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俺が笑うと草生える!  作者: おもちのかたまり
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突撃隣のぼうけんしゃ!

「これは、夢か?」


世界の最果て、神の地ユフルト。そこにたどり着くには、七つの海を越え、五つの山を登り、六つの地底へ潜らなくてはならない。それは伝説、創世記に紡がれた御伽噺。神の地へ至らんとする者達を、人は冒険者と呼ぶ。


「集団催眠の可能性に一票…。」


枯れ果てた地、ギア。草木一つなく、雨すらも降れば忽ち吸い込まれるほどの渇きを抱くこの土地に、俺達は光り輝く湖面と、青々と茂る草原を見つめていた。澄み渡る空気が風に運ばれ、ひんやりと心地良い冷たさが頬を撫でる。俺の言葉に、ナラが苦笑して返す。


「もう、どちらでもいい…。このままでは、アスカが死んでしまう。」


ヤヨイの呟きは涙に震え、しかしぐったりと力なく身体を預けるアスカを抱き締めている。そうだ、なぜ、などどうでもいい。安全を確認し、今すぐ皆を休ませなければ。…頼む、セーフポイントであってくれ。タイカと顔を見合わせ頷きあう。慎重に辺りを警戒し、湖へ近づく。


「…なぁ、子供の声、しないか。」


「…冗談だろ。」


ギアは子供が、いや、人が住める土地ではない。灼熱の太陽が常に輝き、雨も降らず、作物も育たないのだ。故に犯罪者の流刑地に使われる程。そんな地獄と呼ばれるこの場で、…確かに子供の笑い声が、響いていた。


「ゆけ~!そこだ!ゆうきのかぎ~り~!あははははっ!ジン、くすぐったい!」


木の幹に隠れ、湖の近くで声の主を盗み見る。短い枝を振り回し、楽しそうに歌う少年。少年の腹を擽る、真白の鹿。いや、あれは…、


「神使だ…。」


「えっ?!…っええ?!おっちゃん達だれ?!」


声を上げてしまったと気づいた時には遅く、バッと振り返った少年としっかり目が合ってしまった。二歩、三歩と驚愕し後ろに下がる少年。歳は10にも届かないだろうか。よれた変わった服…いや、ギアでは到底生きていけない装備をしている少年。困った、俺は子供に泣かれやすい。ちら、とタイカを見ると、心得ているとばかりに白い歯が光る。


「邪魔してごめんなぁ。おっちゃん達、冒険者なんだ。ここで休んでもいいかな?」


「ぼ、冒険者?!すげぇええっ!かっけぇぇええ!!」


混乱していたのが嘘のように、瞳をキラキラさせて絶叫する少年に、タイカも悪い気はしないのかニコニコと笑いかけて。…あれは、素で喜んでいるな。いや、嘘をついていないのは見てわかるが。…うむ。


「いいよ!ここ、俺のひみつ基地だから!おっちゃん達はとくべつな!!」


にしし、と歯を見せて笑う少年に、一瞬動きが止まる。この地で秘密基地など、と。しかしそれは後回しだ。少なくとも、この少年がここに留まることができる程、この場所が安全なのは、神鹿を見ればわかる。神鹿は時折じっと少年を見ては、青葉に座りこんだまま動かない。


「実は、他に仲間がいるんだ。そいつらも連れてきていいかな?」


「うん!…なぁなぁ、その、休んでる間、おしゃべりとか、しても、いい?」


ぴょんぴょん跳ね回っていたのが、嘘のように大人しくなったかと思うと、小声で内緒話の様に持ち掛けられた言葉に、タイカが笑う。


「もちろん!おっちゃんも聞きたいことがあるし、何でも聞いてくれ!」


「やったぁ~!!」


言い切るタイカに大喜びした少年は、あ!と声を上げると


「おもてなししなきゃ!」


と言って、駆け出してしまった。


「ゲンロク、俺があの子見てるから、アイツ等呼んできてくれ。」


「ああ、任せた。」


頷きあい、来た道を引き返す。ひとまず、皆生きている。しかし急いでアスカを治療しなければ…。この地で水が、木陰が確保できるなんて。駆け巡る思考を、頭を振って追い出す。万が一、少年がモンスターだった時に、備えて。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「へ~、ユウキっていうのか。」


