俺がアップをはじめたようです!
ふわふわゆらゆら揺れてる気がして、ちょっとだけ目を開けてみた。そしたら背中が見えて、あ、俺寝ちゃったんだって思った。遠くに出掛けるのはいっつも楽しくてわくわくで、前の日にあんまし眠れないから電車とか車でねちゃうんだ。
「かぁちゃ、俺おきた…、あるく…、」
すげぇ忙しいのに、絶対に一か月に一回は俺を遊びに連れてってくれる母ちゃん。前は鉄道博物館。その前は遊園地。その前は確か夏休みだったからって、やっちゃん先生に許可とって、コテージってとこに泊まって車に乗ってライオンを見たんだ。今回はどこだっけ?
「くすりは、リュックにいれてるから、ダイジョブだよ…、」
でっかいあくびが出て、寝起きで開かない目をこすった。あ、背中にちょっとヨダレついちゃった。やべぇ、母ちゃんにぷにぷに百裂拳される!一気に目が覚めて、顔を上げたら
「あれ?」
「おはよ、ユウキ。母ちゃんじゃなくてごめんなぁ?」
見たことのないおっちゃん達にのぞき込まれてた。…あ!
「んと、おはようございます!」
「おお?おはよう!」
そういえばおっちゃん達と『お知り合い』になったんだった!大事な朝の挨拶をジンも真似して一緒に頭を下げてきた。うん、俺の相棒かわいい!
「あ、タイカ兄ちゃんごめんなさい…背中ヨダレつけちゃった…。」
「お?ああ、いいよ。気にすんなって!」
速やかな謝罪は信頼関係こーちくのひっす技能だ!って母ちゃん言ってた。タイカ兄ちゃんの背中から降ろして貰ってもっかい頭を下げたら、わしわし撫でられた。は、ハゲちゃう!
「初めまして、ユウキくん。」
「あ!アスカ姉ちゃん!」
しゃがんで俺と見つめあう髪の長い姉ちゃんは、ヤヨイ姉ちゃんのお姉ちゃんだ。さっきまでケガで寝てたはずだけど、もう起きて大丈夫なのかな?
「アスカ姉ちゃん、ケガ大丈夫?寝てなくていいの?」
「…うん。ユウキくんのおかげですっかり元気なの。」
「おれ?」
なんで俺?
「俺はやっちゃん先生みたいにお医者さんじゃないから、ケガとか病気とかは治せないんだぞ?」
わかんなくて頭が揺れてたら、ヤヨイ姉ちゃんにほっぺたが捕まった。
「ユウキのおかげだよ。なんでかは私達もわからないけど…、でも」
「わ、わ、ヤヨイ姉ちゃん泣かないで!」
「ユウキがいなかったら、きっとアスカは…っ!本当にありがとう…っ!」
ぎゅって強く抱きしめられて、どうしていいかわかんなかったけど…、俺とヤヨイ姉ちゃんを見てるみんながすっごくうれしそうだったから…。まぁ、じゃあいっか!よくわかんないことは、わかるようになるまで寝かせとけ!って母ちゃん言ってたし!
「えへへへっ!どーいたしまして!!」
「ふふふ、ありがとうね。」
「うん!」
アスカ姉ちゃんは元気になったし、みんなが笑ってるからそれでいいのだ!
「ほらほらヤヨイ。そんなに泣くと目が溶けるわよ?」
「だって…、」
アスカ姉ちゃんにヤヨイ姉ちゃんが連れてかれるのを見守ってたら、わき腹をつんつんされた。こんなことをするのはただ一人!
「わひゃっ!なんだよジン~!」
振り返ったらやっぱりジンだった。ナイス名探偵俺!俺の脇腹もしゃもしゃしてくるジンの顔に抱き着いたら、そのまま襟を噛まれて背中にポイってされた。…まったく、荒いライドだぜ!
「そういえばここ、どこ?」
あたり一面森の中。あれ?俺とジンの家にしてはなんだか大きくない?
「ユウキは、寝る前のことは覚えているか?」
「え?う~んと…、」
ねるまえ?寝る前って…ええと…
「アスカ姉ちゃんに、おまじないした。」
「それは覚えているんだな。…ユウキ、お前はそのまま三日間眠り続けた。」
「え?!」
きょうがくの事実、発覚!手術のときでも半日だったのに、知らない間に最長記録を更新してたのか!
「心配したぞ。元々そういった体質、というわけでもなさそうだな?スキルか?」
「スキル?」
「…そこからか、」
スキルって、ゲームとかに出てくるやつだよね?特殊能力!でも俺、そんな特別な力なんて持ってないよ?
