みんな大嫌い
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実行委員会に出た次の日の朝は、ホームルームで報告をする。
「今週中に使用希望教室と必要機材の書類提出します。係の人は現状わかるだけ書いて、私に提出してください。ここまでで質問等ありますか?ないようなので以上で実行委員会の報告を終わります。」
私が席に戻ってため息をついていると、莉奈が話しかけてきた。
「ひらり、元気ないけど、どうしたの?誰かと喧嘩でもした?」
「うん……。」
ホームルーム前に、教室前廊下で、私は羽多ちゃんを待ち伏せた。
「羽多ちゃんおはよう!」
「…………。」
えっと……無視……なのかな?羽多ちゃんはそのまま教室に入って行こうとする。
「待って、羽多ちゃん!」
私は羽多ちゃんの前に回り込んで、頭を下げる。
「ごめんなさい。演劇部に入って欲しいって言ったのに……私は辞めて……本当にごめんなさい……。」
「何で謝るの?演劇部に入ったのは私の意志だよ。正直……裏切られた気持ちはあるけど。」
やっぱり…………
「そうだよね……。ごめん。」
「ちょうど私からも話があるの。こっちに来て。」
羽多ちゃんについて行くと、渡り廊下の出前で羽多ちゃんは止まった。
「話って……?」
「ひらりちゃん、相田先生の妹なんだよね?」
「そうだよ?あ、羽多ちゃんも同じ中学だったから知ってるんだよね。」
春壱から聞いたのかな?すると、振り返った羽多ちゃんは、怖い顔していた。
「ひらりちゃんが、相田先生の妹だって知ってたら…………仲良くなんかならなかった。」
「え……?」
羽多ちゃん……?そんな風に言われたのに、意外と冷静な自分がいた。……なんとなく、出会った頃の春壱を思い出した。こんなに、あからさまな反応ではなかったけど……
「相田先生を使って、晴喜の事を縛るのやめてよ!晴喜が可哀想……。晴喜から離れてよ!」
春壱も最初は、こんな気持ちだったのかな……?こんな気持ちで、壁を作っていたのかな……?今となってはわからない。そんな事ばかり考えていた。
「あの、羽多ちゃん、晴君はもうお姉ちゃんの事は何とも……」
「じゃあ、ひらりちゃんは本気で晴喜が好き?」
「え?本気って?まぁ、友達としては好きだけど……」
ここで本気で好きって話だったらどうなるんだろう……修羅場?もしかして、もうこれが修羅場ってやつ?
「男としては?」
「えっと……むしろ苦手……」
「はぁ?苦手……?嘘言わないでよ!じゃあどうして苦手なのに一緒にいるの?苦手だったら一緒にいないでしょ?」
それは、ごもっとも!私はなんとか説明しようと試みた。
「羽多ちゃん、あのね、最初は私も晴君はお姉ちゃんの代わりに私といるんだって思ってたけど、今は代わりにはなってない。晴君、離れようとすると脅したりするから。多分、雛鳥が一番最初に見た人を親と思うあれ?あれなんだと思う。」
「はぁ?」
案の定、羽多ちゃんは理解できない。という様子だった……。
「あの、勘違いさせたなら謝るね。ごめん。でも、私は晴君の事好きじゃないの。晴君が何と言おうと、私は友達として晴君といるつもりだから。」
ここまでハッキリ言っているのに、羽多ちゃんの気持ちは変わらなかった。
「そんなの……信じられる訳ないよね?そんな嘘ついてまで私と仲良くなりたいと思うの?」
嘘ついてまで……?嘘はついてないけど、でも……
「なりたいよ。好きな人の好きな人だもん。好きになりたいよ。」
「好きな人の好きな人?意味わかんない。本当にあり得ない。」
羽多ちゃんは私を残して教室へ帰って行った。
……嫉妬は怖い。人を変えてしまう。嫉妬するのもされるのも…………嫌だ。
放課後、部活の時間になると、私は美術室にいた。私がスケッチブックに絵を描いていると、春壱がやって来て言った。
「やっぱりここにいた。ひらり、学祭の台本決まった。読んでみろよ。」
「読むけどやらないよ?」
「はぁ?まだやらないとか意地張ってんのか?」
意地とかじゃない。
「意地張ってる訳じゃなくて、私演劇部を辞めたんだよ?」
「あーそうでした。」
そう言って春壱は、乱暴に台本を隣の机に置いて去る。
私は春壱の後ろ姿を見て、ため息をつくと、慎ちゃんが話しかけて来た。
「結局、相田さん演劇部やめたんだ。」
「うん…………。」
「何か事情があって?」
「うん……まぁ……。」
少し間が開いて、慎ちゃんは言った。
「………白石?」
「え?慎ちゃんエスパー?」
「相田さんの天敵がわかっただけ。」
天敵。確かに、私の天敵は晴君かもしれない。
「あ……慎ちゃんにはわかっちゃったんだ……。どうしよう……」
「別に誰にも言わないよ。」
「違うよ。……慎ちゃんどうしよう!好きな人の好きな人が、私の天敵が好きで、私は好きな人のために好きな人と二人きりにしたけど、好きな人の好きな人は私と天敵の間を誤解してるの!」
私は一気に早口で慎ちゃんに説明した。
「相田さん落ち着いて。……説明に全然ついていけなかったよ。」
「じゃあ、隅に来て小声で話そう。」
私は教卓の後ろに腰を下ろして、慎ちゃんを呼んだ。
「何もこんな所で……」
「前に、好きな人の好きな人は好きになれるかって話したよね?」
「ああ、確か。」
慎ちゃんはスケッチブックを持ったまま、私は鉛筆を持ったままだ。
「好きな人のために、あ、ここだけは名前隠させて。」
「わかるからいいけど……。」
「羽多ちゃんが演劇部に入ってくれたから、しばらくは二人きりにしてあげようかな~とか思ったの。だけど、私がお姉ちゃんの妹だって知ったら、私嫌われちゃった。まぁそうだよね。お姉ちゃんの存在は……羽多ちゃんからしてみれば、晴君に取り付いた悪霊みたいな存在だし……。」
慎ちゃんは私の渡した鉛筆で何か書き出した。
「なるほど。それで好きな人の好きな人に嫌われたって話か。」
「そう……こっちが好きでもむこうが……」
「相田さんは、小河に嫉妬したりしないの?」
嫉妬か……この何とも言えない、少しモヤモヤした気持ちは嫉妬なのかな?
