、段階に応じた試練を課す仕組みになっています。お二人の関係は『友達』から、『恋人未満』に変化しました」


「これからは『恋人未満』であることを前提とした試練が発生していきます。無理のない範囲で続けてくださいね」


 春樹が読み上げると、蒼依が複雑そうな顔をしながら、スマホの画面を覗きこんだ。


「友達って設定されてたんだ。こんなの最初に表示されてなかったけど」

「もしかして、見落としたか? 画面がシンプルだから、よく分からないのも事実だが……」


 春樹は画面を見ながら、『恋むすび』って、かなり簡略化されたインターフェースを採用しているよな、と思っていた。


「だから器が空っぽだったのかな。仲が悪いとかじゃなくて、ここから始まりますよって意味で」

 蒼依が何かに納得するようにつぶやく。


『お二人の素晴らしい関係に合わせて、恋の試練モードが変化しちゃいます! 素敵なカップルを目指して、これからも頑張ってね!』


 二人で『恋ごころ』の器をタップすると、巫女のキャラクターが、『恋人未満』と書かれた木札を、泉のほとりに立てにいった。


「知らないうちに進んでたんだな。意味不明な試練が来てるだけかと思ってたけど」

「あ、当たり前でしょ。今までの私たちじゃ、こんなことあり得ないし……」

「恋人未満、か。あんまり変化の実感がないし、思ったより緊張してないっていうか」

「……」


 蒼依が黙りこむ。何かを言いかけては、自分の足元へと視線を落とすことを繰り返していた。


「一体、どうしたんだ?」

「と……時間だったよ」


 蒼依の声が小さくて聞き取れない。春樹は首を傾げながら聞き返す。


「ごめん。聞こえなかった」

「と、特別な時間だったでしょ、って言ってるの!」

「そんなに強く言わなくても」

「別に怒ってない!」


 再び歩き出した蒼依の頬と耳の赤は、夕日に染まったせいだけじゃないことくらいは、春樹にも分かっていた。

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