現実は
97
次の日の朝、ホームルーム前に廊下でひらりちゃんの前に三人並んだ。私は両側の二人の頭を下げさせる。
「ほら、二人とも、ごめんなさい。」
「何で僕まで……」
「俺は関係ないだろ?」
「ひらりちゃん、あの…………」
ひらりちゃんは私の両側の二人の様子を見て、無言でロッカーを閉める。そして私達を無視して教室に入って行った。
「莉奈おはよ~!何か手伝おうか~?」
「ひらりおはよ~!じゃあ、ひらり看板書くの手伝ってよ!めちゃくちゃブリブリした看板作ろ~!」
莉奈ちゃんを見つけたひらりちゃんは莉奈ちゃんの手伝いを始めた。
「完全に無視……」
「あはは。フラれちゃったね。」
「笑い事じゃないだろ。」
『みんな…みんな大嫌い!!』
昨日はそう言ってひらりちゃんは捨て台詞を吐いて帰って行った。
「ひらりちゃん……。」
晴喜はずっとひらりちゃんの後ろ姿を見ていた。まるで、親に置いて行かれたような子供の様に。
「台本捨てただけであんなに怒る?」
「え?今なんて?台本、晴喜が捨てたの!?」
「え?そうだよ?」
晴喜はいつも通り、全然悪気がなさそう。
「…………。」
「春壱、何落ち込んでるの?」
春壱は無言で黙り始めた。
「だって、ひらりちゃんがやりたそうにしてたから……。」
また始まった。晴の『だって』いつも言い訳ばっかり……。
「だからって川に捨てる事ないでしょ!?春壱はちゃんと話してくれないとわからないよ。」
そうだった……。この二人から離れたのは……このめんどくささが原因だったんだっけ。私が知らないだけで……きっとひらりちゃんも、大変だったのかも…………。
「だいたい川に台本捨てたりするか!?」
「春壱が台本なんかひらりちゃんに渡すからだよ。」
そのうち二人は喧嘩を始めた。
「ひらりがいなきゃ完成度があがらないからだよ!必要な人材だ!」
「そんな事言って、春壱はひらりちゃんの事独り占めしたいクセに~」
すぐ春壱を挑発する晴喜の悪いクセ。
「誰があんな奴独り占めしたいかよ!人材として必要じゃなかったら絶対関わりたくない!」
すぐ言いすぎる春壱の悪いクセ。
「二人共!!もういい加減にして!明日必ずひらりちゃんに謝って!!いい?わかった?」
私、どうかしてた……。あんな風にひらりちゃんが笑ってたから……嫉妬した。幼い頃の私達を見ているようで、キラキラして見えた。二人の間が私の居場所だと思って……妬んだ。
でも実際は、二人はこんな人達だった。その事をやっと思い出した。どうして忘れていたんだろう………現実は、二人の間は決して居心地よくはないのに。良くも悪くも、昔と変わらない。
私でさえこんなにムカつくのに……。あんなに怒るのも無理ないよね……。相田先生の妹だからって……。
「二人だけじゃないね……」
「何?」
「私も謝らなきゃ……。」
「羽多……相田先生とひらりは関係があるけど、それは俺達には関係ない。俺も最初はあいつを受け入れられなかった。でも、すぐには無理かもしれないけど、友達として、あいつ自身を見てやって欲しい。」
春壱も最初は受け入れられなかったんだ。
「春壱……。」
「そんな事言って、春壱は僕からひらりちゃんを離したいんじゃないの?」
「ああ、そうかもな。」
晴喜には春壱の言葉が意外だったみたいで、ショックを受けていた。
「やっぱり……。やっぱり春壱は……」
「お前と離れれば、ひらりは演劇部に戻って来る。」
春壱は持っていた、川に落ちた台本の一部を見て言った。
「そうすればまた、あいつの演技が見られる。」
春壱は、ひらりちゃんの演技が見たいんだ……。それは……私だって、私だって見たい。でも、気持ちの整理がつかないよ……。
ひらりちゃんと莉奈ちゃんは二人で看板の相談をしていた。
「コスプレ喫茶でブリブリしたら風俗みたいじゃない?莉奈は何のコスプレするの?」
「うーん。まだ決めてないけど、とりあえずプリンセスとか?」
「あーなるほど~」
「そういえばひらりは月のプリンセスの役やった事よね~」
莉奈ちゃんの言葉にひらりちゃんは少し暗くなる。
「うん……。」
「あ、ごめん。もう辞めたんだったよね……あーあ。勿体ないな~ひらりの演技、また見たかったな~」
「…………。」
どんどんひらりちゃんは気分が落ちていく。
「あ、ひらり、ごめん。泣かないで。泣かないでよ~」
「佐藤が相田を泣かした~」
隣で見ていた男子が言った。
「泣いてないし!」
ひらりちゃんは莉奈ちゃんに抱きついて言った。
「莉奈ありがとう。」
「何だよ嬉し泣きか~?」
「うっせ!うざいあっちいけ!うん、うん。大丈夫。大丈夫。」
莉奈ちゃんはひらりちゃんの背中をさすっていた。