「嫉妬?わかんない。多分、しない。いや、全然しない。嫉妬より…………名前を呼べない事の方が苦しい。」
春壱~!と、気軽に話す事はなくなった。
「話かけられないって事?」
「そうゆう事になるのかな……?」
「小河に白石との事、事実を話したら?」
「話したよ。でも、信じてもらえなかった。こんなに虐められてるのに信じてもらえないなんて……逆にイラついて来るよ。」
私は髪をくしゃくしゃにしてモヤモヤを解消させようとした。
「相田さん落ち着いてよ。」
ふと、美術室のドアの前に人影が見えた。また、春壱?
「ひらりちゃんは…………」
「あ、晴君……。」
晴君は私と慎ちゃんが並んで座っている所を見ると、顔が曇る。
「ひらりちゃん、帰ろうよ。」
「うん、帰ろう。支度するから待ってて。」
私はとっさに慎ちゃんの手から鉛筆を奪って言った。
「片岡君、教卓の下の鉛筆、見つけてくれてありがとうね。私帰るね。」
「うん、さようなら。」
鞄を持ち、ふと、机に置かれた台本に気がつく。私は台本を手に持ち、美術室を出た。
「お先に失礼しま~す!」
「片岡と何話してたの?」
「鉛筆のオススメの種類聞いてたの。硬いのがいいか柔らかいのがいいのか。片岡君詳しいから。」
「ふーん。」
わざと慎ちゃんを片岡君と他人行儀に呼んだ。
「晴君は部活、どうだった?」
「ひらりちゃんがいなかったから気合い入らなかった。」
「…………私いなくても真面目にやってくれる?あのさ、委員会ない日は私、しばらく美術室に籠るから。美術部の展示に作品を間に合わせないと。」
「そっか…僕はクラスの出し物の手伝い頼まれてるから、学園祭までは離れ離れだね。」
「そうだね…………。」
微妙な空気が二人の間に流れた。
「…………嬉しい?僕と離れられて。」
「うん。いちいち嫉妬されてめんどくさいからね。」
「相変わらずムカつくね。」
「正直って言って。」
ふと晴君は、私の手に持っていた台本に気がつく。
「その手に持ってる物は?」
「ああ、これ、演劇部が学園祭でやる台本だって。春壱が読んでみろって持って来たの。」
急に晴君は立ち止まった。
「やっぱり…………嫌だな……。たとえ、ひらりちゃんが演劇をやる理由が春壱じゃなくても、春壱と同じ方向を向くのは嫌だ。」
晴君は川に台本を捨てた。台本は何枚も舞い散り、川に落ちる。
「なんて事するの!?やっていい事と悪い事があるよ!!これは絶対にやっちゃいけないこと!」
そう晴君に叫んだ私は、少し低い所から川の岸に飛び降りた。
荷物を置いて、紙を集める。靴のまま川に入って必死に拾い集めた。
「ひらり……?」
私がしばらく拾っていると、そこへ羽多ちゃん と春壱が通りかかる。
「お前ら何やってるんだ?」
「晴喜どうしたの?」
「ひらりちゃんが……川に……」
晴君はその場で立ち尽くしていた。
「おーい!何遊んでるんだよ!」
川に降りた私に向かって春壱は叫んだ。
「遊んでるように見える?!台本拾ってるの!!」
「何やってんだよ!台本落としたのか?!」
春壱は川に飛び降りて、近くまで来る。
「バカか!予備の台本がある。もう諦めろ。」
「バカだよ?だから?そうだとしても、台本をこんな扱いするなんて許せない……!!」
「はぁ?だったら落とすなよ!」
「…………。」
私は一瞬手を止めた。川のせせらぎが妙に大きく聞こえた。
「何だよ……。」
「だから…………春壱なんか嫌い。」
私は濡れた台本と鞄を持って川から上れる場所を目指す。
春壱はブロックをよじ登って、道路にあがっていた。私は三人を無視して、目の前を通りすぎて行く。
「ひらりちゃん……!」
晴君が追いかけて来た。私は一度振り返って言った。
「ついて来ないで!もう二度と私に関わらないで!元中三人で勝手に仲良くしてれば?!」
その言葉を聞いて羽多ちゃんは、追いかけて来る。
「ひらりちゃん!ちょっと待ってひらりちゃん!!」
羽多ちゃんは私の腕を掴む。私はその手をふりほどく。
「離して!私は敵の妹だから?だから何?何も知らないクセに、お姉ちゃんの事悪く言うな!お姉ちゃんは何も悪くない!みんな…………みんな大嫌い!!」
私は全力で走って、その場を離れた。