「恐らく浄化や治癒に関係する強力なスキルだと思うんだが、確信はない。もし気になるなら調べることもできるが…、」
なんだか難しい顔のゲンロク兄ちゃんに、ジンがなんかもしゃもしゃ甘噛みしてる。
「なんだよジン、いつの間に仲良しになったんだ?」
浮気か相棒。だめだぞ。俺寂しくなって泣いちゃうからな。冗談半分、半分はちょっと本気で言ったらジンが仕方ないな、みたいな顔で俺の顔を舐めた。…許す。
「ここはまだギアという土地だ。枯れ果てた地、神に見捨てられた地と呼ばれるほどだったんだが…、」
「あ、俺が最初気が付いた時も、何にもなかった!」
「気が付いたとき…?」
「うん。なんか気が付いたらあそこにいて、それで…」
難しい顔で見つめあってる兄ちゃんたちに、俺がここに来た時の話をした。たまに質問されて、わかることを答えていくうちに兄ちゃん達の眉間がアルプス山脈になってた。
「つまり、あの森と泉を作ったのはユウキなんだな?」
「ん~、たぶん…?」
「神鹿…ジンはもともと黄色い鹿だった、と。」
「そう。それで仲間になって、名前つけたら進化した!」
「…そう、か。だからか。」
あ、この顔知ってる。頭痛が痛いってやつだ。たまにちゅー先生がなってるやつ。先生は先生の父ちゃんと母ちゃんに早く結婚しろって言われてるとなるって言ってた。それ以外でもなるんだなぁ。
「ユウキがアスカを治して眠り、その日はユウキの様子を見つつ休息日とした。翌日ジンに今のように連れられ、食料の調達を済ませ移動を開始したんだ。」
いま、ジンはゲンロク兄ちゃんの服をたまに引っ張って歩いてる。で、兄ちゃんは先頭で索敵してるアスカ姉ちゃんに声をかけて知らせてる。アスカ姉ちゃんは忍者みたいに木から木に飛び移って索敵をしてて…かっけぇ!冒険者って感じ!
「移動を始める以前よりも明らかに森の規模が広がっている。一度上空から確認したが、どうやらユウキとジンを中心として広がっているようだ。」
「じょ、上空?!兄ちゃん達空飛べるの?!」
「いや、飛べるのはナラだけだ。」
「僕は魔法使いだからねぇ。」
「ま、ままままま魔法使いいいい?!」
すごい当たり前みたいにカミングアウトされて、びっくりして俺の顎取れたかと思った!海賊漫画だったら顎はずれてるぞ!
「この森…、いや、きっとこれもユウキだろうね。近くにいると魔力の回復がすごいんだぁ。」
「お、俺、マジックポーションだったんだ…?」
きょうがくの事実セカンド!あとで頼んだら俺も空飛べないかな?
「ユウキ、突然で申し訳ないが、ここで決めなければいけないことがある。」
ぐりん、って勢いよく俺に向いたゲンロク兄ちゃんがすごい真剣な目で俺を見た。
「…なぁに?」
俺、この目しってる。
「俺達とギアの地を離れ神の地ユフルトへ向かうか、」
真剣で、心配で、泣きそうなこの目を、俺は知ってる。
「人間に見つからぬよう、ジン…お前の使いと共に、この森で生きるか。」
硬い声で話す兄ちゃんに、みんないつの間にか立ち止まって俺を見てる。みんな兄ちゃんと同じ、心配そうで、真剣な顔。
「しかし、いずれお前は神の地に向かうことになる。…できることならその供が俺達であれば、と思うんだ。俺達とお前は出会ったばかりだが、お前がどうしようもなく優しい奴だということはわかる。…打算がないわけではない。人間は汚く狡賢い生き物だ。だが、」
「いいよ。」
「!」
知ってるんだ、俺。俺を心配してしょっちゅう会いに来てくれるちゅー先生も、お医者さんなのにズルいこととイタズラ教えてくれるやっちゃん先生も、看護師の兄ちゃん姉ちゃんたちも、みんな今の兄ちゃん達みたいな目で、俺を見るから。
「俺、兄ちゃん達と一緒に行く。なんだっけ?フルフル?」
「…ユフルト、だ。い、いいのか?確かに決断を焦らせたが、もう少し…、」
さっきまで緊張して死にそうだった兄ちゃんが、小さい子みたいにアワアワしてて面白い。にって笑ったら、安心した。って顔に出てる。ゲンロク兄ちゃんは顔に出るタイプと見た!
「いいよ!俺も、兄ちゃん達のことよく知らないけど、『優しい大人』ってわかるもん!」
「…!そう、か。…なら俺達は、その言葉を後悔させないために、全力を尽くすと誓う。」
いったとたん、兄ちゃん達が俺の目の前に跪いた。え?え?なんで?なんだかわからないけど王様になったみたいな、
「供に選んでくれてありがとう、ギアの神 ユウキよ。」
「……えっ?!か、神?!!」
俺の考えた俺のサイキョー伝説はじまっちゃう!!!