「うん。おっちゃん達の名前って、おもしろいね!元号って奴だろ?俺知ってるぞ!」


「げんごう?」


「うん!わぁ、肉、久しぶりだ!俺、肉好き!」


助かった。本当に。笑いあうタイカと少年、ユウキは楽しそうにしながら肉を串にさしている。ユウキの言葉はたまにわからないが、概ね年頃の子供らしく、純粋で素直だった。


おもてなしだと、大量に木の実や果物を持ってきては置いていき、また取りに行く。山になった頃、満足げに頷いて、湖の水がそのまま飲めるのだと教えてくれた。食べ物に飲み水。灼熱の太陽を避ける木陰。


ユウキの笑い声が上がるたび、死と隣り合わせだったつい先ほどまでの空気が、緊張感が霧散され、精神が休まるのを感じていた。


「いっぱいできたなぁ。お疲れさん。」


「ひひひ、かぁちゃんが、『できることは進んでやれ』って言ってたからな!」


ナラに頭を撫でられて、嬉しそうに笑うユウキ。…話の合間に出てくる、母親の言葉。しかし近くに母親も父親もいない。聞けば10歳だというユウキは、年頃より一回り小さい気がする。捨て子か、逃げてきたのか。それにしては身体は傷一つなく、肌も白く華奢だ。まるで貴族の子供の様に。


「いいかぁちゃんだな!」


「うん!怒ると超怖いんだぜ。」


うひひ、と照れたように笑いながら、幸せそうに遠くを見るユウキ。ぎゅう、と胸を押さえて、何かを我慢するように耐えた後、二カッと笑った。いつの間にか寄ってきた神鹿の首に抱き着き、んへへ、と笑い声を漏らしている。


「なぁ、ヤヨイねぇちゃん、アスカねぇちゃん大丈夫?」


アスカにつきっきりで看病するヤヨイに、神鹿を撫でながらユウキが近寄る。疲労の色が強いヤヨイに、赤い果物…リンゴだろうか。を差し出して問うている声には、心配の色が乗っている。


「そうね…、傷口はそんなに大きくないけれど、毒の所為で熱が下がらないの。解毒薬は使い切ってしまって、作ろうにも材料が…。」


弓を武器にするヤヨイは、鏃に塗る毒薬を自分で調合している。その分万が一の解毒薬も自身で作り持っているのだが、今回はすでに使い切ってしまい、ギアの土地の都合上、現地で材料を集めることもできなかった。


大量の汗をかき、意識を失っているアスカは、ゼイゼイと荒い呼吸を繰り返している。こまめにヤヨイが拭き取ろうとも、あとからあとから溢れては髪を濡らして。二人を悲しそうに見つめた後、


「あんな、俺、何にもできないけど…、痛いのも、苦しいのも、わかるよ。アスカねぇちゃん、早く元気になってね。」


皆まってるよ。と、呟いて、そっとアスカのアスカの傷口に触れないギリギリを両手で覆い。


「いたいのいたいの、とんでいけ。」


小さなおまじないを口にする、小さな子供。傷口を覆った手のひらに、口付けて、微笑んで空へ放す。


「…えっ、」


ふわ、と、アスカの身体を包むように、白い花が咲く。沢山の、小さな花が。それらはアスカの身体から生え、つぼみが花開き、紫に色づいて枯れ果てて落ちていく。一瞬の出来事に、対応が遅れた。ば、とヤヨイがアスカの身体を調べる。なんだ、何をされた?!まさかユウキが、アスカを攻撃したのか?


「ユウキ!」


タイカの大声に、そちらを見やればタイカの腕の中で眠るユウキがいた。苦しそうに呻くでもなく、呼吸の乱れもなく眠る小さな少年。


「…なぁに、煩いわね…。」


「っ、アスカ!!」


ぱらぱらと、花弁を落としながら身体を起こしたのは、アスカで。けだるそうに、しかししっかりと意識はあるようで、辺りを見回して首を傾げている。よかった。よかった。と泣いて縋るヤヨイに、姉であるアスカは疑問に思いつつも宥めることにしたようで、ヤヨイの頭を撫でている。視線でどういうことだと訴えられるが、俺も、ここにいる誰もが、何が起こったのかまるで理解できていなかった。


恐らく、神鹿を除いて。

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